表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
319/446

第304話 魔女の正体3

エリーとイバラキは刀を交える

 2国間和平交渉会議20日目明け方。(大陸統一歴1001年11月1日5時頃)


 ここはヒイズル帝国南部島より南へ300キロ離れた孤島、南海の魔女封印地。島の北部隊居住区内トンネル。


 イバラキとエリーが10mの距離で対峙している。エリーは魔力を解き放ち軍刀を構え戦闘体勢をとっている。対するイバラキも魔力を全開放して濃い紫色の光に包まれている。

「なぜ、宝刀三日月を持っている!」

 イバラキが声を上げるとエリーは口元を緩めて答える。


「私が相応しいと託されたからです。理解してくださいましたか?」

 イバラキにはエリーの流暢なヒイズル語が耳障りに感じる。


「そうか! なら遠慮なくやらせてもらう」

(……敵対して良いか? まあ確かに……、活路は無い)

 イバラキは魔力を絞り出し軍刀に集中させた。後ろにいたアオイ大尉が駆け寄り近づこうとする。


「アオイ! 下がってろ! お前が来たところでどうにもならん!」

 イバラキは声を上げると軍刀を振り上げエリー目掛けて猛烈なスピードで飛び出した。エリーはすぐさま反応前に飛び出す。中間点で2人がぶつかり合う。刀身同士がぶつかり激しい魔力波動が周辺に拡散した。

 イバラキの目の前にエリーの顔が見えた。

(……微笑んでやがる!? どう見ても若い育ちの良いお嬢様だ! とんでもない悪魔が……ここにいる)

 イバラキがそう思った次の瞬間イバラキの体は衝撃波と爆音と共に後方へ飛ばされアオイ大尉の前に倒れ込む。

「ぐーーっ!」

 イバラキは軍刀を地面に差し込み立ち上がる。アオイ大尉が駆け寄り肩を入れてイバラキを支える。

「……足癖の悪い……お嬢様だな」

 イバラキはエリーの左足が自分の腹部に入ったことを理解した。イバラキの口から真っ赤な血が吹き出す。

「ぐーーふっ!」


 アオイ大尉が支えるイバラキを心配そうに見つめる。

「イバラキ……、相手が悪い。私の魔女の力が発動出来ても勝てるかどうか? 降伏しよう……それしか助かる道は無い」


「……お前がどうなるかわからないのに、降伏など出来ん。やれることはやる」

 イバラキは肩で息をしながら血の気の無い青ざめた顔でアオイ大尉を見つめる。


「……心配してくれたことは感謝する。でも貴方は死んではいけない。ヒイズルのためにも」


 そしてエリーは2人の目の前に現れる。

「……えっ!」

 アオイ大尉が金色の瞳を見開きエリーを見つめる。エリーはアオイ大尉を見つめる。


「大丈夫、心配しなくても」

 エリーはそう言ってイバラキに手刀を打ち込む。そしてイバラキと共に引き摺られてアオイ大尉が倒れ込んだ。後ろにいた副隊長カサマツがアサートライフルをエリーに向ける。


 エリーは直ぐに魔力闘気を副隊長カサマツに向ける。副隊長カサマツは痙攣を起こしてその場に倒れ込んだ。

「……南海の魔女、いえ、ドーラ•アクーニャ様ですね。この者達は大丈夫です。殺したりしません」

 エリーはそう言ってイバラキを抱えて仰向けに寝かせる。イバラキを神眼で視感すると治癒スキルを発動、患部を癒していく。


「……貴方は、何、神格者レベルじゃない! 女神の使徒……いえ、女神!?」

 アオイ大尉がエリーの顔を見て後退りする。


「私はベランドル帝国魔導士ローラ•ベーカーです」

 エリーはイバラキを治癒させると立ち上がり後ろにいたリサに合図する。リサが直ぐに近づきエリーに声を掛ける。


「ローラ様! よろしいでしょうか」


 エリーは頷き言う。

「適切な処置がなされているようです。この人ですか? 貴方様に処置をしたのは」

 エリーは仰向けに寝ているイバラキを見てアオイ大尉に尋ねた。


「……はい」

 アオイ大尉は頷き答えた。

「じゃあ、もっと落ち着ける場所に移動しましょうか」

 エリーはアオイ大尉に言う。


「はい、奥に広い部屋があります。そこへ」

 アオイ大尉は落ち着いた口調で答えた。エリーはインカムを口元に下げて入口で待っているニコルに指示する。

「ニコルさん、少し中で用事を済ませるので、警備をお願いします」


『はい、承知しました!』

 ニコルの応答が直ぐに入った。


 エリーはイバラキを軽々と担ぎ上げると奥へ移動する。リサが倒れている副隊長カサマツを抱えて引きずるように移動し始めた。それを見てアオイ大尉も手伝い奥へ移動する。そしてエリーは娯楽室内に入るとイバラキをソファに寝かせる。

 テーブルを寄せてアオイ大尉を見つめる。

「服を脱いで裸になってもらえますか。魔導回路を構築して魔力を整えます。今のままでは魔力暴走が始まります。理解出来ますよね」


「ええ、でも、島の下の魔力だまりも処理しないと」

 アオイ大尉がエリーを見て言う。


「心配無用です。とりあえず貴女様を」

 エリーは優しくアオイ大尉に言った。アオイ大尉は指示通り軍服を脱ぎ裸になるとテーブルの上に仰向けに寝そべる。そしてリサが周囲に魔法結界を瞬時に張り巡らせる。


「では気持ちを楽に、私に任せてください」

 そう言うとエリーの瞳が若干吊り上がり、髪色が輝く銀髪に変化する。そしてエリーはアオイ大尉の胸の間に右手を当てる。左手を額に当てと魔力を循環させ始める。アオイ大尉の意識が薄れて体の力が抜けうなだれた。

(……脆弱だな。よく魔力暴走消滅しなかったものだ。とりあえず細胞レベルで強化して、魔導回路を構築するか)

 セレーナの意識がエリーを動かす。しばらく弱い魔力を通してアオイ大尉の身体を強化していく。そして5分ほどしてさらに魔力量を徐々に上げた。アオイ大尉の体がびっくんびっくんと仰け反り反応する。

 10分ほど経過して胸元に魔導回路をイメージ構築するとそれをアオイ大尉の体に沈めていく。

(やはり、女神級の魔力量を制御するにはこの簡易回路では弱い……もう一段構築して並列制御にするか)

 エリーはさらに魔導回路をアオイ大尉の胸元で構築して胸元から体に押し込み沈める。そして魔導回路に魔力を通して起動させた。

 アオイ大尉は体をくねらせ呻き声を上げた。口から血を吐き出す。そして失禁した。


「リサさん、とりあえず終わった。これでしばらくは大丈夫です。あとは島の魔力装置回路の修正だね」

 エリーの瞳は朱色に戻り、髪色は紫色に戻っていた。

「漏らしていますね。どうしますか」


「……まあ一旦全身弛緩したからしょうがないよね。こうなっちゃうだよね。リサさんだってこんな感じだったよね。覚えてないと思うけど」


「……はい、では掃除します。で、意識は戻りますか?」


「5分もすれば、こちらの剣士もそれくらいには起こすかな」

 エリーはソファに寝ているイバラキを見て言った。

 エリーは再度仰向けに寝ているアオイ大尉を視感する。


「上手くいった。これで一安心だね」


 エリーはリサを見て微笑み言う。

「それじゃあ、下を片付けましょうか」


「はい、地下への入口は確認しております。あとは上手く動くかどうかですが」

 リサは掃除しながら答えた。テーブルに横たわるアオイ大尉が虚な顔でエリーを見つめている。

「……起きた! 気分はどうですか?」

 エリーは微笑みアオイ大尉を見つめる。


「……体が軽くなりました。それに頭もスッキリしたような……。貴女は女神の加護を使いこなせるのですね。そして内包する女神はセレーナ様ですね。助けてもらったことに感謝致します」

 アオイ大尉は上体をエリーの方に向けて頭を下げた。


「ふっ! ドーラ様は噂に聞いた感じとは違いますね。依代の影響ですか?」

 エリーは微笑みアオイ大尉の肩に手を触れると魔力を通す。


「整いましたね。じゃあ体を洗って着替えたら行きますか」

 エリーはアオイ大尉を支えて体を起こした。アオイ大尉は虚な金色の瞳でエリーを見つめ手を握りしめ言う。

「執行の女神セレーナ様……感謝致します。ドーラ•アクーニャ、貴女様の配下に加えてくださればと思いますが。どうでしょうか」


「いやああ……、ドーラ様は女神級だから配下は無理。まあ盟友かな。同盟関係みたいな協力者でよろしくお願いします」

 アオイ大尉は体をエリーに寄せて寂しそうな顔をする。


「私は、別に配下で構いません。セレーナ様の下なら……お役に立ってみせます。絶対に」

 アオイ大尉がエリーに嘆願するような顔をして言った。

(……やっぱり変だ! 精神体が融合しておかしくなったにかな? それとも何か目論見があるのか?)

 エリーはまとわりつくアオイ大尉を両手で引き剥がす。

「とりあえずお風呂で体を洗って着替えてください。時間が無いんです」

 エリーは機嫌の悪い顔で言うとアオイ大尉はアオイ慌てて軍服を取って娯楽室を出て行った。

 

 

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ