第301話 封印解放
1番隊は封印を解放した。
2国間和平交渉会議20日目深夜。(大陸統一歴1001年11月1日3時頃)
ここはヒイズル帝国南部島より南へ300キロ離れた孤島、南海の魔女封印地。ヒイズル帝国近衛師団別動警備隊施設内で異変が起こっていた。
ここは北トンネル内部封印の間50畳ほどの空間。イバラキと副隊長カサマツは1番隊隊長キトウと対峙している。イバラキは魔力を解放して今、紫色の光に包まれている。
「……ここにあなた様がいらっしゃるとは……。英雄キサラギ様」
対峙する1番隊隊長キトウが声を漏らした。
「……いや、勘違いだ! 自分はイバラキだ」
イバラキは1番隊隊長キトウを睨み答えた。
「……いいえ、間違いなくキサラギユウスケ様に相違なく。その魔法闘気は寒関の戦いで見たものと同一。急に中央よりお姿を消して……まさかここに居られたとは」
1番隊隊長キトウが刀を上段に構え声を上げた。
「キサラギならどうする。自分に従い刀を納め従うか?」
「……いえ、それは出来ません。我々にはやらねばならぬことが有りますので」
そう言って1番隊隊長キトウは一気に魔力量を増大させると、構える刀から魔力闘気が迸り始める。イバラキは1番隊隊長キトウを視感して魔力を観察する。
(……キトウは確かに上位剣士ではあるが。ここまで魔力を圧縮出来る実力は無いはず? あの刀は神具相当てことか)
後方にいた副隊長カサマツが1番隊隊長キトウに向けてアサートライフルを連射する。
〈パーーーーーッン〉
連射音と閃光が走り1番隊隊長キトウに到達する。銃弾は1番隊隊長キトウの手前で拡散して四方へ飛散して弾かれて行く。
「……やめろ! 弾の無駄遣いだ! キトウには通じない」
イバラキが副隊長カサマツに声を上げた。そしてすぐさまイバラキは1番隊隊長キトウに突撃、間合いを詰めると上段から軍刀を振り下ろした。周囲に轟音が響き刀身がぶつかり合う。
〈ドーーン! ギッシーーイッ〉
イバラキが1番隊隊長キトウを呆れた顔で見つめなが、軍刀を前に押し込む。
「大した魔力だ! だが付け焼き刃の魔力ではどこまで持つか? 命を削っているだけだろう」
1番隊隊長キトウはイバラキの刀身を押し返す。
「……勝てるなどと思ってはいません」
イバラキはすぐさま退き、魔力量を上げる。
「そうか、時間稼ぎか。だが付き合うつもりはない」
イバラキを包む光が濃い紫色に変わり迸り始めると同時に、上体を捻り込み中段から右方向へ軍刀を振りながら1番隊隊長キトウに斬撃を放った。1番隊隊隊キトウはそれを上段から刀を振り下ろしいなそうとするが、刀は弾かれ斬撃はキトウの脇腹へと到達魔法障壁を破壊しながら肉体を切り裂いて行く。1番隊隊長キトウの腹部の肉が裂かれ大量に出血している。そしてキトウは前に倒れ込み、もう魔法闘気は消え失せ生体反応も弱々しい。
「ぐっうはっ」
キトウは口から血を吹き出し這いながら顔を上げる。イバラキはそばに行くと、軍刀をキトウの背中へ突き下ろす。
「ぐっ……」
1番隊隊長キトウは動かなくなった。床にはキトウの周りに血溜まりが出来ている。
イバラキは後ろを振り返り、呆然としている副隊長カサマツに声を上げる。
「副隊長! 行くぞ!」
イバラキは直ぐに奥の扉の前に行くと斬撃を放ち扉を破壊する。周辺に轟音と共に残骸が飛び散った。副隊長カサマツも慌ててイバラキの後を追う。
奥の部屋に入ると広い空間が現れる。そして重々しい空気感。
「……!?」
イバラキは正面の奥を見据える。薄暗い中に、20mほど先にほぼ全裸の背中を向け立っている女性が見える。
黒髪のショートヘア髪はボサボサで全身が黒く薄汚れている。所々に軍服の破れた布切れが残っていた。
イバラキは思い当たる人物に直ぐに気づいた。
(……やはり、噂通り女だったか。1番隊副隊長アオイ大尉! 依代として連れて来たのか?)
イバラキは後ろの近づく、副隊長カサマツを手で制止して立っている女性に近づく。そして30mほどある天井の上に吊るされている白い箱が開放されていることに気づきイバラキは表情を変える。
(……ドーラの魂は!?)
イバラキは視線を下げ、背中を見せる女性に移す。
「……! はっ! 手遅れか」
イバラキは女性に近づき視感する。膨大な魔力が1番隊副隊長アオイ大尉の体内を駆け巡っていることがわかった。イバラキは軍刀を鞘に収める。
「……マズイ……」
イバラキは女性アオイ大尉の前に立つと肩に手を当てて魔力制御を始めた。
(……早くしないと自己崩壊する。整えれるか?)
イバラキは魔力量を上げてアオイ大尉の体内に障壁を構築、魔力の溜まり滞りを解消放出していく。アオイ大尉の歪んだ顔が緩んだ。イバラキは魔力を注入してさらに循環を整える。
(なんとか山は超えた。しばらくはなんとかなりそうだ)
イバラキはアオイ大尉の魔力循環を視感して安心した顔をする。
立っているアオイ大尉の口が開く。
「あなたは、神格者か? 助かった」
イバラキはアオイ大尉の顔を見て尋ねる。
「アオイ大尉か? それともドーラか?」
アオイ大尉は目を開き金色の瞳でイバラキを見上げる。
「ドーラです。この者の精神体は私を取り込んで融合しよとした時、直ぐに壊れてしまいました。断片的に残ってはいますが」
イバラキはアオイ大尉に魔力を通し循環させながら口を緩める。
「よかった。とりあえず最悪避けられたようだ。ドーラ、自分はイバラキいや、キサラギユウスケだ。お前は運が良かった。自分が居合わせたことに感謝して欲しい」
「……キサラギユウスケ……、私にそのような態度をとる者とは、まあ良いでしょう。助けられたのは確かです。あなたがいなければ私は魔力暴走して消滅していたでしょうから。感謝します」
アオイ大尉は目を細めてイバラキを見つめる。イバラキはアオイ大尉を見て言う。
「だが、応急処置だ。きちんと処置しないとまた消滅は回避出来ない」
「ええ、理解しています」
「聞くが、あの箱には戻れないのか?」
「それは無理です。私は引き出され取り込まれたので。この者と完全一体化すれば可能性はあるけど、魔力循環さえまともに出来ない状況では」
「とりあえず落ち着いたようだ。ここを出よう」
イバラキは装備を外して軍服の上着を脱ぐ。そしてアオイ大尉に手渡した。
「これを着ろ。その格好では流石にマズイ」
アオイ大尉は受け取り上着をに袖を通す。
「……血の匂いが、あゝ、そうですね。ありがとう」
アオイ大尉は軍服のボタンを止めて袖をまくる。
「ちょっと大きいですね」
「文句はいいから、行くぞ」
イバラキは副隊長カサマツに視線を向ける。
「副隊長! 先導頼む」
「は、はっ! 了解」
副隊長カサマツが封印の間から慌てて出て行く。
「あの者は、キサラギと比べて随分弱い気がしますが」
アオイ大尉がイバラキに尋ねた。
「あゝ、頼りになる部下だよ。魔力だけで強さは測れない」
そう言ってイバラキはアオイ大尉を抱え上げる。
「……えっ!」
アオイ大尉が驚いた顔をする。
「まだ十分回復していない。歩くのもおぼつかない」
そう言ってアオイ大尉を抱えてイバラキは歩き出した。出口では副隊長カサマツが息を切らせて待っていた。
「周辺問題無し!」
「とりあえず、北の居住区を確認する。0500到着予定の定期船は1番隊と同調している恐れがある。備えておかなければならない」
イバラキはそう言って歩き出すと副隊長カサマツは前に出て先を行く。
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