第305話 魔女の正体4
2国間和平交渉会議20日目早朝。(大陸統一歴1001年11月1日6時頃)
ここはヒイズル帝国南部島より南へ300キロ離れた孤島、南海の魔女封印地。島の北の断崖封印の施設内。
エリーはリサと封印の間の中央に立っていた。
「解析は完了しました。500年ほど経過しているのでどうかと思いましたが、なんとかなりそうです」
リサが魔力を収縮させて隣りに立っているエリーを見て言った。
エリーのインカムにビープ音が鳴り通信が入った。
『ニコルです! ローラ様よろしいですか? 緊急の要件です。イーグルリーダーから通信が入っています。中継でお繋ぎしますがよろしいですか?』
「はい、上陸したヒイズル帝国兵ですか?」
エリーが尋ねるとニコルは否定する。
『いえ、別件です。お繋ぎするので確認をお願いします』
ニコルはそう答えると通信を切り替えた。
『こちらイーグルリーダー! エンペラーワンへ!』
「はい、エンペラーワン! どうぞ」
エリーは入口の方へ移動する。
『プルシアン所属と思われる艦隊がポイントへ接近中です。現在20ノットで航行中10隻編成! 進路から1時間で沖合に到達見込みです。すでにヒイズル帝国領海内に入っていますが、アテナ号を通じて確認、事前連絡は無いとのことです。相手艦隊へ問合せますか?』
「……艦種は?」
『はい、巡洋艦クラス3! 駆逐護衛艦クラス4! 補給支援艦3! 10隻編成です』
「了解です。艦の最大有効射程はどのくらいですか?」
エリーは矢継ぎ早に尋ねた。
『申し訳ありませんが、最新のプルシアンの艦艇に関しては詳しい情報が有りません。古い資料を参考にすれば20kmくらいと思われます。なお望遠カメラ映像解析ではロケット弾等の装備は無いものと判断します』
「そうですか。ありがとうございます。そのまま監視を継続してください。怪しい動きがあれば直ぐに連絡をお願いします」
『了解! クリフォード基地に支援要請を出していますので、1時間後に増援機が到着します』
「はい、了解しました」
エリーはそう言って通信を切った。リサがエリーに近寄り尋ねる。
「何かあったのですか?」
「うん、ちょっとね。プルシアンが変な動きをしているみたいで……事前のハリーさんの見立てでは問題無いてことだったんだけど。今回の件と連動しているかも?」
エリーは首を傾げて壁に持たれた。
「……どうしますか? このまま地下施設に入りますか? 入ると直ぐには出れませんよ」
「そうですね。一旦中断して外の対応をする方が良いと思います」
エリーがそう言うとリサは頷く。
「はい、承知しました。とりあえずは大丈夫そうなので機器到着後でもよろしいと思います」
リサは微笑みエリーを見て答えた。そしてエリーは封印の間から出て外にいるニコル達へと向かった。
◆◇◆
ここは島の北部隊居住区内娯楽室。イバラキ、アオイ大尉、副隊長カサマツが椅子に座って話をしていた。
「……とりあえず待機と言っていたが……」
イバラキが飲み干したコーヒーカップをテーブルに置いた。
「ええ、勝手な行動は慎んでくれとのことでした。ローラ様が事態の収拾に動かれてくださっているので」
副隊長カサマツが椅子に座って視線をアオイ大尉に向ける。
「アオイ大尉、元気が有りませんね。体調が悪いのですか?」
副隊長カサマツが尋ねた。
「いえ、問題有りません。ローラ様の処置を受けて調子は良くなっています。ローラ様はイバラキの応急処置を褒められていましたよ」
イバラキは機嫌の悪い顔をする。
「おい! 呼び捨てか? ちゃんと敬称をつけろ! まあ良いが! 他の者がいる時は注意しろ。……ローラ様か、自分が手も足も出ないとは凄いお方であることは認めざるおえないが。あの容姿にはどうも納得がいかん」
アオイ大尉はイバラキを見て笑顔で言う。
「私が実力を出せたとしても、無理ですね。勝てる相手ではありません。中央3女神のおひとりですから」
イバラキはアオイ大尉を見て寂しそうな顔をする。
「お前は、女神級だろう。いや、女神だろう。色々あって魔女に仕立てられたが、女神だ。本気で当たればなんとかなるだろう」
「……その口の利き方イバラキなんとかなりませんか! 敬意が全く無いです。……まあいいですけど。ハッキリ言えば、あの方が全力で力を出せばこの世界は消滅します。ですが私ではヒイズルくらいが精一杯です」
「……それでも大概だが……」
イバラキはそう言って真剣な顔をする。
「ローラ様が出て来たてことは、緊急を要する事態てことだな」
イバラキはアオイ大尉を見つめる。
「そうでしょう。とりあえずの危機は脱しただけで問題は解決していないのでしょうね」
アオイ大尉は答えると椅子から立ち上がり入口に視線を向ける。
「……」
娯楽室のドアがノックされて声がする。
「ローラです! 入ります!」
ドアが開いてエリーが入ると3人が一斉に姿勢を正した。エリーが少し戸惑った顔をする。
「どうしました。なんか緊張しているようですが」
「……そりゃあ……殺されかけたのですから」
イバラキが緊張した面持ちでエリーに言った。
「ふっ……!? イバラキさん、貴方が先に仕掛けたから答えただけです。もちろん全力を持って。大人しく従ってもらったら痛い目には遭わずにすみましたよ」
エリーは微笑み答えた。イバラキは嫌そうな顔をしてエリーを見て言う。
「自分はこれまで脅かす相手に会ったことが無かった。上には上があると自覚しました」
「そうですか。それは良いことです。ですがイバラキさんは強者です。その力は利用させて頂きます」
エリーはそう言って丁寧に頭を下げた。
「まずは、この島の魔力域の制御に関しては安心してください。当面は暴走消滅することは無いです。きちんと処置は必要ですが、時間的猶予は有ります。それとドーラ様の役目も終了したとお伝えします」
「……私は必要無いと」
アオイ大尉が動揺した顔をする。
「いえ、この島にいる必要が無いと言うことです。とりあえず私にと一緒に行動してもらえれば結構です」
「それは、ローラ様の保護下に入ると思って良いのですか?」
アオイ大尉が不安そうに尋ねた。
「……まあそう思ってください。安全は保証します」
エリーはそう言ってアオイ大尉の右手をエリーの両手で優しく包み込む。そして視線をイバラキに移す。
「それでは、今後について説明致します」
そう言ってエリーは3人に椅子に座るよう言った。
「では、状況の説明を。今のところ島の地下魔力領域は安定しています。それとヒイズル連絡船より上陸した30名については、我が皇帝護衛隊が無力化拘束して監禁しています。味方か敵かわからないので。ただ完全武装で補給品も荷上げせず上陸したので敵勢力が濃厚ですが。あとは島の南東部の兵陵箇所を300mほど切り開いて簡易飛行発着場に致しました。決定権は私に任せるとワダ首相閣下から許可を得ていますので問題有りません。現在ランカーⅡ7号機が到着レンベルを降ろしているところです。折り返しランカーⅡ5号機、3号機が到着予定です。そして接近中のプルシアン艦隊に対処する予定です」
エリーはそう言って3人を見つめとイバラキが立ち上がりエリーを見て尋ねる。
「プルシアン艦隊? 接近中とはどう言った?」
「接近の目的は不明です。ですがこのタイミングは気掛かりです」
エリーは答えると端のカウンターから水差しを取ってコップに水を注ぐ。
「イバラキさんとカサマツさんには、リサさんの下についてもらいます。よろしくお願いしますね」
「あゝ、リサ……とんでもない魔力量の魔法士」
イバラキが呟くとエリーは微笑み言う。
「ええ、ちゃんと指示には従ってくださいね」
「ええ、大丈夫です。指示には従います」
イバラキが頷き答えた。アオイ大尉がエリーに体を寄せて寂しそうな顔で尋ねる。
「私は役割は無いのですか?」
「ええ、とりあえずは体を整えてください。まだ十分では無いので」
エリーが答えるとアオイ大尉はガッカリした顔をする。
「それでは行きますか! ついて来てください!」
エリーがそう言って娯楽室のドアへ向かうと3人も続く。
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