第280話 ローラの要求
エリーはヒイズル帝国首相ワダに要求を伝える。
2国間和平交渉会議18日目深夜。(大陸統一歴1001年10月31日1時頃)
ここはヒイズル帝国首都オオカワ市、中央区官庁街。四方塀に囲まれた美しい白亜のヒイズル来賓館。ヒイズル近衛師団、ヒイズル陸軍憲兵隊が来賓館周辺を囲み厳重な警戒体制を敷いていた。
来賓館2階応接室、中央のテーブルにはエリー、リサが座り反対側にはヒイズル帝国ワダ首相、近衛師団長、キクチ外務大臣が座っている。
ワダ首相は襲撃後、30分後には来賓館に到着してエリー達に謝罪と現在の状況説明を行っていた。エリーはその間、不機嫌そうに対応していた。
「今回の件、ヒイズル帝国は一切関与していない事は、何度も伺いました。しかし、1番安全なハズの首都でこのような事態が発生した。それが問題なのです。私は危うく大切な部下を失い掛けました。許されることでは有りません! 警備に配置されていたヒイズル帝国の警備隊の皆様には申し訳ありませんが……、ほんとに残念です。これは国際問題なのですよ」
エリーはそう言ってエリーは目を細めワダ首相の反応を伺う。
「……、ローラ様、我が国としましては、状況の把握がまだ十分になされておりません。失態であることは重々承知しております。ですが……いえ、この問題に関して緊急閣僚会議を開き決定致します。現状対応に関して回答は出来ませんのでご容赦ください」
ワダ首相は強張った顔をして答えると一礼した。
(……なんたる失態! ローラにこのような形で会わなければならんとは……)
ワダ首相はそう思いながら隣りのキクチ外務大臣に視線を送る。キクチ外務大臣は戸惑った顔をして視線を逸らした。
「……!」
「ローラ様には皇宮別邸にお移り頂きたいのですが……よろしいでしょうか?」
ワダ首相が遠慮したように言った。
「今から移れとおっしゃるのですか?」
エリーは隣りのリサを見ながら苛立ったように言った。
「……はい、この来賓館ではやはり問題があると思いますので、十分な警備体制は敷いております。何卒、お願い致します」
そう言ってヒイズル帝国の3人が申し合わせたように頭を下げた。
エリーはテーブルの反対側に3人を見つめて答える。
「まあ、良いでしょう。不測の事態でしょうし、理解致します」
「……ありがとうございます。ローラ様に感謝申し上げます」
ワダ首相はほっとしたような顔をしてエリーを見つめて再び頭を下げた。
エリーは立ち上がりヒイズル帝国の3人に丁寧に頭を下げる。
「それでは、要求事項を申し上げます。首都上空を含むヒイズル帝国全域での我が航空機の飛行を認めること。グラン連邦艦隊の自由航行を事前申請があれば認めること。あとは、警護部隊の増強を認めること。そして今回の襲撃グループの素性が判明した場合、我々の直接的報復措置を認めること。以上の4点を認めてもらえますか?」
ワダ首相が引き攣った顔をしてエリーの顔を見て一旦顔を伏せてから、キクチ外務大臣と顔を見合わせる。そしてワダ首相は頭を深く下げて答える。
「……ローラ様、それは……申し訳ありませんが。閣議にかけて閣僚の了承を得る必要があります。そして我が国の皇帝の承認を必要とします。急ぎ検討致しますのでご理解をお願い致します」
エリーは呆れたような顔をして椅子から立ち上がり、応接室の窓際まで移動する。
「ワダ閣下、現状をご理解されていらっしゃらないようなので、もう一度申し上げます。私はもう危険に晒される訳にはいかないのです。だから自分の身は自分で守ると言っているのです。身の安全が保障されない以上、打つ手は打つと申し上げているのです」
ワダ首相は慌てたようにエリーのそばに駆け寄ると膝をつき頭を下げる。
「ローラ様! どうか! ご容赦を! 我が国の不手際深くお詫び申し上げます。私の一存で決定出来ないのです」
そう言ってワダ首相は必死の形相で項垂れ声を上げる。
「……どうか! ご猶予を! すべてご要望にお応え出来るよう尽力致しますので……時間をください! お願い致します」
エリーは口元を緩め屈むと、ワダ首相の手を優しく握って答える。
「はい、承知しました。ワダ閣下のご尽力に期待致します。ご希望通り別邸へ移動します。それと襲撃者に関して私達も尋問を行い情報は得ています。正確かどうかは不明ですが。ヤマノ領が関わっているようですね」
「……ええ、ローラ様、ヤマノ領に関しては調査中です。我々も情報を得ておりませんので、お答え出来ません……。それらを含め早急にご報告を致しますので、ここらでご勘弁を」
そう言って憔悴しきったワダ首相がエリーの手を握り締める。
「……! はい、ではそう言うことで」
エリーは優しくワダ首相から離れ立ち上がると、リサが直ぐにエリーのそばに来る。
「ローラ様、準備をしますので移動をお願い致します」
「はい、了解です。それではワダ閣下、失礼致します」
エリーは疲れた表情のワダ首相を見て言った。そうしてエリー、リサはヒイズル帝国の3人に一礼して応接室から出て行った。
ドアの閉まるのを確認してキクチ外務大臣が、ワダ首相をに機嫌の悪い声で言う。
「完全に我々の失態ですな。まさかヤマノがこんな暴挙を……」
「あゝ、対応を誤れば大陸との戦争にもなりかねん事態だ」
ワダは床から立ち上がり力無く言った。
近衛師団長がワダ首相に少し躊躇ったように報告する。
「北部島にいたハズのヤマノ上位剣士達が多数参加していたようです。完全にローラ様を仕留めるつもりだったと考えられます」
ワダ首相は近衛師団長を虚な目で見て言う。
「あゝ、だろうな。周辺を警備していた近衛の精鋭が簡単に突破されている。我々は油断していたのだな……。今更だが、もっと備えるべきだった」
キクチ外務大臣がワダ首相を見て強張った顔する。
「しかし、そのヤマノ上位剣士隊を、ひとりの死者も出さず壊滅させたローラ様の皇帝護衛隊は……いったいどうなっているのか? 確か20人ほどしかいなかった。50人のヤマノ上位剣士隊を壊滅とは……、ヒイズル近衛警備隊は100名以上の死傷者を出したと報告を受けている。逸材揃いと言うことなのか……」
キクチ外務大臣はため息を吐き、ワダ首相を見て肩に手を添える。
「ローラ様達に死者出なかったことは、救いだった……最悪の事態は避けられたのか……、だがあの雰囲気は不味かった」
ワダ首相は顔をパンと平手で叩くと、キクチ外務大臣を見て声を上げる。
「急ごう、閣僚を招集して閣議を開かないと、陛下もお呼びせねば。ヒイズル帝国の命運が掛かっている」
「近衛師団長! ローラ様の別邸移動は頼めるか?」
ワダ首相が近衛師団長を疲れた表情で見る。
「はい、お任せください」
近衛師団長は余裕のない顔をする。
「大丈夫だ。もう危険はない、これ以上すきにはさせないよ。影の者も首都に召集をかけた、とりあえずは安心してよい」
ワダ首相はそう言ってキクチ外務大臣に頷くとキクチ外務大臣はワダ首相の耳元で呟く。
「あのローラ様、私の娘と変わらん年齢にように見えるが、ただならぬ気配を感じた。敵にならないようせねばならんな」
「……もちろんだ。急ごう! 時間が無い」
ワダ首相は慌てたように近衛師団長を残して、キクチ外務大臣と応接室を出て行った。
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