第281話 それぞれの計画
エリー達の計画は予定通り進行していた
2国間和平交渉会議18日目深夜。(大陸統一歴1001年10月31日2時頃)
ここはヒイズル帝国首都オオカワ市、中央区皇宮外側別邸、四方塀に囲まれた庭園内に大きな屋敷がある。ヒイズル来賓館より3キロほど移動した場所にある。周辺には近衛師団1個連隊が展開、厳重な警備体制を敷いている。
エリー達は馬車でここに移動した。オオカワ市内全域には周辺から臨時召集された。ヒイズル帝国陸軍3個師団が完全武装で展開臨戦体制をとっていると情報が入っていた。
エリー達はいま別邸居室内でリサと話していた。
「戒厳令が敷かれたようですね」
エリーがリサに尋ねた。
「いえ、非常召集です。部隊には詳細は説明せず、軍の警戒召集のようです。憲兵隊はかなり慌ただしく動きまわっているようですが。情報が外に漏れないよう情報統制が行われているようです」
リサは答えると水差しとグラスをテーブルの上に置いた。
「では、私達が襲撃を受けたことは伏せられている訳ですね。プランはこのまま進行でよろしいですか?」
エリーは、大きなソファの上で両足を伸ばして横になる。
「はい、ハリー様の予定通りでよろしいと思います。クレア中佐も動かれています。現在進行に障害は無いものと判断します。それとヒイズルの諜報機関も動いていますが、我々の計画に支障はございません」
リサはグラスに水を注ぐと、手を添える。
「ありがとう。リサさん」
エリーはグラスを持って水を一気に飲み干した。
「それで、あの剣士は?」
エリーはグラスをテーブルの上に置いて尋ねた。
「はい、体調等、問題ありません。エリー様の戦闘での一撃でコアを破壊、あの者の主は死亡したものと認識していると思います。いまはセリカさんがついております。詳しくは部屋を移してからお話し致します」
エリーは苦笑いして言う。
「……あゝ、コアを破壊!? もう少しで不味かったですね。手加減したつもりでしたが……」
リサはエリーに微笑み答える。
「エリー様のお力は日々上昇しております。以前と同じおつもりでもそれを上回るものと。セレーナ様と結び、同一化すればするほどそのお力は増すものと思います」
エリーは少し戸惑った顔をする。
「……それは……ですね。徐々にエリーとセレーナの境が無くなっていくと」
エリーを見て、リサは少し躊躇ったように言う。
「……私は、承知しております。エリー様が選択せねばならないことを。エリー様はどうされたいか決めかねてらっしゃることも理解しております。ですが、どう決断されましても私はエリー様について参ります。どうかご安心を」
エリーはソファから立ち上がる。
「ありがとう。リサさん……」
「……いえ、ではセリカさんのところへ」
エリーとリサは部屋を一緒に出て行った。
◇◆◇
ここはヒイズル帝国、首都オオカワ市より北へ300キロほど離れた港湾地方都市ナカノキタ市。
郊外ナカノ川沿いの農村部民家。ソウイチロウの宿泊部屋に妹のトヨミが慌てたように入って来て声を上げる。
「兄様! オオカワで騒動が起こったようです! かなり混乱しております」
ソウイチロウは布団をめくり起き上がる。
「トヨミ……そんなに慌てて!」
「はい、兄様! 詳細は掴めませんが! 全域に陸軍が展開されたようです! それと反乱分子狩りが行われて、怪しいモノは片っ端から連行されているとのことです」
ソウイチロウはトヨミを見て眠そうな顔をする。
「ここは大丈夫だろう。朝でも良かったんじゃ無いのか」
トヨミは布団に潜ろうとするソウイチロウの手を引っ張り見つめる。
「それが、ベランドル帝国のローラが関わっているようなのです」
「……!?」
ソウイチロウは直ぐに布団からでる。
「ミスズは! どうなっている」
トヨミがすぐにソウイチロウの顔を見て頷き答える。
「まだ、同行したものから連絡はありません。上手く行ったとも」
「まずい! ローラが関わっているのなら艦隊が動くかもしれん。これでは計画が失敗する」
ソウイチロウは慌てて部屋を出る。慌ててトヨミも後を追いかけた。ソウイチロウは居間に入るとミスズの兄ヤマモトカズトモが待っていた。
「ソウイチロウ様、オオカワでのこと、かなりの規模の陸軍が動いております。潜んでいた密偵の拠点が3ヶ所ほど潰されました。タンバ殿からの情報によればヤマノが動いたとの情報ですが、詳しくは全くわからないとのことです」
ソウイチロウは居間のたたみに座ると、あとから入って来たトヨミに言う。
「水を一杯くれるか……酔いが醒めていない」
「はい、兄様」
トヨミは直ぐにオオカメからしゃくで水を汲み上げ湯呑みへ注いだ。
ソウイチロウは湯呑みを受取り喉を鳴らして一気に飲みきった。
「……トヨミ、ありがとう」
「……」
トヨミは嬉しそうにソウイチロウを見つめる。
「オオカワでの情報収集は必要だな」
ソウイチロウはヤマモトを見て言った。
「ソウイチロウ様、それよりミスズは予定通り接触させるのですか」
ヤマモトが心配そうに尋ねた。
「あゝ、我々は接点がない。大陸諸国がローラに同調した今、諸外国との個別接触は困難だろう。だから直接ローラと接触して話をせねばならない。そうしなければ、俺たちはただの反乱分子としてヒイズル帝国に処分される」
ソウイチロウはヤマモトを見て頷き言う。
「お前の妹には申し訳ないが、頑張ってもらうしかない。手が無いのだ……」
ヤマモトはソウイチロウを見て声を上げる。
「ミスズは必ず成功させます! 吉報を待ちましょう」
「……あゝ、上手く行く。艦隊が動いていなけらば」
◇◆◇
ここはヒイズル帝国ナカノキタ市湾内域、岬の端1キロほど沖合。
グラン連邦国軍最新鋭ミサイル巡洋艦アテナ号と護衛駆逐艦3が投錨停泊していた。
アテナ号情報分析室内でクレア艦長が奥の椅子に座りモニターを緊張した顔で見ていた。
クレア艦長はヘッドセットをつけてやり取りをしている。
「了解しました! ソアラ様は帰投させます。0500にオオカワ湾へ出港でよろしいですね。はい、準備致します」
通信が終わるとクレア艦長はヘッドセットを外して立ち上がる。
「私は、ブリッジへ戻る。あと緊急連絡が入ったら速やかにまわせ!」
クレア艦長はハッチを開けて情報分析室から出る。直ぐに船首方向に進みエレベーターに乗り込んだ。
クレア艦長がブリッジに戻るとタイラー副長が寄って来る。
「トーラス艦長! 警備隊から連絡が入っています! 艦長の判断を仰ぎたいと」
「なんだ! 急ぐか?」
クレアは無表情に尋ねるとタイラー副長は小声で答える。
「はい、実は警戒域にて小舟に乗った侵入者を捕らえたのですが、少し厄介なことを申しているようでして。艦長の確認をお願いしたいと」
「……侵入者? ヒイズル側へ引き渡せばよいではないか」
クレア艦長がそう言ってタイラー副長から離れようとすると。
「実は、旧ヒイズル王国の者だと申しているようなのです。ですから、ローラ様への確認も必要が有るのではと思いまして」
クレア艦長はそれを聞いて表情を変える。
「そうか、そうだな。侵入者はどこだ」
クレア艦長が尋ねる。
「はい、警備隊の尋問室に」
タイラー副長が答えると、クレア艦長は視線を合わせて頷く。そして直ぐにエレベーターへと向かい乗り込んだ。
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