第323話 魔女の正体22
エリーは侵入者と戦闘をする
2国間和平交渉会議20日目未明。(大陸統一歴1001年11月2日3時頃)
ここはヒイズル帝国南部島より南へ300キロ離れた孤島、南海の魔女封印地。
北トンネル内部封印の間下層4層階段内部に正体不明の集団の侵入を許していた。エリーは侵入した黒ずくめの集団と戦闘中であった。
エリーは黒ずくめ集団に対して苛立ち声を上げる。
「あなた達! 何をしているかわかっているのですか!」
エリーはこの施設内では魔力を大きく解放して使うことが出来ず苛立っていた。
(……せっかく構築した障壁結界を壊したら、元の子もない……)
戦闘により4階層の階段室石壁が所々破損して落下する。2人が交互に入れ替わりショートソードで剣撃をエリーに加える。黒ずくめの5人組もエリーが強者と理解しているので強くは仕掛けて来ない。エリーは軍刀に魔力を通して、難なくその剣撃をいなす。
「まあ、銃撃をしないだけ褒めてあげましょう!」
エリーは黒ずくめの集団に声を上げる。エリーはタイトな黒いスーツに少しだけ感心していた。鍛え抜かれた無駄の無い美しい筋肉美が垣間見ることが出来たからだ。特にリーダーらしき女性の体型は美しく見えた。
(……でも、ちょっと体のラインがハッキリ見え過ぎですね。ハズかしくて私はとても着れませんね!)
エリーは軍刀を狭い階段通路内で振るい、黒ずくめの女性のショートソードを弾き返した。
黒ずくめのリーダーらしき女性があざけるように声を上げる。
「そろそろ奥へ進みたいのですが! 道を譲って頂けませんでしょうか!」
エリーは軍刀でショートソードの剣撃を弾き返してすかさず答える。
「人の家に土足でドカドカ入り込んで、その言い草はいかがなものかと! さっさとお帰りください!」
エリーは苛立ち混じりに声を上げる。皇帝護衛隊も3階層から黒ずくめの5人組へ攻撃を仕掛けるが、狭所での戦闘に長けており近づけない。エリーは軍刀を丁寧に扱いながら戦闘を行い、この黒ずくめの5人組がなかなかの使い手であることは直ぐに理解した。そしてニコルの応援も無いことから、この黒ずくめ集団は他にもこの島へ上陸したことも理解した。
「……これじゃあ、埒が明かないね」
エリーは呟くと軍刀を両手で握りしめて階段を下へ退く。魔力を軍刀の刀身へ集中させ紫色の光が迸ると、階段通路全体に魔力シールドを展開、斬撃を上段から放った。そして紫色の光の斬撃波が黒ずくめの5人へと到達。激しい光の拡散と爆裂音がする。
エリーは構わず、階段を駆け上がりさらに距離を詰める。エリーは階段に倒れている黒ずくめの2人を見てガッカリした顔をする。
「……あれで、2人か……、ほんとやりにくいですね」
エリーは周囲を魔力シールドで周囲を覆い、自分の魔力で施設を壊さないよう保護していた。黒ずくめの残った3人はそれほどのダメージを受けていない様子だった。
(……加減しているけど。なかなかの装備と実力を持っているのは間違いない)
エリーは黒ずくめの女性リーダーを見据える。そして目出し帽の間から鋭い眼光が注がれる。
「……魔女を引き取りに来ただけです! 無駄とは思いますが! 大人しく引き渡して頂ければ……我々は撤収致します」
エリーは軍刀を中段に構えると、呆れた顔をして答える。
「あなた達こそ、理解していますか!? ここがそう言うところか? 取り返しのつかない事になりますよ! その様子だと知らないようですね」
「……?」
黒ずくめの女性リーダーはふっと息を吐き、エリーに殺気を向ける。今までエリーは感じなかった感情。エリーは少し嬉しそうな顔をして黒ずくめの女性リーダーを見つめる。
「でも、ここから先は通せません」
エリーは戦闘中ずっと思考を巡らせていたが、答えが見つからない。
(私は、甘かったのでしょうか? このような襲撃を受けるとは予想外。大陸には私達に敵対する勢力はいないハズなのに? プルシアン? ヒイルズ? ヤマノ? 調査した限りでは脅かすような組織も集団もいなかったハズなのに……。今この状況は、明らかに危機ですよね。そして、私達が全力で戦えない事を知っている……。もしかして世界の終わりをとか考えていないですよね!)
エリーは黒ずくめの3人を斬撃を放ちながら後退させた。
◆◇◆
ここは北のトンネル施設手前500mほどの森の中。正体不明の黒ずくめの男にニコルは残りの魔力を絞り出し一撃を加えようとしていた。
黒ずくめの男は瞬時にニコルの前に瞬間移動したかのように現れると、ニコルの腹部に激痛が走った。
「ぐーーっっはあ」
ニコルは3mほど後方へ飛ばされ仰向けに倒れ込む。男が直ぐにニコルの前に立ち顔を覗き込んだ。
「無茶しますね。そんな魔力の使い方したら、あなた死にますよ」
男はそう言って周囲を警戒しながらニコルを抱き起こす。ニコルは動こうとするが体に力は入らず男のなすがままだった。男はニコルを軽々と抱えると木々の間に運んで、優しくゆっくりと地面に下ろし寝かせた。
ニコルは意識は朧げながら有り、抵抗しようと手足を動かそうとするが動かない。男はニコルの戦闘ヘルメットを脱がせてニコルの顔をマジマジと見る。
「……予想通りの美人でした。あなたは死なせるには惜しい。かと言って実験体として連れ帰るのも可哀想です」
ニコルは虚な顔で男の顔を見つめる。男の言っている言葉の意味が理解出来ない。男はしゃがみ込み。ニコルの戦闘服のジッパーを引き下げる。そしてインナーを上へ捲り上げた。
ニコルは虚な意識で男の行動が何をしようとしているか予想して、空虚感と嫌悪感に包まれる。
(……なんで……、あの時死んでいれば……)
ニコルの茶色の瞳が潤み、言葉を発しようとするが唇が少し動くだけで声が出せない。男は構わずニコルの腹部を軽く抑えて、自分の手袋を外すと紫色に変色した脇腹を両手で振れる。
男の両手が白く発光してニコルの腹部の痛みが和らいでいく。
ニコルは虚な顔で視線を男の方へ向けようとするが首が動かない。今、男が何をしているのかわからない。
(……、体の自由が効かない……戦場ではあることは知っていた。まさか自分がこんな恥辱を受ける身になるとは……私は慢心していたのですね。想像もしてなかった……」
ニコルの茶色の瞳から涙が溢れる。男はニコルの顔を見て目出し帽の瞳が僅かに動揺する。
「患部は癒した。それにマナも補充したから命の危険性は無い。しばらく動けないが味方が発見してくれるだろう」
ニコルは男の言葉の意味が理解出来なかった。男はそう言うと、ニコルのインナーをおろし戦闘服のジッパーを上げた。そして男はニコルの腰につけている無線機のスイッチを操作して立ち上がる。
「それじゃ、お嬢さん。また会える事を」
そして男は黒い影のように姿を瞬時に隠し見えなくなった。
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