第328話 異世界ドリスデン
女神セレーナは黒ずくめの2人を従者にした
2国間和平交渉会議20日目明け方。(大陸統一歴1001年11月2日5時頃)
アオイは、エリーの後ろの黒い影に反応し悲鳴のような声を上げた。
「……セレーナ様! 敵……」
真っ暗な広い空間にアオイの声が響いた。エリーの輝く光で後ろから近づく黒い影がぼーっと浮かび上がる。エリーは微笑みながらアオイを見ている。
「……!?」
アオイは慌てて腰の軍刀の柄に右手を出すが、エリーが左手を出して上から掴まれた。
「アオイ! 慌てるな! 敵では無い!」
エリーがそう言って、アオイの瞳を見つめる。セレーナの容姿をしたエリーに慌てた様子は無い。
エリーの後ろに立っている者達は、エリーと施設最下層で戦闘をしていた黒ずくめの長身の男性と、金髪女性だ。アオイは落ち着いて観察すると殺気は無い。むしろエリーに敬意を払っているように感じる。
「……! 大丈夫のようですね」
アオイは軍刀の柄に掛けた右手の力を抜いた。エリーはアオイの手から左手を離し立ち上がる。
「紹介しよう。新しい従者だ。こっちの女性がシエル、こっちのデカイ銀髪がランディ」
「……?」
アオイは戸惑った顔で2人を見つめる。2人は右膝を着き両手を床に添える。豊満な美しい金髪女性がアオイに声を掛ける。
「セレーナ様の従者となりました。シエル•スタリオンと申します。アオイ様よろしくお願い致します」
銀髪男性はアオイに微笑み言う。
「セレーナ様の従者となりました。ランディ•フィリップスです。アオイ様、今後ともよろしくお願い致します」
銀髪男性は大陸西部地方の端正な顔立ちで、イケメンだった。アオイは一瞬ハットして見惚れた自分を責める。
エリーはアオイの方へ視線を向けて説明を始めた。
「セレーナ様、これは一体?」
「あゝ、女神の紋章を刻んでやった。こっちのランディは死にかけだったが、なんとか治癒スキルで助けてやったんだが。脅威の回復力で今、この状態だ。シエルはかなり疲労はしていたが負傷はそれ程でも無かったから……、まあこんな感じだ」
エリーはそう言って、アオイの肩に手を添える。
「帰還を考えるより、今は体力回復だな。でないと安全な帰還は望めない」
「はい、そうですね。セレーナ様の見立ててではどのくらいで帰還出来ると?」
「……、向こうは、リサが頑張ってくれているだろう。ローゼも手を尽くすはずだ。問題は無いと思うが……、3日……いや、5日くらいか」
エリーは、明確には答えられなかった。アオイはゆっくり立ち上がり周囲を見渡す。ここは旧遠征軍の隠し砦の7層からなる最下層。
「内部はあの時のままです。時は経っていますが、外部からの侵入も無かったようです」
アオイはセレーナの容姿のエリーを見て尋ねる。
「……セレーナ様、お姿はそのままなのですね」
「あゝ、用件は終わった。しかし、エリー……、ローラが疲れているので休ませている。それだけだ」
エリーが答えると、アオイが少し嬉しいそうな顔をした。
エリーは新しい従者となった2人を見て、アオイに尋ねる。
「この2人が着れる適当な物はないか? これでは外に出れない」
「はい、上階層に保管庫、居住区が有ります。魔道具などの保管庫なので、時間は経っていますが使えると思います」
アオイは答えると、ゆっくり暗い空間を1人奥へ進んで行く。そして広い空間の天井に薄い光が灯る。300畳は有るだろうか。灰色の成形された石のようなブロックが綺麗に引き詰められた床面、壁も、天井も綺麗に整えられている。天井は10mほどの高さがある。天井に一定間隔で埋め込まれている照明器具。
「まだ、機器は動くようです」
壁の隅に移動していたアオイがエリーの方へ顔を向けた。
「ここは、400年前のままか? 劣化はあまり見られないようだ」
エリーが少し嬉しいそうな顔をした。エリーはアオイとの記憶帯共用で、すでに施設の概要が理解していた。そしてエリーの容姿が変化する。輝く銀髪が紫色に変わり、瞳の色が淡い朱色へ、顔が穏やかに変化して。体の形が変化する。
「ローラ様……? 雰囲気が……」
アオイが近寄りエリーの顔見て戸惑った。
長身のイケメン、ランディがエリーに跪き声を掛ける。
「エリー•ブラウン様ですね」
アオイはエリーの顔と体を眺めて、さらに困惑した顔をする。
「確かにローラ様ではないようです?」
エリーは、ここ最近は何時も隠蔽偽装スキルでローラ•ベーカーと認識させていた。この隠蔽偽装スキルを見破れるのは女神ローゼくらいしか存在しない。女神の紋章を刻み、従者契約を結んだ2人には情報を送っている。だから黒ずくめの2人は認識して敬意を示した。
アオイは女神の精神体を持っているが、その力はセレーナには遠く及ばないだから、認識出来なかった。
「……エリー様、ですね。これが本当の依代なのですね」
アオイは理解したようにエリーに言った。
「この事は秘密だよ。誰にも言っちゃダメですからね」
先ほどのセレーナの声とは違い、可愛い少女の声だ。ローラとも違う声のトーン、ローラの声の方が幾分凛々しい。
「はい、これからは、エリー様とお呼び致します」
アオイは黒髪に金色の瞳をで微笑んだ。
エリーは後ろを見て長身のイケメン、ランディを見て言う。
「ランディさん、フレッド隊長を運んでくれる。イバラキさんは私が運ぶから」
「はい、承知しました」
ランディがフレッド隊長の寝ている方へ向かう。エリーがイバラキの寝かされている方へ行こうとすると、黒ずくめの金髪女性シエルが慌ててエリーに声を掛ける。
「エリー様、私がイバラキさんを運びます」
「……! いいよ、私が運ぶよ。シエルさんちょっと刺激的過ぎるからね。イバラキさん……嬉しいかもしれないけど……」
「……?」
エリーは改めて黒ずくめの金髪女性シエルの全身を見る。タイトな黒いスーツが刺激的過ぎる。身長は170cmを越えセレーナより大きいバストサイズ、とにかく体を動かす度に揺れる胸に、エリーは少し苛立ちにを覚えていた。エリーはセレーナに変異すれば体の大きさ体型は変化する。そして今のエリーは、セレーナより胸は二回りほど小さい。
「シエルさん、理解して、ここは任せて」
エリーおもむろにイバラキを担ぎ上げる。イバラキは、まだ意識は混濁した状態で意思の疎通はまだ十分出来ない。
「シエルさんは、周囲の警戒をお願いしますね。ここが安全とは限りませんからね」
エリーが少し機嫌の悪い顔でシエルに言った。
「……はい、承知しました」
シエルは納得いかない顔で頷きエリー達の前出る。
アオイが壁際の昇降装置、エレベーターを確認している。
「アオイさん、階段で移動しましょう。閉じ込められたら面倒です」
エリーはそう言って、階段通路のドアを開ける。アオイは階段通路の照明灯のスイッチを操作すると、足元に薄暗い灯りが点灯した。
「では、上へ」
先頭にシエルが歩き、次に長身のイケメン、ランディがフレッドを両手で抱えて階段を上がる少し離れて、エリーがイバラキを背中に背負い、最後尾にアオイが続いた。
そして、階段を15mほど登ると、上階の入口ドアが現れた。シエルがドアをゆっくり開けて、上階フロア内を確認する。
「問題無いようです。気配等有りません」
シエルが振り返りエリー達に報告した。そして、全員が上階のフロア内に入った。アオイが前に出て通路を進み、1番奥のドアの前で手形意匠に手を合わせた。〈カッチャン、ウィーーン〉ドアのロックが外れた音がする。
「ここは保管庫です。衣服とか装備品が置いて有ります。残念ながら食料は上層部にありますが、多分無理だと思います」
アオイがそう言って照明灯のスイッチ操作する。50畳ほどの空間に棚が並んでいる。
ありがとうございます。