第318話 魔女の正体17
エリーは施設修復の準備を始める
2国間和平交渉会議20日目未明。(大陸統一歴1001年11月2日1時頃)
ここはヒイズル帝国南部島より南へ300キロ離れた孤島、南海の魔女封印地。
先ほど南部飛行場にフレッド•グレバドス率いる魔導隊が搭乗のランカーⅢが到着して隊員達が作業の準備をしていた。
フレッド•グレバドス隊長、アンドレア魔道師団第1部隊隊長、レベッカの実兄である。現在大陸広域即応部隊として大陸各地を飛びまわっている。フレッド隊長はレベッカに似て顔立ちも整って美形である。今回の任務部隊はアンドレア魔導師団ブライアン少将にエリーが相談した結果、フレッド隊長へ任せる事になったのであった。ブライアン少将曰く、フレッド隊長は元弟子、妹の出世に焦りを感じているとのこと。その状況をエリーが改善して欲しいとの事だった。エリーは思った。
(……少し、迷惑な話しだな。まあ、レベッカさんも、リサさんも大切な仲間ですから、なんとかしてあげたいですが。お兄様は私の好みでは無いんですよね……。自信を回復させてやる気を起こさせるか)
エリーは北山防衛本部から直ぐに南部飛行場へ戻って来て魔導隊と施設修復の打ち合わせを行う。
管制プレハブの隣に20畳ほどの野営テントが設営されその中で打ち合わせを行っていた。
魔導隊の主だった士官とエリー、リサ、アオイの7人ほどがテーブルを囲んでいる。
まずフレッド隊長がエリーに挨拶をする。そして詳細な内容の話しが始まった。
エリーが立ち上がり一礼する。
「まずは、ここの施設は秘匿重要施設です。あらゆる事項は口外してはなりません。4カ国情報協定に基づくトリプルS認定事項に該当する案件であることをお伝えします」
エリーの言葉を聞いてフレッド隊長以下魔導隊士官達が真剣な顔つきになる。4カ国情報協定とはグラン連邦、ベランドル帝国、アンドレア、ベルニス4カ国による情報協定である。共同作戦時の情報の共有及び機密保持等を細かく規定している。今回の作戦は全て秘匿事項であり、自分達の行った作戦行動は表面上の記録に残らないと言うことだ。
リサが立ち上がり一礼すると微笑み言う。
「皆さんは心配される必要は有りません。作戦完了後、私が記憶操作とワードロックを行いますので……、ご安心ください」
フレッド隊長がリサを見て嫌そうな顔をして嫌味を言う。
「リサ様も偉くなられたものですね。私に術式を掛けると……、まあ……以前より格が上がったような気がしますが」
過去、確かにフレッド隊長はアンドレア魔導師団ではブライアン師団長に次ぐ実力者ではあった。だが今は違う。リサはエリーとの契約により女神セレーナの加護を持ち、カミュの分身体を内包して準女神級の力を持っている。その力は魔導師団長ブライアン少将を遥かに上回る。そのことは薄々フレッド隊長は気づいていたが面白くは無かった。そして妹であるレベッカも女神の加護を持っている事をブライアン師団長から聞いており不公平だと内心思っていた。だから今回の作戦任務のは人方ならぬ思いがあった。そうローラに気に入られ契約を結ぶ事。
リサはフレッド隊長の言葉を聞いて悲しい顔をする。
「……フレッド様……私は、今でも尊敬しているのです。昔、初めてお目に掛かった時どんなに心が躍ったことか」
フレッド隊長は一瞬エリーの顔を見てハッとしてリサに謝罪する。
「……あゝ、すまない。意地悪な言い方をした。上席魔導士が術式を行うのは当然の行為。謝罪する」
そう言ってフレッド隊長は頭を下げた。頭では理解しているが気持ちが従わないフレッド隊長。エリーはフレッド隊長の様子を見て微笑み声を掛けた。
「フレッドさん、今回の任務は重要です。ミスは許されません。なので、要望等があれば事前にお願いしますね。……あと、意思の疎通は確実に」
フレッド隊長はエリーを見て頷き答えた。
「はい、ローラ様、承知しております」
エリーはリサを見て念押しする。
「魔法障壁は問題無いですね」
「はい、3重に展開しております。会話の内容を認識される恐れは有りません」
リサは微笑みエリーに答えた。エリーは椅子に座ると部屋のメンバーの顔を眺めて口を開いた。
「ここの地下施設は魔女を封印した施設だと言われていますが、それは違います。知っている方もこの中におられると思いますが……。ここは異次元世界に繋がるゲートを守護する場所結界の地です。魔女はゲートを守護管理する者でした。今回、その守護者を排除したため問題が生じました。短期的には魔導回路を再起動して弱まった分の魔力を注入したことで凌いでいますが、根本的には魔導回路、魔導装置の設置と修復調整が必要になります。そして、なぜ魔導隊がここへ派遣されたかは、単純に魔力耐性があるからです。ここの魔力量は多く防護服を着込んでも常人では耐えられません。よってフレッドさん以下魔導隊がここへ呼ばれた訳です」
フレッド隊長はこの島にどのような島なのか大方は知っていた。だが守護者が排除されたとはどう言うことなのか理解出来なかった。フレッド隊長にとってゲートとは危険な存在と言う認識しか無かったからだ。フレッド隊長はエリーに尋ねる。
「……ローラ様、守護者は女神級のはずですし、警護体制も厳重にされていたはずでは?」
「……ええ、詳しくは申せませんが、勘違いした連中がやらかしたとだけ」
エリーが少し悲しそうな顔をする。
フレッド隊長は頷き言う。
「厄災の魔女の逸話を信じたのですね。愚かななことを!」
そう言うとフレッドはテーブルの上に置かれた図面を見る。
「最下層にゲートがあるのですね」
「ええ、そうです。最下層のゲート前は何が起こるわからないので、細心の注意が必要です」
エリーは地下施設の図面を指してフレッド隊長に答えた。そしてリサがエリーに言う。
「……とりあえず、損傷した魔導回路を修復して障壁を安定させることが先ですね」
「そうですね。魔力暴走させたら厄介ですからね。」
エリーは図面を見ながら考える。
「……400年前か……」
エリーはテントの端に置かれている。テーブル上の無線電話を取る。
「……イバラキさんを呼んでもらえますか! 至急です。はい、こちらに! お願いします」
エリーは無線電話で慌ただしく要件を伝えると、リサを見て機嫌の悪い顔をする。そしてアオイの顔を見る。
「アオイさん、ちょっと……」
エリーは立ち上がりアオイのそばに近づき小声で話す。
「もしかして、崩壊が始まっていました?」
「はい、持ち堪えて10年かと」
アオイは平然とエリーの顔を見て答えた。
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