326話 魔女の正体25
エリーは緊急処置を行う
2国間和平交渉会議20日目未明。(大陸統一歴1001年11月2日3時頃)
ヒイズル帝国南部島より南へ300キロ離れた孤島、南海の魔女封印地。ここは封印の間下層5階層。
100畳ほどの室内は灰色の爆煙が立ち込め視界不良、エリーは神眼で状況を認識出来ていた。今、生体反応は壁際の黒ずくめの金髪女性しか出来ない。
エリーはリサに伝心念話をする。
〈リサさん! 只今より5階層を閉鎖、4階層障壁扉を全て閉じてください! 時間が無いので! お願いします! あと全員最上階へ退避!〉
《……はい、しかし、エリー様! 流石にしては……》
リサが躊躇した様子で念話した。
〈私なら大丈夫! とりあえず魔力防壁を押し返して処置します! 猶予が有りません! 急いで!〉
エリーは伝心念話でリサに強く指示を出した。破損したゲートから強大な魔力障壁が徐々にこちらに押し出ようとしている。もはや一刻の猶予も無い状態。エリーは素早く移動して壁際の黒ずくめの金髪女性を左腕で抱え上げる。そして魔力量を一気に上昇させた。
エリーが濃い紫色の粒子の光に包まれた。光は迸り周囲に拡散する。
(……しょうがない。一旦押し返して抜けるしかない)
エリーは覚悟を決めて、魔力量をさらに増大させて部屋の中央に大きな光の粒子を形成する。
〈リサさん! 障壁扉を閉じて、最大限の防御シールド展開してください! しばらく会えないかもしれませんが、よろしくお願いします〉
エリーが伝心念話でリサに語り掛けた。
《はいっ! どうかご無事で! ……》
そしてエリーは一気に破損したゲートの隙間に飛び込んだ。エリーと黒ずくめの金髪女性を包む光の粒子はゲート内部で空間一杯へ拡大、渦巻く魔力溜まりをじわじわと向こう側へ押し返す。エリーはさらに体の内部で練り上げた魔力を解放外部の魔力障壁へ供給して行く。
すでにエリーの深層からセレーナが浮かび上がり、エリーの支援をしていた。
(エリー! お前の力ではこれは無理だ! 私と変われ!)
(……うーーっ! そうだけど、わかった! じゃあ、お願い!)
エリーは瞬時にセレーナに意識を譲り渡した。そしてエリーの容姿が瞬く間に変化する。紫色の髪が輝く銀髪に、瞳が若干吊り上がり血のように赤い瞳、精悍な顔立ちに変化して体の至る所が隆起する。
そしてエリーの魔力量が際限なく増大して行く。地響きと共に前方の渦巻く魔力溜まりを押し返して行く。先ほどとは桁違いのパワーで。
ゲート奥のトンネルをエリーは魔力溜まりを押し返しながら200mほど進む。そして凹地が現れる。直径50mの凹地の中に30mほどの球形の柔らかそうな虹色に輝く半透明な物体があった。その中にアオイとイバラキが完全に取り込まれ、徐々に、光の粒子の淡い光に包まれ姿が消えようとしていた。
セレーナの容姿のエリーは慌てて魔力障壁を纏いその球形の中へ分け入ろうとするが、反発して変形するだけで球体の中へは入れない。
セレーナは意識の中のエリーに尋ねる。
(エリー……、助けたいか? どうする?)
(もちろん助けたいです)
精神体のエリーが迷わず答えた。
(そうか、わかった!)
セレーナは答えると、体を包んでいた魔力障壁を解除、担いでいる黒ずくめ金髪女性と一緒に虹色に輝く半透明の球体の中へ飛び込んだ。今度は反発することなく、エリーと黒ずくめの金髪女性を内部に受け入れエリー達は中心へ沈んで行く。
エリーは球体の中でアオイとイバラキに接近する。そして直ぐに球体の中の全員が光の粒子化して見えなくなった。
◆◇◆
ここはヒイルズ帝国本島南東海上。ヒイルズ派遣艦隊、護衛駆逐艦2番艦ブリッジ内。
ブリッジには10名ほどおり、当直士官とその隣にはソアラが立っていた。
ソアラは突然、不機嫌な顔をして声を漏らす。
「……えっ! 何?」
隣にいた当直士官が驚いて声を掛ける。
「ソアラ様! どうかされました!」
「いえ、アテナ号へ通信をお願いします」
ソアラが直ぐに通信士へ声を上げる。
「はっ! アテナ号へ繋ぎます!」
通信士はソアラに答えると直ぐに端末操作して、アテナ号へ無線を繋ぐ。
航海士官がヘッドセットを持ってソアラのそばに来て敬礼する。
「ソアラ様! どうぞ!」
ソアラは一礼してヘッドセットを受け取ると、髪をかきあげヘッドセットを耳にかぶせる。
「こちら、皇帝護衛隊魔導士、ソアラです。アテナ号艦長、トーラス艦長をお願いします」
『はい、了解致しました。直ぐにお繋ぎします』
少し間を置いてトーラス艦長から返信が入る。
『ソアラ殿、何か? 緊急ですか? 現在、作戦支援のため、航行中です』
「トーラス艦長、周囲に誰もいないところへ移動願えますか」
ソアラは通信士のそばに寄ると小声で指示を出す。
「トーラス艦長と直通回線に切り替えてもらえますか」
「はい、了解致しました」
通信士はそう答えて端末を操作する。
「大丈夫です。お二人の会話が聞かれることはありません」
通信士はソアラに一礼した。そしてソアラはブリッジの端へ移動して通路の影へ入った。
「トーラス艦長、実は先ほどローラ様の反応が無くなったのです……」
『……ええっと? それはどう言った意味なのでしょう』
無線向こうのトーラス艦長が少し戸惑った反応をした。
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