第309話 魔女の正体8
エリーはプルシアン艦隊への攻撃準備を進める。
2国間和平交渉会議20日目朝。(大陸統一歴1001年11月1日9時頃)
ここはヒイズル帝国南部島より南へ300キロ離れた孤島、南海の魔女封印地。北山陣地内には通信情報端末が設置、簡易防衛本部が設けてられた。エリーは北山山頂にレーダー探知誘導装置の設置調整を確認後、30畳ほどの地下壕本部内に戻って来ていた。
現在、全速航行でグラン連邦派遣艦隊が魔女の島を目指し南下している。そして島の南部簡易飛行場にはランカーⅡ3機が待機対艦攻撃準備を整えていた。
エリーはタイトな重装機兵パイロットスーツの上着を脱ぎTシャツ姿で椅子に座りぼーーとしていた。
「ローラ様、敵艦隊無線傍受解析完了しました」
隣りに皇帝護衛隊情報士官のミランダ中尉がやって来た。
「……あゝ、はい、報告お願いします」
エリーは慌てて姿勢を正した。ミランダ中尉はショートボブの茶髪をかきあげて報告を始めた。
「攻撃開始予定は1200! まず戦艦2隻による艦砲射撃でこちらの重火器を破壊、その後上陸を行うようです。なおこちらの脅威になりそうな兵器はないようです。暗号通信ですが簡単に解析出来ました。特に無線に気を使っている様子も無く艦船間で通常周波数での通信も見受けられました」
「特にこちらを警戒もしていないと」
エリーは呆れたように言うと椅子から立ち上がる。
「ミランダ中尉! アテナ号の位置は?」
「はい、そろそろ発射圏内ではないかと」
ミランダ中尉は直ぐに答えた。
「流石に戦艦2隻はこちらの火器だけでは荷が重いからね。まずは戦艦2隻を叩いとかないと。アテナ号へ対艦ロケット弾発射指示をお願い! 目標は敵艦隊戦艦2隻と巡洋艦で優先は戦艦ね」
エリーがミランダ中尉に指示を出した。ミランダ中尉は姿勢を正してエリーに敬礼する。
「はっ! 直ちに通達致します!」
直ぐにミランダは後方の暗号通信機を操作して巡洋艦アテナ号へ指示を送信した。アテナ号から応答返信が返って来る。
返信を確認してミランダ中尉がエリーの前に戻って来た。
「ローラ様、アテナ号より返信! 目標へ向けて順次4弾発射予定! 目標到達時刻は確定次第報告とのことです」
「了解しました。実戦で対艦誘導ロケット弾を使用するのは初めてですね。命中精度、ダメージ度が判定出来ますね。観測データーを収集しないと」
エリーはそう言うとミランダ中尉に尋ねる。
「沖合の艦隊漂流者はどうなりました」
「はい、残存敵駆逐艦、および敵潜水艦が救命ボートを放出、回収しているようです。ですがかなりのものがそのまま漂流しているものと思われます」
「そうですか。この島には近づけないよう警戒してください。流石に増員しても200たらずの守備要員では無理ですからね」エリーは悲しそうに言った。エリーは攻撃の際、直撃沈没は避けて、中破から大破程度で沈没までの時間を作って脱出時間は与えていた。
「ローラ様の射撃の腕前はかなりのものです。ですが、傍若無人な敵への配慮は不要だと思いますが」
ミランダ中尉がエリーに冷たく言った。
「……ええ、でもね。今後のことを考えたら情けは必要だよ。力でねじ伏せるだけじゃあ人はついてこないだよね……」
エリーがミランダ中尉を見て微笑み言った。ミランダ中尉は直ぐに姿勢を正して一礼する。
「申し訳ありません! 私が意見するとは出過ぎた物言いでした」
ミランダ中尉はそう言ってエリーから離れると情報端末モニターの前に移動して忙しそうに作業を再開した。
エリーはミランダ中尉の後ろ姿を見つめながら考えていた。
(プルシアン本国へはどうします? お姉様に動いてもらいますかね)
エリーはミランダ中尉の横に立つ。
「エラン陛下に繋いでもらえますか」
「はい。了解です。ベランドル皇城へ繋ぎます」
ミランダ中尉がエリーにヘッドセットを差し出す。エリーはヘッドセットを受け取り髪をかき分け装着した。
『はい、エランです。ローラ、状況は聞いています。そちらの対応はあなたの判断に任せるつもりです』
「へっ! 何かしの助言とかないのですか?」
エリーが少し呆れたように言った。
『ローラ……一応、航空支援と艦隊派遣の指示は出していますよ。聞いていないのですか? まるで何もしていないような言い方は寂しいですよ……』
エランの寂しいそうな声がヘッドホンから返って来た。
「……! エラン陛下、少し気が立っていました。申し訳有りません。ここのところ寝る暇もないくらい忙しくて……、陛下だって忙しいのに、配慮が足りませんでした」
エリーが謝罪の言葉を述べると、ヘッドホンの向こうの声は嬉しいそうに言う。
『え、ローラ、気にしないで! 私はあなたのことをいつも考えているわ。あなたがいつも頑張っていることも承知しています。だから不満が有れば言えばいい……。姉妹なのですから』
「……あゝ、で、お、じゃ無くて、エラン陛下! プルシアンへの圧力をお願い致します。大陸の影響力がどれほどのものか、わからせる必要があると思っているので」
エリーが戸惑ったように言うと、無線の向こうのエランの声はハッキリと言葉を発する。
『ベランドル帝国、グラン連邦政府は大陸間相互条約に基づき国家間の武力行使を認めない! 万が一不当な軍事干渉があった場合、制裁を加えるものとする! これで良いかしら? 一応勧告通達は遅い方が良いのでしょう』
「はい、プルシアン艦隊に打撃を与えた直後の方が良いかと」
エリーが答えるとエランは少し間をおいて応答する。
『一応実力を見せておきたいのですね。承知しました。では戦闘開始後10分くらいで良いですね?』
「はい、そのようにお願いします」
エリーは少し嬉しそうに答えた。
『では、エリー……いえ、ローラ! 戦力は心配しなくて順次補充予定です。とりあえず今は頑張ってください。それではまた、会いましょう』
エランからの通信が切れた。エリーはヘッドセットを少し笑った表情を浮かべて外した。
「エラン陛下とお話しされて、嬉しそうでなによりです」
ミランダ中尉がエリーに微笑み声を掛けた。
「まあ、そうですね。では任務に集中しますね」エリーはミランダ中尉の肩に軽く触れると部屋から出て行った。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!