第288話 マキノ皇帝との謁見
エリー達はマキノ皇帝と謁見する。
2国間和平交渉会議18日目午前。大陸統一歴1001年10月31日10時頃)
ここはヒイズル帝国首都オオカワ市、中央区皇宮本殿内。エリー達は黒色のベランドル皇帝護衛隊正装軍装に身を包み謁見の間にいた。
エリーの両隣のは正装したセリカとリサが控えている。
ワダ首相がエリーの前に来て一礼する。
「ローラ様! マキノ皇帝陛下がお越しになられます」
エリーは丁寧に頭を下げた。
「ワダ閣下! ご尽力感謝致します」
「……いえ、滅相も御座いません」
ワダ首相は再び一礼すると後ろにさがった。謁見の間の大扉が開く、そして男性がひとり入って来た。男性はどんどんエリーに近づくと目の前で立ち止まり頭を下げる。
「ローラ殿、お初にお目に掛かる。私はヒイズル皇帝マキノヒロトモと申す。ローラ殿の配慮に感謝致す。また、我が国の失態によりご迷惑をお掛けしたこと改めて謝罪致します」
エリーは微笑み一歩下がると丁寧に深く頭を下げる。
「マキノ皇帝陛下、お言葉深く受け止めます。わたくしベランドル帝国使節団代表、ローラ•ベーカーと申します。どうぞよしなにお願い致します」
エリーの流暢なヒイズル語にマキノ皇帝は少し驚いた顔をする。
「……皇女達に聞いてはいたが、ローラ殿のヒイズル語はかなりのものですな。失礼な物言いかもしれないが、容姿とズレがかなりある」
エリーは一瞬嫌な顔をしてマキノ皇帝を見る。
「お褒め頂き、光栄です」
エリーは頭を深く下げて誤魔化した。マキノ皇帝は少し屈んでエリーの手を取って言う。
「ローラ殿、今後も私も含めヒイズル帝国のことよろしくお願い致します」
エリーが戸惑っているとリサが前に出て、マキノ皇帝に言葉を発する。
「恐れながら申し上げます。今後については正式な外交団訪問時に、お話しくださいますようお願い致します」
リサはそう言って深く頭を下げた。
(……マキノ皇帝、距離が近いし遠慮が無いね。そんな感じの演出なのかもしれないがないけど? 大陸の諸外国の皇帝や王族とはなんか感じが違うし……)
エリーはそう思いながらマキノ皇帝と距離を取る。マキノ皇帝は姿勢を正すとエリーを見て尋ねる。
「ローラ殿は見た感じ、まだ随分とお若いようだが、結婚はされているのかな」
エリーはさらに後ろに下がり頭を下げた。
「いえ、結婚はしておりません」
エリーは後ろに控えるセリカが苛立っていることに気づいて伝心念話で制止する。
〈セリカさん! 抑えて! ワザとやってます。乗せられてはいけません〉
《……はい、しかし……、この物言いは少し勘弁なりません》
セリカの伝心念話からは怒りが伝わってくる。
〈(ここは我慢だよ! セリカさん! リサさん!〉
エリーは伝心念話でリサにも伝える。リサは顔を下げたまま我慢している。
《……!》
マキノ皇帝はエリーの顔を見て微笑み言う。
「それならどうですか? 皇太子ヒロミチとの婚約を願いたいのだがいかがかな? ローラ殿、より友好も深まると考えるが」
控えるセリカが顔を下げたまま手が震えている。リサは顔を下げた無表情に反応しない。
そしてエリーは冷静さを保ちながら微笑み優しく答える。
「マキノ皇帝陛下、大変光栄な申し出では御座いますが、残念ながらお断り申し上げます。わたくしはアルカン全域に安寧平安をもたらすことが責務! 今は婚姻婚約など出来るはずもございません! そして私と結婚する資格を有する者は、私より強者と決めております」
エリーは冷静にマキノ皇帝を見つめる。
(魂に揺らぎも、濁りもない……、覚悟を持って私を試している! 何が目的かはわからないけど? 情報ではマキノ皇帝は愚者では無く堅実な知者だと聞いている。ただ争いごとが嫌いで判断力に難ありとも聞いていましたが……)
エリーが考えていると、マキノ皇帝はエリーによって跪き頭を下げた。
「ローラ様、大変失礼を致しました」
「……!?」
エリーは戸惑った顔をしてマキノ皇帝を見つめる。そしてマキノ皇帝が興奮したような顔をして声を上げる。
「ローラ様がお優しい方であることは、娘達より聞き及んでおります! 大陸の英雄ローラ様がどのようなお考えで今回の訪問をされたか! ただ我がヒイズルを支配下に置くためなのか! 私は斬り捨てられる覚悟をして臨みましたが……、結果は私が愚かな試みを行ったのだと……。愚かな私をお許しください! 今回のヤマノの襲撃も画策されたものと疑ってしましました! ですがそれは違うのだと……」
マキノ皇帝はエリーに跪き頭を深く下げた。エリーは屈み込みマキノ皇帝と視線を合わせて言う。
「陛下、戯れでよかったです。ほっとしました」
マキノ皇帝は顔を上げると隣りのセリカを見て頭を下げた。
「セリカ殿! 本当にご迷惑をお掛けしました。今回の襲撃で負傷されたにですね。謝罪致します」
セリカは急な謝罪に戸惑った顔をしてとりあえずマキノ皇帝に頭下げた。
「……いえ、私が不甲斐なかっただけです。マキノ皇帝陛下が謝罪することではございません」
後ろで見守っていたワダ首相が慌てた様子でエリーのそばにより跪き頭を下げる。
「重ね重ねご迷惑を……」
「……! うん、そうですね。エラン陛下が知ったら激怒すると思いますので、ここだけの話にしておきます」
エリーはそう言ってマキノ皇帝の両手を持って一緒に立ち上がる。
「……それでは、私はワダ首相閣下とお話しを致しますので、失礼致します」
エリーは微笑みマキノ皇帝に頭下げる。
「ローラ様はもっと横暴な方と思っていました。ですがお会いして慈愛に満ちた優しいお方だと理解致しました。無礼な振る舞い本当に申し訳思っております」
マキノ皇帝がエリーに申し訳無さそうな顔で謝罪した。エリーは言葉を聞いて頭を下げる。
「いえ、一国の皇帝として覚悟をお持ちであることを理解致しました。私もヒイズルのために協力させて頂きます。万全の体制をとり予定通りの日程を進めますので、どうぞご容赦ください」
マキノ皇帝は頷き答える。
「私で出来ることであれば、全力で協力致します」
そう言ってマキノ皇帝はワダ首相と少し話をしてエリーに頭を深く下げて謁見の間から退出して行った。
エリーは先ほどから無言でうつむいているリサを見て声を掛ける。
「リサさん、それでは今後の打合せを、移動しますよ」
リサは顔を上げると無表情に言う。
「ローラ様……あのような無礼、お許しになるのですか? ローラ様を試す!? 私は我慢なりません」
エリーはリサの肩に優しく触れると微笑み言う。
「リサさん……私のためにありがとう。でもね、こんなことで冷静さを失ったらダメだよ。リサさん、これから心をえぐられるようなことはもっとあるんだよ。感情的にならない。力を持つ者は冷静に判断して最適に、力を行使しなければならないんだよ」
リサはエリーを見て頭を下げた。
「……はい、申し訳有りません。お言葉心に刻みます」
セリカも頷き言う。
「私も怒りに身を任せて行動をしようとしました。また、自分が未熟者と思いました」
エリーは2人を見て微笑み言う。
「マキノ皇帝は斬られる覚悟があったからね。ヒイズルの将来を憂いていた。なかなかの人物だと思うよ。皇女殿下を悲しませなくてよかったよ」
ワダ首相と秘書官がエリー達に近づき声を掛ける。
「ローラ様、官邸の方へ移動をお願いします」
エリーはワダ首相に頭を下げた。
「ワダ閣下、今後についてはよろしくお願いします」
そう言ってエリーはリサとセリカを見て微笑み歩き出した。
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