第292話 ソウイチロウとの接触1
エリーはソウイチロウとの接触するための方策を練る
2国間和平交渉会議18日目夜。((大陸統一歴1001年10月31日19時頃)
ここはヒイズル帝国ナカノキタ市より50キロほど西海上。グラン連邦国軍最新鋭ミサイル巡洋艦アテナ号と護衛駆逐艦3艦が第2戦速で航行中であった。
巡洋艦アテナ号艦長室。エリーとクレア艦長が2人で話していた。
「エリー様も大変ですね。ローラ様と二役こなさなければならないとは」
クレア艦長が椅子に座ってエリーを見つめて申し訳なさそうに言った。
「……まあ、しょうがないですね。ヒイズルに変に勘繰られるのも困りますしね。元々旧ヒイズル王国政権はグラン連邦が支援していましたからね。仮に気づかれたとしても言い訳できますから」
エリーはそう言って残りの紅茶を飲み干した。
「ナカノキタ港湾にはヒイズル帝国の諜報機関員が多数、陸軍1個連隊が警備に配置されているようです。気づかれずに接触は困難な状況ですが。どうされるおつもりですか?」
クレア艦長がエリーを心配そうに見て尋ねた。いつものクールなクレア艦長の印象は無い。
「大丈夫だよ。まあ内々の取り決めだけど、ナカノキタ港湾は連合海軍基幹母港予定地だからね。私の外事局課長の役職をフルに使わせてもらうからね」
エリーは微笑みクレア艦長を見て答えた。
「……それはどういった?」
クレアは少し不思議そうな顔をして尋ねた。エリーは立ち上がり紅茶をカップに注ぎながら言う。
「グラン連邦軍外事局長から、ヒイズル帝国外務省へ調査上陸すると伝えています。もちろんヒイズル帝国側から許可はもらってますよ。外事局課長エリー•ブラウンが現地責任者としてね」
クレア艦長は感心したように言う。
「さすがエリー様です。抜かりはありませんね。しかし、港の外へは出られないにではないですか?」
「大丈夫だよ。ちゃんと手は打ってます」
エリーは紅茶カップを手に取り微笑み答える。
「視察調査名目で外へも出れると?」
クレア艦長が少し考えて言った。
「そうです。港湾の調査及び、防空飛行場、防空施設設置場所の選定です。ハル局長が直ぐに動いてくれました。即、ヒイズル帝国外務省から使節団宛に許可連絡がありましたからね。今回の件でかなり気を遣っているようです。首都周辺で動き回れるより地方の方が良いと思ったのでしょう」
エリーはそう言って紅茶カップをテーブルに置いた。
「ナカノキタ港湾1号岸壁に接岸予定ですが。護衛駆逐艦2号、3号は埠頭沖で待機させます」
クレア艦長はエリーを見て微笑み言った。
「はい、了解です。警戒用ですね。まあ、ヒイズル帝国が何かして来る事は無いと思いますが、不穏分子、ヤマノはわかりませんからね」
エリーはそう答えると椅子から立ち上がり敬礼する。
「トーラス司令! グラン連邦国軍派遣隊責任者として命ず! 只今より第1種戦闘配備を取り、入港接岸を行え! 以上!」
クレア艦長が直立姿勢から敬礼してエリーを見る。
「はっ! 了解致しました! 只今より第1種戦闘配備に移行致します!」
クレア艦長は壁の艦内電話の受話器を取り全艦域に切り替え言葉を発する。
「トーラスだ! 各員に達する! 只今より第1種戦闘配備移行! 第1戦闘配備移行!」
クレア艦長は艦内電話の受話器を戻すと、今度は、無線電話の受話器を取って、艦隊共通無線に切り替える。
「こちらトーラスだ! 各艦に達する! 只今より第1種戦闘配備に移行せよ! 以上!」
『了解! 第1戦闘配備に移行します!』
護衛駆逐艦各艦より応答が入った。クレア艦長は無線電話受話器を戻す。
「エリー様、それではブリッジへ」
クレア艦長は艦長室のハッチを直ぐに開ける。
「……もう少しゆっくりしたかったけど、まあそうですね。行きますか」
エリーは少し残念そうな顔をして頷く。そうして艦長室から通路へ出た。
◇◆◇
ここはヒイズル北部島、旧王国ヤマノ自治領区キタハラ市、郊外の塀に囲まれた周囲3キロほどの神殿エリア本殿内。
奥の間でヒミカを前に5人の男女が跪き話をしている。
「ヒミカ様、計画は理解致しました。ですが、ヒミカ様まで御出馬されるのはどうかと」
1番前に跪く神殿長ヒイラギが苦言を呈した。ヒミカは神殿長ヒイラギを見て微笑み答える。
「……これは主様の命じゃ。失敗は許されぬゆえな。完璧を期せねばならぬ。それゆえに宝月を使うのじゃ」
ヒミカは瞳を見開き跪く5人を見つめて言う。
「お前達は、主様の命を分け与えられた。それをよく理解してことにあたれ。失敗は無いものと心得よ」
「はっ! 絶対にことを成します!」
神殿長ヒイラギが深く頭を下げて声を上げた。そして全員が一斉に立ち上がり静かに頭を下げると、奥の間から出て行く。遅れてヒミカも後ろを向いて一礼すると奥の間から出て行った。
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