第291話 神殿長ヒイラギとヒミカ
ヤマノ当主キタジマはお方様に面会をもとめるが
2国間和平交渉会議18日目夕方。((大陸統一歴1001年10月31日17時頃)
ここはヒイズル北部島、旧王国ヤマノ自治領区キタハラ市、郊外の塀に囲まれた周囲3キロほどの神殿エリア、ヒイズルの神が祀られ祭事が行われる施設。
ヤマノ当主キタジマは数人の護衛と共に、先ほど到着、本殿へ入って神殿長ヒイラギと話していた。
「お方様と面会したい……緊急の要件なのだ。理解してくれ」
当主キタジマが強張った顔で神殿長ヒイラギに嘆願する。
「……キタジマ様、現在、誰ともお会いになりません。お方様は休養中です」
神殿長ヒイラギが愛想のない顔で答えた。
当主キタジマが声を荒げる。
「存亡の危機なのだぞ! そもそもお前の娘も加担していたではないか! ベランドルにケンカを売ってタダで済むと思っているのか」
神殿長ヒイラギは戸惑った顔をして当主キタジマに尋ねる。
「……マキが関わっていると? そのようなはずはありません。本島へ情報収集に行って来ると」
当主キタジマは怒りの表情で神殿長ヒイラギにつかみ掛かる。
「なんと……貴様の娘はローラ使節団を襲撃したのだぞ! やってくれたものだ」
神殿長ヒイラギは戸惑った顔をして当主キタジマを見つめる。
「……それが事実なら……しかしそんな愚行を、有り得ません」
神殿長ヒイラギは語気を強めて否定した。当主キタジマは神殿長ヒイラギ襟を掴み引っ張って言う。
「情報に間違いはない。タムラにそそのかされ同調したのだ。だが全員、逆襲に遭い撃退殲滅された」
神殿長ヒイラギの顔色が青ざめ項垂れる。
「……!? そんなはずは……マキの魔導反応が感じられないのは隠蔽しているだけで?」
神殿長ヒイラギは慌てたように当主キタジマを振り払う。
「お方様に確認せねば……」
神殿長ヒイラギは駆け出し神殿の奥へと進んで行った。そして大きな扉の前で2人の警護女性神官が警戒して槍を構え、ひとりが神殿長に声を上げる。
「……神殿長! 何用ですか? ヒミカ様は休養中です! どうぞお引き取りを」
神殿長が警護女性神官の制止に構わず大きな扉に近づく。
「神殿長! おやめ下さい! タダでは済みません」
警護女性神官が槍を突き出し神殿長ヒイラギを下がらせようとするが、ヒイラギは槍の柄を掴み怒りの形相で睨み警護女性神官はたじろぐ。
「……! 神官長! これ以上はご容赦ください!」
警護女性神官が嘆願するように声を上げた。神殿長ヒイラギは扉を叩き声を上げる。
「ヒミカ様! どうか! お願い致します!」
そして扉の向こうから若い女性の声がする。
「よい! 通せ!」
その声を聞いて警護女性神官が扉を開く。50畳ほどの空間天井は5mほどあり、薄い布状の垂れ幕が奥の一段高いところに囲んでいる。うっすらとその奥の椅子に座る人物が見えた。そして神殿長ヒイラギは直ぐに前に進み跪く。
「ヒイラギよ! 要件は理解している。今回の件は我が仕組んだこと……不穏な空気を打ち払うためにな。娘マキにはすまぬことをした。謝罪しよう。相手が我の範疇を超えておった。企ては失敗した。だがこのまま手をこまねいてはおれぬ」
神殿長ヒイラギは顔を上げ幕の向こうの女性を見つめる。
「恐れながら、わたくしは何も承知しておりません。マキを勝手に動かしたと……」
「悪いのお。しかし事は急ぎであった。仕方がなかったのじゃ。我の判断は主様の考えじゃ。マキには申し訳ないが勘弁してくれ。不測の事態であったことは……主様も謝罪しておられる」
「……なんと、わたくしに命じてくださればよかったものを」
神殿長ヒイラギが悲しい顔で声を上げた。
「それでじゃ。改めてヒイラギに命ずる。ヒイズル帝国第2皇女マキノヒロカをここへ連れて来てくれまいか。そもそもヤマノ剣士隊はベランドル使節団を潰し、第2皇女を拐かし連れて来るはずだったのじゃが……。返り討ちに遭い全滅した。神の加護を与えた剣士が容易く葬られた。つまり我と同レベルの者が数人おるということじゃ。使徒レベルの力を授かった者達がヒイズルに来ておる。由々しき事態と主様も不安を持たれておる。使徒の契約洗礼を受けよヒイラギ」
ヒミカは布の幕を捲り上げて前に姿を現すと言葉を発する。
「ヒイラギよ、参れ! 主様のところへ」
神殿長ヒイラギは立ち上がるとヒミカを見て頭を下げる。
「……契約洗礼とは? 主様にお目通りするなど」
ヒミカは神殿長ヒイラギのそばによると言う。
「今は、非常事態じゃ! そのようなこと気にするでない」
本殿入口から当主キタジマの声がする。
「お方様! どう言うこと何でしょうか!? ご説明をお願い致します」
ヒミカは当主キタジマにに視線を向ける。
「お前は、しばらく待っておれ! 説明は後じゃ。今やらなけらばならぬことがあるでな」
そう言ってヒミカは手を上げて警護女性神官に指示を出した。そして奥に控えていた警護剣士が前に出て当主キタジマを押さえつけた。
「大人しくしておれ! 話はしてやる」
そう言うとヒミカは神殿長ヒイラギを連れて本殿奥の間へと入って行った。
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