表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
299/445

第284話 ソウイチロウの怒り

 2国間和平交渉会議18日目早朝。(大陸統一歴1001年10月31日5時頃)

 ここはヒイズル帝国、首都オオカワ市より北へ300キロほど離れた港湾地方都市ナカノキタ市。郊外ナカノ川沿いの農村部民家。


 民家の居間でソウイチロウはヤマモトと囲炉裏の前に座り報告を受けていた。


「ミスズがローラ様の側近のひとりお連れするとのことです。馬をまわしたので、あと1時間ほどでこちらに到着予定です」


 ソウイチロウは囲炉裏に小枝を投げ込み、ヤマモトの顔を見て目を細める。

「……上手く行き過ぎだな。なんとなくぱっとしない」


 ヤマモトが不思議そうな顔で尋ねる。

「……何か問題でも?」


「いや、気持ちがざわつくだけだ。気にしなくていい。ベランドル、グランのどちらでもこちらに味方してくれれば盛り返す事も可能だが、まあ見込みは薄いだろう。利があれば良いが……、今、我々にそれが無い。いくらワダの裏切りを訴えたところで、ダメだろう。ヒイズルの秘宝の鍵を渡すとしてもどうだろう?」


 ヤマモトが湯呑みのお茶を一口飲んでから間を置いて言う。

「我々旧王国勢力は、反乱分子として処分される訳にはいきません。ですから我々が正当な管理者であり、ヒイズルの秘宝を譲ったとしても問題は無いのでは無いかと」


  ソウイチロウは顔を下げて嫌な顔をする。

「……それは意に反すると思うが。本来管理者としての役目は我々だが、所有者は王家だ。つまりマキノ陛下に許可を得なけばならない。俺は決して権力を手に入れたい訳では無い。ワダを排除してより良い方向へヒイズルを導きたいだけだ。だが、もはや人心はワダの政権を認め支持しつつある。手遅れなのかもしれんが……。最後のチャンスだ。やれる事をやるまでだ」


 ヤマモトはソウイチロウの顔を見て寂しそうに言う。

「すでに宝物庫から神格の刀を持ち出しており、一刀が行方知れずになっています。それはどう致しますか?」


 ソウイチロウは少し口を緩めて笑って言う。

「あゝ、10刀の神格の刀剣のうち3刀を封印を解いて持ち出したからな。ただ扱える者は神格の術者だけだ。普通の者が使ったとしてもダダの丈夫な刀に過ぎん……。しかし、オオヨド商館事件の紫髪少女は凄かった。いきなり三日月刀を使いこなして賊軍を退けたからな。勢いで預けてしまった」


 ヤマモトが呆れたように言う。

「……あれは不味かったですね。父君にひどく叱られましたね。でも大陸にあのような少女剣士がいようとは驚きでしたね。グラン連邦国士官学生とか言っていましたが。大陸戦争を生き残っているのでしょうか?」


 ソウイチロウは囲炉裏に小枝を放り込む。

「必ず三日月刀を返しに来るさ。そんな感じがする。……歳は聞いていなかったが。お前の妹よりは年下だろうな。……? まだ士官学生かな軍役にはついていないかもな」


 ヤマモトが足を組み直してソウイチロウを見る。

「では、あの少女に会うまでは死ぬ訳にはいきませんね」


 ソウイチロウは目尻を下げて頷く。

「……あゝ、そうだな」


 居間に慌てた様子のソウイチロウの妹トヨミが入って来た。

「オオカワでの情報が入りました!」

 ソウイチロウはトヨミを見て嫌な顔をして声を上げる。

「なんだ! そんなに慌てて」

 トヨミは動揺した顔でソウイチロウを見て言う。

「ローラ様が襲撃されたとのことです」


 ソウイチロウは目を細めてヤマモトを見る。

「……まさかとは思うが、暗殺されたとかは無いよな? かなりの強者だと聞いているが……」


 ヤマモトは首を横に振り言う。

「さあ……、ヤマノが関わっているのならあり得ない事も無いかと。今回の同行護衛も少人数しかいないとの情報でした」


 ソウイチロウはトヨミを見て機嫌の悪い顔をする。

「万が一に備えて、全員に通達してくれ、直ぐに移動出来るよう旅支度をせよと。あとは正確な情報が欲しい。トヨミ頼んだ」


 トヨミは頷く直ぐに居間から出て行った。ソウイチロウは立ち上がりヤマモトを見ると声を上げる。

「ローラの側近が来るが、万が一敵対した場合に備える。準備しておけ」


「はい、ですが、気づかれたら疑いを持たれます。よろしいのですか」

 ヤマモトはソウイチロウに心配そうに尋ねた。

「それぐらいは、大丈夫だ。当然、敵になるか味方になるかわからないのだからな」

 ソウイチロウがそう答えるとヤマモトは一礼して居間から出て行く。ひとり残ったソウイチロウは囲炉裏の炎を見て呟く。

「……ヤマノのバカが、余計なことを」



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ