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第310話 魔女の正体9

プルシアンへの攻撃準備が進む。

 2国間和平交渉会議20日目午前。(大陸統一歴1001年11月1日10時頃)


 ここはクリフォード王国湾岸都市ドミカ市郊外グラン連邦国軍補給飛行場。


 ランカーⅡ2号機が爆装コンテナを装着して離陸体制に入っていた。ランカーⅡ2号機機長ビアンカがコックピット内で慌ただしく機器チェックをしていた。


「こちら第1特別派遣航空隊! 管制! 只今より離陸する!」

 ヒアンカ機長が管制に呼び掛けた。 


『こちらクリフォード管制区! 離陸許可! 目標空域天候安定問題無し! お気をつけて』


「了解です!」

 ランカーⅡ2号機の目の前に立っている誘導員が旗を振って合図するとビアンカ機長は敬礼して答えた。

 ビアンカはスロットルレバーを操作してプロペラ出力を上げランカーⅡ2号機の機体をゆっくり離陸上昇させた。


 ビアンカ機長は隣りの副機長ルドルフに頷き確認する。

「……! ポイント座標確認! これより出撃する!」

 ビアンカ機長が声を上げる。灰色のランカーⅡ2号機は方向を海側に向けると可変翼の角度を変更してスピードを上げ飛行を始める。そして徐々に加速して見えなくなって行く。


 ランカーⅡ2号機、コックピット後方の席にいる通信士がビアンカ機長に報告する。

「機長! ポイント到着時刻1120! 規定高度到達後、速度470キロ維持でお願いします」


「了解! レーダー士! 誘導信号は補足しているか!」

 ビアンカ機長が通信士の向かいのレーダー士に声を掛けた。


「はい、問題無し! イーグルリーダーから敵艦隊データーリンクにて補足しています」

 レーダー士がビアンカ機長に答えた。ビアンカ機長はヘッドセットを耳から首にずらして副機長ルドルフを見て言う。


「とりあえずポイントまでは副機長に任せる。私は軍港の侵入ルートを確認するから」

 そう言ってスイッチを切り替え操縦を副機長側へ移行させた。ビアンカ機長はベルトを外すと通信士の横の情報端末モニター前のシートに移動した。



「ビアンカ機長、艦隊攻撃後のプルシアン軍港への攻撃はあるのでしょうか?」

 ルドルフ副機長がビアンカに尋ねる。


「さあ、私は無いと思っているますが。向こうがどう出るか次第なので、支援機無しの単機は流石に危険が伴う。命令なら仕方ないのですが、出来ればやりたくないのが本音。この機体は確かに高性能ですが敵の真っ只中には行きたくない」

 ビアンカは皇帝護衛隊灰色の航空士官スーツのポケットから写真を取り出す。

「息子をひとりにする訳にはいかないからな」


 ビアンカが寂しそうに言うと、隣りの通信士が言う。

「お子さん10才ですよね。私のところは、まだ1才ですよ。任務でほとんど会えていませんけど、やっぱり不安はあります。戦場はどこが安全なんて言えませんけど。出来れば後方勤務が」


 通信士はヒアンカ機長の顔を見て言うのをやめた。


「まあ、お守り見たいなものですね」

 通信士は軍服の内ポケットから子供の写真を出す。ビアンカ機長はそれを見て嬉しいそうに言う。


「女の子か? 可愛い盛りだな」


 ルドルフ副機長が軍服のポケットから手帳を取り出し写真を見せる。通信士がシートから身を乗り出し写真を見る。

「……彼女!? 副機長! これって一緒にいるのはローラ様? なんでこんな笑顔で」


「……ええ、一緒にって頼んだら快く……嬉しかったです。もちろん彼女では有りません」

 ルドルフ副機長が答えると、ビアンカ機長が険しい顔をする。


「ルドルフ副機長、確かにお前は優秀ではある。が、憧れるのは良いが恋心は抱くなよ。言っておくがローラ様はルドルフ副機長が思っているようなお嬢様では無い。あのお方は冷酷無比な武人を宿した鬼神です。絶対に無理……可哀想なお方なのです。我々はただ支えるのみ。それ以上は期待してはいけない」

 ビアンカ機長はそう言って情報端末モニターの方へ視線を向けた。


「私だって理解しています。ただの憧れですよ」


 ルドルフ副機長はそう言って機器を操作、オートパイロットに切り替え操縦レバーから手を離す。


◆◇◆


 ここはべランドル帝国帝都ドール市、ドール城、皇帝執務室。


 エランがマーク宰相、ミリア秘書官と中央テーブルでソファに座り3人で話し合っていた。


 マーク宰相は資料を睨みながら声を上げる。

「プルシアンがこのような行動に出るとは予想外でした。ローラ様がいなければ大変なことになっていました。エラン陛下はプルシアンの不穏な動きは掴んでいらしたのですか? あまりにもタイミングが……」


 エランはソファで足を組み直すと反対側にすわえうマーク宰相の顔を見て微笑む。


「私が知る訳ありませんよ。エリーは感が良いので多分そうでしょう。危機を感知して対応したのでは無いかと思います。それに私がもし承知していれば、このように後手にはならないですよね」


 マーク宰相は隣りの妻であるミリア秘書官へ移して苦笑いする。

「プルシアンへの外交通達は準備出来ました。エラン陛下がよろしければいつでも、グラン連邦国との共同声明として通達致します」


 エランはマーク宰相とミリア秘書官を見て微笑む。

「ええ、エリーの一撃が艦隊に被害を与えたタイミングでお願いします。それまではベランドル帝国が介入したことは知らせたくないので」

 

「エリー様はプルシアン艦隊は戦力にはお加えにならないつもりなのですね」


 マーク宰相がエランに尋ねる。


「いえ、そうでは無く大陸列強の力を見せるためでしょう。今後の反抗の芽を摘むために。みせしめとして。それは犠牲は無いに越したことはないと理解しているはずです。エリーは本当に優しい妹ですからね。ですから最善と判断したのでしょう」

 エランは少し冷たい雰囲気でマーク宰相を見つめて答えた。


「はい、承知致しました」

 マーク宰相はそう言ってエランに一礼した。


「では、私は失礼致します」

 マーク宰相がソファから立ち上がり一礼する。ミリア秘書官も立ち上がり一礼すると、エランがミリアに声を掛ける。


「ミリアさん、少しお話しをお願いできますか」

「……はい、何なりと」

 ミリア秘書官がマーク宰相に視線を向ける。マーク宰相は頷くとエランに再び一礼して執務室からで行った。


「……エラン陛下、ご相談ですか?」

 ミリア秘書官が少し心配したように尋ねた。エランはミリア秘書官を見つめる。


「……ええ、人生の先輩としてお伺いしたいのですが……よろしいでしょうか」

 エランが少し遠慮したようにミリア秘書官に言った。


「……陛下、人生の先輩などととんでもないことです」

 ミリア秘書官がかしこまった顔をしてエランを見つめ返した。


「いえ、ミリアさんは凄いお方です」

 エランがミリア秘書官をさらに持ち上げた。


「……? 私を揶揄っておられるのですか?」

 ミリア秘書官は戸惑って言った。


「いえ、本心です。マーク宰相を口説き落としたのですから……、猛者であることは間違いないはずです」


「……? なんのお話しでしょうか?」

 ミリア秘書官がさらに戸惑った顔をする。


「かなり年上の男性を惹きつけるためには、どのようにすれば良いか伺いたいのです」

 エランが少しためらいながら言った。


「……いえ、エラン陛下に……ですか?」

 ミリア秘書官は戸惑い困った顔をする。


「……私はこういったことは経験や知識が無いのです。だから、みじかなミリアさんにね。わかるでしょ」

 エランは少し顔を赤らめる。ミリア秘書官はそれを見て困った顔をする。


「エラン陛下、ご期待には沿える気が致しません。私はただ気持ちに従い、失いたくないと思い行動しただけです。陛下の場合、お立場がお立場だけに難しいのでは無いかと……」

 ミリア秘書官は真っ直ぐにエランを見つめて言った。


「……今すぐとは考えていません。ただ、私を見て欲しいと思っているだけです」

 エランはソファから立ち上がりミリア秘書官のそばに近づく。ミリア秘書官はエランの真剣な顔を見て言う。


「エラン陛下! 察しろは無理です。ハッキリ気持ちを伝えることが大切だと思います。態度を明確に示す。それが重要です。が……やはり身分が障害になる恐れはあるので、難しいところでは有りますが」


「……そうですか。やはりそうですよね」

 エランは寂しそうに答えた。


「で、その愛しいと思われているお相手はどのような方なのですか?」

 ミリア秘書官がエランの両手に優しく手を添えて尋ねた。


「はい……、とても頼りになる方です」

 

「まさか!?  妻子のある方では無いですよね」

 ミリア秘書官は思考を巡らし慌てたように尋ねた。


「違います 独身です! 私がそんな分別がないように見えますか!」

 エランが少し怒ったように答えた。ミリアは慌てて謝罪する。


「も、申し訳有りません! 心当たりがあったものですから」


「お名前はご勘弁願えませんか。ご迷惑になっても困るので」


「はい、ですが、エラン陛下にみそめられるとは名誉な方ですね。ご結婚まで考えるなら難しいことは間違いないです。お相手がそれなりの立場があれば陛下とも釣り合うのでしょうが」

 

「ええ、そうですね。では、話はここまでと致します」

 エランはミリア秘書官の手を優しく振り解く。


「……はい、承知致しました。お役に立てず申し訳ございません」

 ミリア秘書官はエランに一礼した。


「……いえ、謝る必要など有りません。こちらが迷惑を掛けたのです。ミリアさん、今後ともよろしくお願いしますね」

 エランはミリア秘書官に頭を下げた。ミリア秘書官は恐縮した顔をする。


「それでは、失礼致します」

 ミリア秘書官は後ろに退がると丁寧に一礼して執務室から出て行った。

 ミリア秘書官は通路を歩きながらエランの相手とは誰なのと考えていた。

(……詮索はやめた方がいいわね。下手に関わると厄介な事になりそうな感じだし、でもハリーさんだと思ったんだけど違った見たいだし……、やめよう適当に相談乗る振りだけしとくのが無難よね。マークにだって言える訳ないし)

 そうして、ミリア秘書官は宰相執務室へと戻って行った。


 


最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!

 

 これからも、どうぞよろしくお願いします。

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