第278話 双剣のニコル
セリカの危機を双剣のニコルが救う
2国間和平交渉会議17日目深夜。(大陸統一歴1001年10月30日23時頃)
ここはヒイズル帝国首都オオカワ市、中央区官庁街。そこに1キロ四方塀に囲まれた美しい白亜のヒイズル来賓館。
来賓館正門側、セリカ率いる皇帝護衛隊と、ヤマノ特戦隊隊長ヤマキタ率いる特戦隊剣士隊の戦闘が行われていた。そしてセリカは相手女性剣士ヒイラギにより、思わぬ手傷を負わされ追い込まれた。トドメを刺そうとしたヤマキタ、女性剣士ヒイラギの一撃を突然、現れたエリー付き護衛兼メイドであるニコルが双剣の剣技で退けた。
弾かれて地面に倒れ込んだ女性剣士ヒイラギは、立ち上がり体勢を整える。そしてスーツ姿のニコルを見て少し嫌な顔をする。
(……この赤髪の女は双剣を操り、私の速度に対応した……これほどのものが、まだ残っていたのか。時間が無いのに……疎おしい!)
双剣のニコルはセリカの前に出て特戦隊隊長ヤマキタ、女性剣士ヒイラギを牽制する。
「セリカ様、私は短時間しか戦闘維持出来ませんが。ローラ様が来られるまでの繋ぎでございます。……セリカ様は安心してお休みください」
セリカは意識が薄らいでいくなか、ニコルに返事をする。
「……ニコル殿……頼んだ」
痺れを切らした特戦隊隊長ヤマキタがニコルに飛び出し仕掛ける。ニコルは直ぐに体を捻り斬撃をいなすと、双剣を同時にとんでもない速さで操りヤマキタの左右へ体を入れ替えながら、連続の突きを放つ。ヤマキタは刀を巧みに振って、いなすが防ぎきれずに腕や体に細かい傷を次々と負いたまらず退く。そこへ女性剣士ヒイラギが割って入り牽制した。
女性剣士ヒイラギが苛立った風にニコルに声を上げる。
「あなた! なぜこのような剣技をどこで!」
ニコルは女性剣士ヒイラギの問いにヒイズル語で返答した。
「まあ、支障無いのでお答え致します。ベルニスの暗殺秘剣です。源流はあなたのものと同じかと」
女性剣士ヒイラギはそれを聞いて少し嫌な顔をする。
「……ベルニスの暗殺組織もすでにローラの配下なのですね」
ニコルは双剣を構えて言う。
「大陸は今や、表も裏もローラ様に平伏しています。逆らって痛い目を見るのは明らかですからね。あなた達がかわいそうでです。この所業はヒイズルに大いなる厄災をもたらす事でしょう」
特戦隊隊長ヤマキタは腕を押さえながら、女性剣士ヒイラギに言う。
「ここは撤退だ! もはやこれまでだ!」
女性剣士ヒイラギはそれを振り払い冷たい瞳で見つめて言う。
「何を、これはあなたの失態です。これほどの被害を出して……」
特戦隊隊長ヤマキタはそれを聞いて顔を歪める。
「ヒイラギ! お前その物言いは!」
女性剣士ヒイラギはショートソードを前に構える。
「ヒイラギ一門はあなたの配下に入ったつもりは有りません! 今回は是非とも協力してくれとおしゃって参加したのに……このザマ……ほんと情け無い……」
女性剣士ヒイラギは、特戦隊隊長ヤマキタに吐き捨てるように言うと、前に出る。
「ヤマキタ様! せめてあの剣士を討ち取ってください! 私はあの赤髪剣士を抑えます」
◆◇◆
同じ頃、裏門側ではエリー率いるブラウン商会特殊部隊とヤマノ諜報長官タムラ率いる特戦隊剣士達との戦闘が終わりを迎えようとしていた。
タムラの周囲に特戦隊剣士5人が防御陣形を取ってエリー達と対峙している。突入した20人のヤマノ特戦隊剣士精鋭は、わずかな時間でタムラの周囲にいる者だけとなっていた。
(……手筈ではもうこちらへ来るはずだが? ヤマキタも苦戦しているようだ。もはやこれまでか……。最終奥義を使うしかないのか……だが)
タムラが考えている間にも、防御している特戦隊剣士がひとり倒された。タムラは声を上げる。
「お前たち! すまん! もはやこれまで! 最期まで我に従い礼を言う! せめてローラに報いよう!」
そう言ってタムラは魔力を刀に全投入すると、特戦隊剣士達が一斉に前に出て防御魔力障壁を展開した。
エリーは右手をあげて、ブラウン商会特殊部隊員に指示を出す。
「手を出さないでください! 私がやります」
エリーは一気に魔力量を増大、体を包む光がドス黒い色に変わり迸る、それを見てタムラは一瞬躊躇った顔をする。
(なんだ!? 魔力が際限無い? このローラ……人間では無い! 人間ならば我々がこんなになるはずがない)
タムラはエリーの位置を確認すると、一気に飛び出し左斜め下から、内部破壊魔力を込めた2段斬撃を放った。
エリーはドス黒い煙のような魔力を体に纏い、軍刀を上段から猛烈な速度で振り下ろした。タムラの放った斬撃は衝撃波とともに打ち払われた。
「……なぁ」
タムラはローラと距離を取り、力尽きた顔をする。
(もはや……魔力も残っていない……。だが、やるしかない)
タムラの体が白色に輝き始める。タムラは刀を両手で握り締める。
エリーはそれを見て少し悲しい顔をして言う。
「では、最後にお聞き致します。投降するおつもりは有りませんか?」
タムラは刀を握り締め言う。
「愚問! しかしローラ殿がヒイズルの刀をお使いとは驚きです。しかもかなりの名刀のように見受けられます。それを難なく使いこなす技量、私はうかつだったようです。最期くらい察してください! ローラ殿! いや! ローラ様! あなた様と交えられた事に感謝致します! では」
エリーは軍刀を右中段に構えてタムラを見据えて言う。
「覚悟は立派ですが……私は好きでは有りません」
そしてエリーの姿が瞬時にタムラの前に重なる、エリーの軍刀はタムラの胸部を突き抜け、背中から剣先が突き出ている。
エリーはゆっくり軍刀を抜いてタムラを支えながら地面に寝かせた。
周囲にはヤマノ特戦隊剣士の動ける者はもう残っていない。
「それでは、私は正門がへ向かいます! あとはよろしくお願いします!」
エリーは直ぐに飛ぶようなスピードで来賓館の裏口へ入って行った。
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