第286話 行動と方針
2国間和平交渉会議18日目早朝。(大陸統一歴1001年10月31日8時頃)
ここはヒイズル帝国首都オオカワ市、中央区皇宮外側別邸、四方塀に囲まれた庭園内に大きな屋敷がある。別邸周辺道路はヒイズル近衛師団第一連隊が完全武装で厳重な警備体制敷いていた。
朝1番より皇女達がエリーを訪問、謝罪をしていた。第1皇女ミヒロ、第2皇女ヒロカが揃って応接室に座り正気のない顔で謝罪を繰り返している。
エリーはうんざりした顔をして2人を見て口を開く。
「ミヒロ殿下、ヒロカ殿下、謝罪は結構です。そもそもお二人は今回の使節団受け入れ責任者では有りますが、警備に関しては責任は無いと思います。そこまですることは有りません。ワダ閣下から説明を受けるので、お話しはそちらで致します」
第1皇女ミヒロが悲しい顔をしてエリーを見つめる。
「……我が国の失態です。ローラ様……、私には謝罪することしか出来ません」
そう言うとミヒロ皇女は椅子から立ち上がり、タタミに正座すると両手をついて頭を下げた。ミヒロ皇女の長い束ねた黒髪がタタミについている。
エリーは椅子から立ち上がり、ミヒロ皇女のそばによると屈んで背中に手を添える。
「ミヒロ皇女殿下、事はもうすでに政府の責任問題で有ります。殿下の謝罪は受け入れますが、問題は解決出来ませんよ。ですからそのようなことはしなくて良いです。お気持ちは理解しました」
そう言ってエリーはミヒロ皇女を両手で抱えて抱き起こした。
「……本当に」
ミヒロ皇女はゆっくりエリーに寄り掛かりながら起き上がると、瞳を潤ませてエリーの顔を見た。
(……ミヒロ皇女は責任を感じている良いだけど、しょうがないよね)
エリーは少し申し訳無い様な顔をしてミヒロ皇女を見て言う。
「では、大変申し訳ございません。私達は今後についての打合せがございますので、お引き取りくださいませ」
ミヒロ皇女とヒロカ皇女はエリーを見て諦めたように深く一礼すると応接室を出て行った。
後ろに控えていたリサがエリーの横に来て尋ねる。
「マキノ皇帝は皇女達を訪問させてどうしようと思ったのでしょうか? 私には理解出来ませんが……」
エリーは椅子に座るとリサの顔を見て言う。
「時間稼ぎだよ。閣議はまだ終わっていないからね。とりあえずワダ閣下の要請で皇女殿下を差し向けた感じかな。閣僚の意見がまとまることは無いと思うけど、結論は出さないといけないからね。ワダ閣下も大変だよね」
リサは少し間を置いて躊躇ったように言う。
「それで、話は変わりますが、ヤマノの剣士ですが。今、セリカさんが聴取中です。意識は戻り問題は無いようですが……」
「そう、ヒイラギマキさんでしたね。記憶域と精神体を調整したので適応障害とか出なければ良いのですが? 私も確認しますね」
エリーはリサを見て答える。
「それと使節団の名簿に含まれていなので、追加合流人員として、登録しておきたいのですがよろしいですか?」
リサがエリーに尋ねた。
「……そうだね。名前も必要だね。じゃあニコルさんの親戚にしておこうか、双剣も使うしね。ジャンヌさんでお願いします。偽装スキルで髪色と瞳の色は変えておくから心配は無いね」
エリーが答えると、リサは頭を下げて応接室から出て行った。
◇◆◇
ここはヒイズル帝国首都オオカワ市、中央区官庁街、首相官邸。
閣議室にはヒイズル帝国、全閣僚が集まり討議を行っていた。皇帝より招集が掛かり、すでに4時間ほどが経過している。閣僚達はエリーより提示された要求への回答、ベランドル帝国への謝罪対応、ヤマノへの対応等を話し合っていたが思うように閣議は進んでいなかった。
ワダ首相が痺れを切らし声を上げる。
「ローラ様への回答時刻が迫っております! こうなれば陛下のご裁断を仰ぐしかございません。まずは、ローラ様の4項目の可否を!」
ワダは立ち上がると衝立の奥に控えるマキノ皇帝に伺いをたてる。
「陛下! もはやご裁断を仰ぐしか無いものと……どうかご裁断を!」
一瞬、間をおいてマキノ皇帝が答える。
「ローラ殿の要望事項は全て受け入れよ。今回の不手際は我が国の落ち度。そして今後の対応については各閣僚の意見を早急にまとまる事を望む。以上」
マキノ皇帝は衝立から顔出してワダ首相を見て頷く。
「ワダ、苦労を掛ける」
「……いえ、とんでもないことです。では、ローラ様のところへ」
ワダ首相はマキノ皇帝に深々と頭を下げた。
ワダは閣僚達に向きを変えて言う。
「陛下からお言葉を頂いた。これより私は別邸に向かいます。キクチ外務大臣、同行をお願いします」
閣僚全員が衝立の向こうのマキノ皇帝に深々と頭を下げた。
「陛下! では、行って参ります!」
ワダ首相とキクチ外務大臣は一礼して閣議室から出て行った。そしてドアが閉まると、閣僚達は椅子にそれぞれ座り静まり返った。
◇◆◇
ここはべランドル帝国帝都ドール市、ドール城、皇城執務エリア皇帝執務室。
朝1番より、エラン、マーク宰相、ハリー顧問が集まり話合っていた。エランがマーク宰相を見て尋ねる。
「第3艦隊の出撃はどうなっていますか? ヒイズル帝国北部島への到着までにグラン派遣艦隊と合流しなければなりませんが」
マーク宰相が真剣な顔をしてエランを見る。
「予定時刻にハーグ港を出港しております。なお、今回、航空母艦2隻が加わっておりますが、問題は発生しておりません」
エランはソファから上体を起こしてハリーを見て微笑み尋ねる。
「今回、エリー達を強襲したヤマノの部隊はかなりの者だったようですね。セリカさんが負傷したとの報告を受けていますが、万全では無かったのですか?」
ハリーは首を傾げてエランを見る。
「……お言葉は重く受け止めます。備えは十分でした。ただ、イレギュラーな存在が一部紛れていたようです」
エランは少し嫌な顔をしてハリーを見る。
「ハリーさんが優秀なことは理解しております。ですが、今回の使節団人選はトッドさんを含まないのはやはり」
「いえ、エリー様がおられる以上、他のメンバーは問題無いと判断致しました。それより、エラン陛下周辺の方が不安でしたのでトッドさんには残ってもらったのです」
ハリーはエランを見て微笑みながら答えた。
「……ええ、理解しました。ですがこの大陸にもう敵対するものなどいませんよ」
エランはソファで足を組み直してハリーを見る。
「それは、国家間での話です。まだ大陸のすべての組織を掌握している訳では無いのです。ですから油断されぬようお願いします。警護も今まで以上に強化しております」
それを聞いてエランはソファにもたれ顔を上に向ける。
「……そうですね。まだ全てが終わった訳では無いですね」
エランはハリーを見て一礼すると言う。
「申し訳ありません。気が緩んでいました」
ハリーはエランを見て微笑み言う。
「いいえ、エリー様の大切なエラン陛下に何かあれば大変です。備えは十分にしておかなければなりません」
エランはその言葉を聞いて少し顔を緩めてハリーを眺める。
「それで奥様はお元気ですか?」
「……!? はい、元気です。今は重装機兵の教官として厳しい指導をしているようです」
ハリーが嬉しいそうに答えた。エランはそれを見て微笑み言う。
「それはよかったです。ジェーンさんと夫婦の時間も取れているのですね」
「はい、そうですね。今は皇城の官舎に一緒に住んでますからね……」
エランはふっと息を吐いてハリーとマーク宰相を見て言う。
「私もそろそろ身を固めたいと思うのですが……どうでしょうか?」
マーク宰相が少し慌てて言う。
「……お相手は? しかし、誰でもとはいきませんからね」
エランはソファから立ち上がる。
「また今度お話しを致しましょう。それでは午前の閣議がありますから、お開きに致しましょう」
「……? はい、承知致しました」
ハリーとマーク宰相は一礼すると皇帝執務室から出て行った。
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