第325話 魔女の正体24
エリーは黒ずくめ達と戦闘する。
2国間和平交渉会議20日目未明。(大陸統一歴1001年11月2日3時頃)
ヒイズル帝国南部島より南へ300キロ離れた孤島、南海の魔女封印地。ここは封印の間下層5階層。
エリーと黒ずくめの金髪女性の戦闘は続いていた。エリーは軍刀の牽制を使い、足蹴りを黒ずくめの金髪女性の腹部へ入れる。黒ずくめの金髪女性は半身引いてかろうじて直撃は避けたが、ダメージは受け整った顔を一瞬歪めた。
そしてよろめき壁に背中をぶつけた。黒ずくめの金髪女性はショートソードを下へ振り下ろし、エリーの刀身を受け止める。
エリーは黒ずくめの金髪女性の顔に一瞬、顔を近づけ瞳を大きく開ける。
「どうですか? 終わりにしませんか? 命は取りません。だから」
黒ずくめの金髪女性はそれを拒否するように、最後の魔力を振り絞り身体強化してエリーの軍刀を弾きエリーを下がらせた。
黒ずくめの金髪女性にもエリーの戦闘実力が遥かに自分を上回っている事は、すでに長時間交わる中で十分理解していた。なのに遊んでいるように剣を交えるだけ、用心しているのだろうが、理解出来なかった。エリーの剣撃は黒ずくめの金髪女性がギリギリ認識出来るスピードで打ち込まれ、たまに間に拳と蹴りの攻撃が入って来る。黒ずくめの金髪女性は完全に弄ばれていると思うしかなかった。
エリーは決して黒ずくめの金髪女性を弄んで訳では無かった。エリーはこの金髪女性の情報を欲しかっただけで、戦闘能力、目的等の情報を引き出し敵の正体を知りたいそれだけだった。
エリーは黒ずくめ金髪女性の剣の技量を見極めながらそれに難なく合わせていく。
黒ずくめ金髪女性はどんどん疲労感が増して、体のキレがなくなり、防戦一方になった。
黒ずくめ金髪女性は肩で息をして、体が限界付近に達しようとしている事を気づいているがどうしようもない。この島へ上陸した当初は、ここまで自分が追い込まれる相手が存在していようとは思いもしなかった。
(……こ、こ、のままでは、終わる……)
黒ずくめ金髪女性は徐々にエリーの剣撃を受け、避けながら集中力が低下している。そして体が自分のイメージの動作に追随出来なくなって来ていた。
《エリー、様! ……突破されました! 申し訳ありません》
戦闘中のエリーにリサの伝心念話が突然入った。
〈えっ! どう言うこと! 突破されたって!〉
エリーは慌ててリサに伝心念話を返す。
《決して油断していた訳では……、並のものではありません! あっさり私の横を通過して下層へ向かっています! 注意してください! 私は障壁維持のため動けません。申し訳ありません……》
リサの動揺した様子が伝心念話から伝わってくる。
〈了解です。こちらで対処します。気にせず役目に専念してください〉
エリーはリサに答えると、目の前の黒ずくめ金髪女性との戦闘しながら考える。
(たぶん……ニコルさんを負傷させた相手ですね。厄介……。中にいる皇帝護衛隊では相手にならないでしょう)
エリーは上段から今までより早く威力を上げた斬撃を黒ずくめ金髪女性へ打ち込む。黒ずくめ金髪女性はショートソードで威力を逸そうと外へ刀身を合わせて全力で振り払う。その瞬間エリーの右足の魔力を込めた蹴りが、黒ずくめ金髪女性の腹部へめり込んだ。エリーの蹴りは身体強化した上に打撃スキルが付与されていた。
「ぐーーふぁっーーああ」
黒ずくめ金髪女性は壁に背中を打ちつけ、呻き声を上げ口から液体を吹き出した。そして壁沿いに体をズルズルと滑らせ倒れ込んだ。エリーは直ぐに反転すると10mほど移動、階段通路口を見据える。
エリーは左手を挙げてイバラキへ指示をする。
「備えて! 新手が来ます!」
エリーの声に反応して、イバラキは前に出ると、軍刀を上段に構えて階段通路口を警戒した。
「了解!」
イバラキは横目に黒ずくめ金髪女性を確認する。壁際に横に倒れ意識を失い動けない様子だった。
(ローラ様……だいぶ抑えているようだったが、やはり凄いな。少し本気を出せば、簡単に黒ずくめの女がのびている……、やはり逆らえる相手じゃないな)
イバラキはそう思って階段通路口へ意識を集中する。そして階段口から黒い影が飛び出して来た。黒い影は一直線にエリーに驚異的なスピードで到達、剣撃を放ち、直ぐに拳銃の〈パン、パン〉」乾いた発射音。エリーに斬撃を避けられて、黒ずくめの男性が至近距離で発泡したのだ。もちろんエリーに銃弾が当たるはずもなく、発射した銃弾はエリーの直前で潰れて床に勢い無く落下した。
黒ずくめの男性は長身だった。エリーは5mの距離で見上げる。エリーと20cmほどの身長差。細身で締まった良い体つきをしている。
黒タイトなスーツが体型を強調する。明らかに男性だ。そしてエリーは黒ずくめの男性の下半身を見て嫌な顔を一瞬する。
「……よくもまあ……」
エリーは直ぐに後方へ飛んで間合い広げる。黒ずくめの男性が声を上げる。
「あなたが、べランドル帝国のローラさんですね! まさかここに来ているrとは! 情報はガセでは無かったのですね」
エリーは軍刀を右斜下段に構え黒ずくめの男性を見据える。
「なかなかですね! 私の部下がお世話になり、お礼をしなければなりません」
黒ずくめの男性は拳銃をホルダーに素早く収めると、ショートソードを両手で構えてエリーに言う。
「我々がここまで、やられるとは、本物ですね! ローラさんの実力は! 隊長が無様にやられている……、ホント……凄い、凄い、隊長が泡吹いて倒れているなんて、ざっまあないです」
黒ずくめの男性の声が嬉しいそうに聞こえる。エリーは仲間が倒れているのに何処か嬉しそうな黒ずくめの男性に違和感を感じていた。
エリーは直ぐに異常に気づく。黒ずくめの男性が魔力量を増大させて、紫色の光に包まれショートソードが紫色の炎ような光で迸り始めた。エリーが黒ずくめの男性に向かって慌てて悲鳴のような声を上げる。
「ダメ! ここでは! そんな! ダメ!」
エリーは直ぐに魔力量を増大させて周囲に防御シールドを展開させようとする。だが黒ずくめの男性は瞬時にエリーへ物凄いスピードで間合いを詰めると、膨大な魔力を乗せた斬撃を放った。
〈ボカーン、ドーーン〉
強烈な発光と猛烈な爆風が発生して周囲のものを吹き飛ばす。そして激しい振動。
エリーは吹き飛ばされたが、壁に当たる直前にセレーナの危険感知防御シールドが展開され無傷だった。周囲は爆煙で視界が悪く状況が把握出来ない。エリーは感知スキルを発動周囲を確認する。
(……!? マズイ……)
エリーは顔を強張らせて、ゲートの方向を見つめるが何にも見えない。
エリーは神眼を発動して真っ赤な瞳で1番奥のゲートを視感する。
「……どうしょう!? これは手に負えるの……」
エリーは動揺した顔で言葉を漏らした。
5層の物理ゲートのロックの鉄板が無残に破壊され、丈夫な50cm厚の金属ゲートが奥に1mほどズレていのだ。そしてゲート横の魔導装置回路の異常も見られた。
そして開いているゲート近くに飛ばされていた、アオイがよろけながら立ち上がりエリーの方を見る。
「ローラ、様! 大丈夫ですか!?」
エリーは青ざめた顔をして、アオイに叫ぶ。
「早く! そこから離れて! 危ない!」
「……?」
アオイは戸惑った顔でエリーを見つめる。そして後ろを振り返ると、ゲートの方向へ引っ張り込まれるように吸い込まれる。一瞬だった。
アオイの姿は消失した。エリーは驚愕の表情をしてゲートを見つめている。そしてアオイの消失を見ていた、イバラキが横の瓦礫の影から飛び出しゲートの前に立つ。
「イバラキさん! 危ない!」
エリーは慌てて声をイバラキに掛けたがもう手遅れだった。イバラキも一瞬にして消失した。
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