第298話 南海の孤島
南海の魔女の封印の地
2国間和平交渉会議20日目深夜。(大陸統一歴1001年11月1日2時頃)
ここはヒイズル帝国南部島より南へ300キロ離れた孤島。1番近い島でも70キロほど離れている。
ここは偽装され無人島のよう見せ掛けた10キロ四方の島。浜辺以外は亜熱帯木々が島を埋め尽くし昼間でも日差しは地面に届かない。木々の間には監視塔が偽装され10数箇所設置されている。対艦速射砲も中腹付近に全方位に配置、山頂付近には地下壕が張り巡らされ人員の生活空間が確保されており、要塞島の様相を呈していた。だが島の周囲の沖合から見れば無人島にしか見えない。
ここには現在、ある施設守備のため、ヒイズル帝国近衛師団別動警備隊が駐屯している。部隊はこの島の施設警備のために編成された特別部隊である。質から言えば皇宮警備隊より上である。ヒイズル100剣士の3人がここに常時配属され、さらに中位以上の剣士将兵で固められた部隊編成。人員数は中隊規模。昼夜を問わず常に交代制で厳戒態勢を敷いていた。そして2ヶ月に一度定期的に部隊の入替が行われる。
この島の施設はヒイズル帝国上層部と皇族の一部しか存在を知らない、南海の魔女封印の地である。封印から400年、絶やす事なく維持されていた。3年前のヒイズル政変時もここだけは平和理に新政府と旧政権が合意引継ぎがなされた場所だ。
山頂付近の地下部隊司令室内。20畳ほどのスペースに天井は2mほどしか無い。壁側には数台の無線機と椅子が置かれて、中央には少し大きめのテーブルと椅子が置かれている。通信機器の前には通信下士官が3人座っている。中央のテーブルの椅子には30代前半くらいの当番警備隊長と30才くらいの副隊長が座っていた。
「今夜はなにも無さそうだな。俺は少し仮眠をとる。しばらく頼む」
少佐の階級章を付けた当番警備隊長がタバコをふかしながら副隊長に少し眠そうな顔で言った。
「はっ! イバラキ少佐殿、了解です! 2時間ほどでよろしですか?」
大尉の階級章を付けた副隊長が尋ねると当番警備隊長が答える。
「あゝ、それで頼む。定期船は0500だったな?」
奥に座っている通信下士官が当番警備隊長の方に顔を向けて報告する。
「……イバラキ少佐殿! 各監視塔から定期連絡が有りません! 本部との通信確保も困難! 途絶しています」
「……どのくらいの遅れだ!?」
当番警備隊長が慌てて通信下士官に声を上げた。
「監視所からは1分遅れです。こちらから呼び掛けましたが全ての監視塔から応答有りません!」
「……電源中継機の故障? 技術担当官を起こしてくれ。第1種戦闘配備を発令するか?」
当番警備隊長が少し悩んだ様に言うと副隊長が直ぐに言う。
「イバラキ少佐殿! 発電設備を見て来ます。予備機と上手く切替が出来なかったのかも知れません」
「発電設備が問題あるならここが非常灯になっているはずだ。副隊長、それより電波塔とケーブル中継機を確認してくれるか。俺は司令長に報告して来る」
「はっ! 自分は電波塔を確認して来ます」
副隊長は敬礼するとテーブルの上の軍帽を取り被ると司令室から出て行く。
「通信士! 施設電話も使えんか? 全ての通信がダメなのか!」
当番警備隊長が通信下士官に声を上げた。
「はい、各監視塔に繋がりません。施設内電話も繋がりません」
「……マズイな。とりあえず技術担当官を起こしてくれ」
もうひとりの通信下士官に当番警備隊長が指示を出す。
「はっ! 了解!」
そう答えると敬礼して通信下士官が司令室から出て行く。
(しかし妙だ? 10箇所の各監視塔には3人詰めている。連絡手段は通信、緊急警報機、発光弾、伝令とあるのに何も反応が無いなどあり得ない……どうなっているのだ!?)
当番警備隊長イバラキは思考を巡らせた。
「俺は、アマミ警備司令に報告して来る。ここの施錠を頼む」
イバラキ少佐が軍帽を被りホルダーの拳銃を取り出し弾倉を確認してホルダーに戻した。
「行って来る。鍵を頼む」
「はっ! お気をつけて!」
当番警備隊長が出て行くと通信下士官は鉄製のドアを閉め施錠をした。そして当番警備隊長イバラキは司令室から駆け出すとトンネル通路を進み、階段状のトンネルを下った。しばらくして鉄製のドアの前で立ち止まり激しくノックする。
「イバラキです! アマミ大佐! 緊急事態です。第1種戦闘配備を発令します。通信遮断のため各所に伝令を走らせますので許可をお願い致します」
部屋の中から反応が無い。当番警備隊長イバラキは再び激しく金属製のドアをノックする。
「アマミ大佐! アマミ大佐! 緊急事態です!」
「……おかしい?」
当番警備隊長イバラキはドアノブを回してドアを引くと開いた。
「……施錠されていない? 失礼致します」
当番警備隊長イバラキ真っ暗な室内に気配が無いことを確認してドア横の照明スイッチを押す。そしてベットに横たわるアマミ大佐を見て驚いた。
「……アマミ、大佐……」
アマミ大佐の首が有りない方向を向き眼球は見開き白目をむいている。確認しなくとももう息をしていない事は一目瞭然だ。そして当番警備隊長イバラキは視線をベット奥の保管金庫へ向ける。そして近づき保管金庫を確認すると開放され中身が無い。
「マズイ……、アマミ大佐はが死んでいる上に、地下施設鍵まで無いとは……これはどうしたものか」
動揺した当番警備隊長イバラキは部屋の緊急警報機ボタンを複数回叩いてみるが反応は無い。
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