第289話 ローラとの面会
2国間和平交渉会議18日目午後。(大陸統一歴1001年10月31日15時頃)
ここはヒイズル帝国首都オオカワ市、中央区皇宮外側別邸、四方塀に囲まれた庭園内に大きな屋敷。
先ほどオオカワ港よりソアラとミスズが到着。応接室で早速話しを聞くことになった。エリーとソアラは瞬時に意思疎通を行い状況を理解して、段取り通り進めるだけだ。
「ソアラちゃん、ご苦労様。ソウイチロウさんは元気そうでなによりです」
エリーがそう言ってソアラを見つめる。ミシズが驚いた顔をしてエリーを見て頭を深く下げた。
「……ローラ様……、ソウイチロウ様と面識がおありなのですか?」
「……!? いえ、社交辞令の挨拶です。お気になさらず」
エリーは少し慌てた顔をして答えた。ソアラは微笑みエリーに尋ねる。
「予定通りですか?」
「はい、今のところは、ほぼ予定通りですね」
エリーは誤魔化すように答える。そしてソアラは隣りのミスズを見て尋ねる。
「ミスズ様、ローラ様の印象は噂とは全然違うでしょう?」
ミスズは困った顔をしてソアラを一旦見たから、エリーに視線を移して言う。
「……はい、可憐で綺麗なお方だと思いました。もっと大柄で武人感の溢れる方を想像していたので……。見ただけで美しくお優しいお方であることは理解出来ました」
ソアラは微笑みエリーを見て言う。
「ミスズ様はそう思われていると、ローラ様」
「……!? え……なに。それで、接触はどのように?」
エリーは嫌な顔をしてソアラに尋ねた。
「万全を期するなら、洋上が良いかと。アテナ号が最適と思います」
ソアラは直ぐに答えた。エリーは少し考えてからソアラの顔を見て言う。
「そうですね。エリー中佐の準備も有りますしね。ではクレアさんに連絡をお願いしますね」
ソアラがミスズを見て微笑み声を掛ける。
「それではエリー中佐と合流しますので、着替えますか」
ミスズは頷き答える。
「……はい」
「……一応、皇帝護衛隊の制服ですね。身長は155cmくらいなので上着はなんとかなると思いますが、パンツスタイルは無理ですね。スカートですね下着とインナーも準備します」
ソアラがミスズを眺めながら言った。エリーは2人を見て軽く右手を挙げて声を掛ける。
「私も準備が有るので、失礼しますね」
ミスズはそれを聞いてエリーに一礼した。そしてエリーは頷き応接室から出て行く。
「ローラ様は確か60才くらいと聞いていたのですが……、せいぜい20才前後にしか見えないない美少女だったのでびっくりしました」
ミスズが若干興奮気味に言うと、ソアラは微笑みながら答える。
「もう大陸では有名なことです。容姿や雰囲気だって自由自在ですからね。ミスズ様にだってなれますよ」
「……! ローラ様の本当のお姿とはどんな感じなのですか?」
ミスズが目を輝かせながらソアラに尋ねた。
「……うん! どうなのでしょう。私もわかりません」
ソアラは素っ気なく答えると顔を応接室の入り口に向ける。ドアの向こうから声がする。
「ソアラ様、お呼びでしょうか!」
「どうぞお入りください!」
ソアラが答えると、ドアが開きニコルが入って来る。
「ニコルさん、ミスズ様に皇帝護衛隊の制服をお願いしたいのですが。インナーと下着を含めてですけど。準備できますか?」
ニコルは一礼してミスズに近づき眺めてから言う。
「……下着インナーは新品を準備できます。軍服はカレン少尉のものでなんとかなると思いますが……。準備するので確認します」
ニコルは直ぐに一礼して応接室から出て行った。ミスズが出て行くニコルを視線で追ったあとソアラを見て言う。
「ベランドルは軍人に女性の方が多いのですね。しかも美人です。そして、只者ではない気配を感じました」
「……ええ、外見容姿だけじゃないのは確かです。特に皇帝護衛隊は7割が女性隊員ですから女性比率が高いですね。ヒイズルでは官職に女性の登用はないと聞いていますが。まあ実力があれば採用しなければいけないとは思いますが」
ソアラは微笑み答えるとミスズを眺める。
「ミスズ様が良ければ、皇帝護衛隊への入隊を申請してみますか? 私が推薦します。ローラ様とセリカ隊長の許可をもらえれば入隊出来ますよ」
「……!? そんなに簡単に……」
ミスズは驚いた顔をして声を漏らした。
「ええ、多分問題無く。どのみち反政府活動をしているのですから、このままヒイズル帝国に残ってもミスズ様の力を使う場所は無いと思いますが」
ソアラが嬉しいそうにミスズに言うと、ミスズが顔を伏せる。
「……やはり、我々旧王国残党勢力は終わりなのですね」
ソアラはミスズの手を優しく掴んで言う。
「……ソウイチロウ様の本意を知っているのでしょう? ミスズ様……、あの短い時間で私でも理解出来ました。長い間ともに接してきたミスズ様が気付かぬ訳は無いと思いますが」
「……! は……い、ですが、口に出すことは出来ません! 覚悟をされているのです。私はソウイチロウ様に最後までお供するつもりでおります。ですから、せっかくのお誘いお断り申します」
ミスズは寂しそうに言った。ソアラはミスズの両手をさらに握り締めて言う。
「……ミスズ様、ローラ様に任せれば良い方向へ向かいます。ソウイチロウ様も含めてです」
「……ローラ様が……ですか? この件には関わらないとのことでしたが」
ミスズは戸惑った顔をしてソアラを見つめた。
「大丈夫、ローラ様は力を貸してくれますよ。そして私も協力しますよ」
ソアラは微笑みミスズの瞳を見つめる。そしてミスズの顔が虚になり体の力が抜けていく。
「ミスズ様、貴女は私と従者契約を結んだのです。悪いようには致しません。皇帝護衛隊に入りなさい。それがソウイチロウ様のためにもなるのです」
ソアラは優しく言うと、ミスズはぼんやりした顔で頷き答える。
「はい、ソアラ様のおっしゃる通りです。私はソウイチロウ様のために皇帝護衛隊へ入隊することを希望致します」
「そうですか、ミスズ様、では希望通りに」
ソアラは微笑みミスズを見て答えた。そして応接室の入口からニコルの声がする。
「ソアラ様! 着替えをお持ち致しました!」
「はい、どうぞお入りください!」
ソアラが答えると、ニコルは直ぐに応接室に入り一礼した。
「ソアラ様、なにやら甘い香りがしますが……、気のせいでしょうか?」
ニコルがソアラに尋ねた。
「……? 私はなにも感じませんが」
ソアラは微笑みニコルに答えた。
(……さすがユーリさんの配下ですね。感が鋭い)ソアラはそう思いながら赤髪のニコルを見つめる。
「ミスズ様、着替えをお願いします。サイズはとりあえず2種類ほど持ってきたので」
ニコルがミスズを見て少し怪訝そうな顔をする。
「……それでは着替えますか?」
「……はい、お願いします」
ミスズが大陸共通語で答えた。
「下着とインナーの付け方は理解していますか? ヒイズルのものとはかなり違いますからね」
ニコルがミスズに尋ねるとぼんやりした顔で答える。
「わかりません。全てお願いしてもよいですか?」
ミスズが答えるとニコルがソアラを見て言う。
「ソアラ様も準備してください。そんなに余裕無いのでは無いですか」
「……あゝ、そうですね。じゃあ私も準備して来ます」
そう言ってソアラはニコルに一礼すると応接室から出て行く。ニコルはふっと息を吐くとミスズを眺める。
「ミスズ様、まず裸になってもらえますか、とりあえず下着インナーを着せます。自分で着れるようお教えしますので、わからないことがあれば聞いてくださいね」
ミスズが頷き衣服を脱ぎ裸になると、ニコルは準備した下着とインナーを説明しながらミスズに着せて行く。
「……この下着は動き易そうですが……感覚的にどうですかね」
ミスズが少し戸惑った顔で尋ねた。
「慣れますよ。直ぐに、ヒイズルのものとは桁違いに快適性機能性が上なことは間違いないです。特に剣士系の者には良いと思います」
ニコルが口元を少し緩めて答えた。そうして皇帝護衛隊の軍服を着せていく。
「思ったより似合いますね。一応階級章は少尉のものなので、上官には敬礼してくださいね」
そう言ってニコルは敬礼の型をミスズに指導する。そして簡単に皇帝護衛隊の階級序列を説明する。
「これは皇帝護衛隊第二種軍装、スカートスタイルです。私はパンツスタイルです。残念ですが、サイズが無いのでとりあえずスカートでお願いします。ちなみに私の階級は中尉ですので、階級はミスズ様より上となります。ソアラ様はローラ様の直属魔導部隊所属で特級魔導士左官待遇となります。ローラ様は遥か上の大魔導師、将官元帥待遇です。敬礼は教えた通りにお願いします。それとインナーと軍服には対魔法繊維が編み込まれているので、若干の攻撃耐性はありますが、当てにはしないでください。以上です」
ひと通り説明を終えるとニコルはミスズに一礼して応接室から出て行った。
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