第316話 魔女の正体15
プルシアンの閣僚達は今後について話した
2国間和平交渉会議20日目夜遅く。(大陸統一歴1001年11月1日23時頃)
ここはプルシアン共和国首都、バンド市中心部大統領府内。
50畳の会議室内で8人ほどの男達が大きなテーブルを囲み会議をしていた。
白髪短髪の老人が鋭い目つきで、貫禄のある40代後半の男性を見つめる。
「海軍の暴走には困ったものだ。ベランドル帝国、グラン連邦の介入を招き、主力艦2隻を失い、多くの海軍将兵も失った。大陸の英雄ローラが出てきた……、魔女の奪取にも失敗。」
貫禄のある男性は狼狽した様子で白髪短髪の老人を見る。
「……何をおしゃりたいか理解出来ませんが……?」
白髪短髪の老人は貫禄のある男性を指差す。
「保安隊! 海軍本部長ギリス大将を国家反逆罪で拘束せよ!」
会議室の扉が開かれ、武装した兵士が10名ほど雪崩れ込んでくる。兵士達は各々に拳銃を構えて、貫禄のある男性に向ける。そして責任者らしき士官が前に出ると声を上げる。
「国家保安隊である! 海軍本部長ギリス大将! 国家反逆罪により逮捕する! 大人しく従ってください! 抵抗する場合はそれなりの処置を行います」
保安隊士官はソファに座る貫禄のある男性を鋭い目つきで見据えて拳銃の安全ロックを外す。貫禄のある男性はソファから立ち上がり両手を上げて白髪短髪の老人を見る。
「……これは……! もはやこれまでと」
反対側に座る白髪短髪の老人は貫禄のある男性を見つめる。
「……しくじった、それだけだ」
そうポツリと言うと、保安隊将兵2人が貫禄のある男性の両手を掴みテーブル側より引っ張り出す。
「キサマら! 私が誰だか承知しているのか!?」
貫禄のある男性が声を上げると、傍についた保安隊下士官が言う。
「ええ、反逆罪で逮捕されたギリス大将閣下ですよね。お名前を間違えましたか?」
保安隊下士官が嫌味っぽく貫禄のある男性に言った。
「……あゝ」
貫禄のある男性は気落ちして大人しく保安隊に会議室の外へ連行されて行った。そして会議室には保安隊将兵が8名残っている。白髪短髪の老人は次に反対側に座っている50代のインテリ風の細身の男性を見つめる。
「……君には失望しました。残念です」
インテリ風の細身の男性は視線を白髪短髪の老人に向ける。
「……ええ、私が不利益を、そんなはずはないはずですが」
インテリ風の細身の男性は冷静さを無理に装って言葉をゆっくりと発した。
「国家情報局ターン局長! 君は裏で画策し海軍を唆し今回の事件を引き起こした首謀者だ。断じて見過ごすことは出来ない! よって現職を解き国家反逆罪で拘束するものとする」
白髪短髪の老人が目を細めてインテリ風の細身の男性に言い放った。インテリ風の細身の男性は戸惑い顔を強張らせてソファから立ち上がり白髪短髪の老人に詰め寄ろうとするが、保安隊将兵3人に押さえつけられ床に組み伏せられた。インテリ風の細身の男性は顔を上げ声を上げる。
「こんなことが! まかり通るはずが……ルベリア閣下! あれほどやったと……」
インテリ風の細身の男性の頭を保安隊の下士官が手で打ちつける。
「ぐっーーハア!」
インテリ風の細身男性は声を上げて大人しくなった。保安隊責任者の士官が拘束している将兵3人に指示を出す。
「連れて行け!」
「はっ!」
保安隊将兵3人はインテリ風の細身男性を抱えて引きずるように会議室から出て行く。そして保安隊将兵は5人が残った。しばらくして部屋の外で銃声が連続して聞こえる。
〈パン、パン、パン〉
会議室にいた白髪短髪の老人以外が顔を見合わせて強張った顔をした。
「気にするな。中央にいながら国家を危うくした者共だ。君達はひとりを除いて心配する必要は無い」
「……ひとりを除いて?」
テーブルを囲む者から声が漏れた。
白髪短髪の老人は視線を保安隊責任者の士官に向ける。保安隊士官は頷き移動して白髪短髪の老人の隣りに座る50代前半のガッチリした男性のそばによる。
「大統領主席補佐官、兼国家内務局、スミヤ局長。ご苦労様でした。これからはその職務、私が引き継ぎますのでご安心ください」
保安隊士官がガッチリした男性の耳元で囁いた。ガッチリした男性は驚き保安隊士官の顔を見る。保安隊士官は軍帽を脱ぎガッチリした男性に頭を深く下げる。
「……君は!? トレセ中佐……」
ガッチリした男性は声を漏らす。そして保安隊士官は合図すると保安隊将兵3人がガッチリした男性を抱えて立たせる。
「大統領……私は罪を犯していません。私は大統領の忠実な部下だったのです……」
隣りの白髪短髪の老人を悲しそうな顔でガッチリした男性は見つめて言った。
「残念だ。君は国家情報を他国に漏らした。機密情報漏洩罪だ。本当に残念だ」
白髪短髪の老人は視線を向けず淡々と言った。ガッチリした男性は視線を床に落として呟く。
「……役に立てるのなら、良いです……」
ガッチリした男性は保安隊将兵3人が周りを囲まれトボトボと連行されて出て行った。
そして保安隊責任者士官は空いたソファの前に達、残った閣僚達に頭を深く下げる。
「私は、新たに大統領主席補佐官を仰せつかりました。保安隊副隊長、イサック•トレセと申します。以後お見知り置きをお願い致します」
前に座る4人の閣僚達は顔を引き攣らせてトレセ新任主席補佐官を見つめる。茶色の短く刈り上げられた髪、身長は175cmくらい、瞳は茶色で一見優しく見えるが、奥は冷たく光っている。顔は整い一般的にはイケメンと呼ばれる顔立ちをしている。まだ30歳ほどにしか見えない風貌。今回、白髪短髪の老人、大統領ルベリアによって抜擢された人材だ。
白髪短髪の老人ルベリア大統領は全員を見渡し言葉を発する。
「では今後について話しをしよう。まず、我が国の失態については海軍演習中の事故として処理することに決まった。なお、作戦に参加した将兵にはかんこう令を徹底する。各個人に至るまで署名させる。そして漏らした場合、厳罰を持って処置する。ベランドル帝国、グラン連邦に対し書面による謝罪はすでに行なっている。今後、極秘裏に賠償も発生するが、まあ、今ではない。私が直接、ベランドル帝国、グラン連邦国へ訪問謝罪することにしている。今、従順の意を表明すれば、戦争には至らないとのことは、ベランドル帝国マーク宰相から外交通達があった。我が国はベランドル帝国、グラン連邦国の決定に従うと伝えてある」
スキンヘッドの50才くらいの男性が補足する。
「ベランドル帝国から2日後、外交使節団の訪問が予定されています。詳細はその時決定されるものと」
白髪短髪の老人ルベリア大統領が頷き隣りの主席補佐官トレセに囁く。
「魔女はどうなっている? 情報はあるか?」
「はい、まだ島にいるものと」
トレセ主席補佐官は小声で答えた。
「よいか! 我々は大人しく大陸列強の傘下に入るつもりは無い! 手はある! あの厄災の魔女ドーラ•アクーニャをこの手におさめれば」
ルベリア大統領のテーブルの反対側の閣僚達が驚いた顔をする。
「……!? しかしそれは困難かと……」
閣僚のひとりが声を上げた。
「あゝ、たとえ大陸の大魔導士ローラがいようとも、心配無用だ! ここは海に囲まれた地! 我が海洋国家最強部隊を送り込み島を、そして魔女を奪取してみせる」
ルベリア大統領は自信満々に宣言した。そしてトレセ主席補佐官が頷きルベリア大統領に言う。
「では……作戦始動致します」
「頼む。失敗はあり得ないらな」
「承知しております」
そう言ってトレセ主席補佐官は立ち上がり頭を深く下げると会議室から出て行った。
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