第283話 リカバリー
2国間和平交渉会議18日目深夜。(大陸統一歴1001年10月31日3時頃)
ここはヒイズル帝国首都オオカワ市、中央区皇宮外側別邸、四方塀に囲まれた庭園内に大きな屋敷がある。エリー達は別邸内30畳ほど居室内に居た。そこには、エリー、リサ、セリカ、そして捕らえた女性剣士ヒイラギマキが布団に横たわっている。
エリーは先ほどソアラと伝心念話を行い落ち着かない雰囲気でリサと話している。
「ソアラちゃんがヒイズル旧王国残党勢力と接触するそうです。とりあえず報告しておきます」
リサはそれを聞いて少し心配そうに言う。
「……エリー様、大丈夫なのですか? バックアップも無しに接触して」
エリーは迷ったような顔をして答える。
「まあ、ソアラちゃんが安全と判断したのですから、大丈夫と思うけど……」
「……どうしたのですか? らしくないですよ。何か問題でも」
リサはエリーの顔を見て尋ねた。
「……、ソアラちゃんを脅かすような脅威は無いと思うけどね」
エリーがそう言うとリサが怪訝そうな顔で見つめる。
「……エリー様、先ほどから気持ちが落ち着かない様に見受けられます。それに2重3重に用心され策を講じらるのに、今回は焦りを感じます。なぜですか? 理由をお聞かせください」
リサが心配したように言った。エリーは少し間を置いて小声で答える。
「……探していた人が見つかったんだよ……、たぶんね」
「……? 探してていた人! それは3年前のですか?」
リサはハッとしたように言った。
「……まあ、私が行きたいとこだけど、そう言う訳にもいかないしね」
エリーは視線を布団で仰向けで寝かされている女性剣士ヒイラギへと向ける。
「……で、どうするの。あのヒイラギマキさん」
リサが先ほどまで魅了スキルを発動、ヒイラギの体に魔力を通していた。ヒイラギは空な目で天井を見つめて顔は緩み、口からよだれが垂れていた。
「……少しやり過ぎましたかね? 魔力耐性があるので徐々に通したのですが……」
リサはエリーを見て申し訳ないような顔で答えた。セリカは後ろに置かれた椅子に無言で目を閉じて座っていた。
エリーはセリカを見て少し嫌な顔をして言う。
「セリカさん、どう思いますか。これダメな感じでしょう」
セリカからの返事は無い。エリーがゆっくりセリカのそばによると寝息が聞こえる。
「……!? 寝てる? セリカさん?」
エリーがセリカに触れようとすると、リサが声を掛ける。
「そっとして置いてあげましょう。セリカさん今日は消耗は大きかったみたいですから」
「……ええ、そうだね。さすがのセリカさんもだね」
エリーはセリカをマジマジと見て、椅子にキチンと座って寝ている姿勢に感心した。
そしてエリーはリサを見て言う。
「ヒイラギさん魔力飽和昏睡だよね。じゃあ私がとりあえず調整してみるよ」
そう言ってエリーは治癒スキルを発動ヒイラギの体に触れる。エリーの体が白い光に包まれて、その光がヒイラギの体を包み込んだ。
ヒイラギの顔が緩み笑顔になる。しばらくエリーは魔力循環を行いヒイラギの魔力バランスを整えた。
「……とりあえずだね。大丈夫のようです」
エリーはそう言って立ち上がりリサを見る。
「危ないところだったよ。精神体がぶっ壊れる寸前まで魔力を流すなんてリサさんらしく無いね」
エリーがそう言うとリサが少し悲しそうな顔をする。
「申し訳ありません。早く情報を引き出そうと焦ってしまいました」
仰向けに寝ている女性剣士ヒイラギは戦闘中の凛々しい精悍さはもはや無い。緩んだ目尻に鼻水が垂れ、口元は緩みよだれを垂れてうわごとを繰り返している。
「……? しばらくすればある程度意識は戻るでしょうけど、これでは使い物になりませんね。しょうがないですね。女神の紋章を刻んでそこにとりあえず仮の人格を形成しますか。記憶域を少し操作して繋ぎ込みます」
エリーはそう言って意識を沈める。リサが慌てて周囲に防御結界を形成した。そしてエリーの意識が一瞬薄れ、瞳が朱色から真っ赤な色に変わり目が若干吊り上がり、髪色が紫色から美しい銀髪に変わっていく。
「……リサ、お前はまだカミュ様の力を使いこなしていない。もっと繊細な魔力制御が必要だ。強力な力を得ても使いこなせなければ意味が無い。その事を肝に銘ぜよ」
エリーの言葉を聞いてリサが跪き頭を深く下げる。
「はい、セレーナ様! 肝に銘じます」
エリーは白い光を纏いヒイラギのからに触れる。そして女神の紋章術式を展開してヒイラギの体に刻んだ。そして記憶域の操作と復元人格形成を行う。
「リサ、最終人格形成を行う。適当な人格で良いか? 希望があれば申せ」
リサは一瞬考えて遠慮したような顔をして答える。
「……では、謙虚なソアラさんでお願いします」
「……? ソアラ•アルベインか? 良くわからんが謙虚な美少女キャラてことだなぁ! まあ理解した。だが美少女か……? なら見た目も少し調整しよう」
エリーは頷くと、ヒイラギに魔力を通し人格を補完形成調整していく。そして5分ほどしてエリーとヒイラギを包んでいた白色の光が消えた。
「この者の女神の紋章の刻印、精神体の補完調整は完了した。リサよ! 次回からはもっと慎重に行わなければならんぞ。この者はもう別人だ。鍛錬せねばならんぞ! 良いな」
リサはエリーに深く頭を下げて言う。
「はい、力を使いこなせるよう鍛錬致します」
そしてエリーは頷き、銀色の髪は紫色に変わり、瞳の色も朱色に変わった。エリーは両膝をついてハッと息を吐いて言う。
「……とりあえず終わったね。じゃあリサさん仮眠をとりますか? 私がマキさんは見ておきます」
「……いえ、私が朝まで、え、ローラ様、お休みください。ご迷惑をお掛けしましたので」
リサは、エリーを見て微笑みながら言った。
「そうね、なら任せるよ。リサさんお願い」
エリーはリサの肩に手を優しく触れると頷いて、セリカの前に移動する。
「セリカさん……さあ! 起きてください」
セリカはエリーの声に直ぐに目を開く。
「……、ローラ様……瞑想をしておりました」
「そうなんだ? セリカさん寝室へ行きましょう。とりあえず処置は終わりました」
セリカは椅子から立ち上げと、エリーに一礼して少し寂しい顔をする。
「役に立たず申し訳ありません」
エリーはセリカの横によると右手を腰に添えて優しく言う。
「なんですか? 気にする必要は無いです。朝から忙しくなりますよ。とりあえず寝ましょう」
セリカはブルーの瞳を若干潤ませエリーに頷くと言った。
「はい、気持ちを切り替えます。自分は自惚れていました。常に日々精進致します」
エリーはリサの方を見て左手を軽くあげてセリカと共に部屋を出て行った。
そしてリサは仰向けに寝ているヒイラギを一旦見て後ろの椅子に座ると、ため息を吐いた。
「……」
◇◆◇
ここはヒイズル帝国ナカノキタ市湾内域、岬の端1キロほど沖合、停泊中のグラン連邦国軍最新鋭ミサイル巡洋艦アテナ号艦内。
ヒイズル旧王国残党リーダーソウイチロウと接触するための段取りを、警備隊尋問室でソアラとミスズが2人で話しをしていた。
ソアラは机の反対側に座っている黒髪の美女ミスズに尋ねる。
「詳細は理解しました。最後にお尋ねします。まずは私がソウイチロウ様にお会いするのですが、安全性の担保が有りません。ですので、ミスズ様には私と契約を結んで欲しいのです。従属の契約ですね。もちろんことが終われば解消する事も出来ます」
ミスズは一瞬考えてから強張った顔をして答える。
「それはお断りすることは出来ませんね。……はい、承知致しました」
ソアラはすぐにミスズの両手を優しく包み込みエメラルドグリーンの瞳で見つめる。
「ミスズ様、気持ちを楽にして体の力を抜いてください。そして私の目を見てくださいね」
ソアラの指示に従いミスズはリラックスしようとするが上手くいかない。
「……良いですよ。直ぐに終わりますからね」
ソアラは優しく言った。そしてミスズはソアラの瞳を見つめる。少し間を置いてソアラが微笑むと瞳の色が金色の変わりミスズは意識を失った。
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