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第275話 諜報長官タムラ

エリーの思惑通り動きだす

 2国間和平交渉会議17日目深夜。(大陸統一歴1001年10月30日23時)


 ここはヒイズル北部島、旧王国ヤマノ自治領区キタハラ市、中央庁館。

 会議室に自治領の主要メンバー5名が集まっていた。全員緊迫した顔をしている。

「……それは事実か?」

 白い口髭を蓄えた自治領行政長官ヨソギが黒縁メガネの外事交流長官キタムラにか細い声で尋ねた。

「はい、事実です。オオカワですでに行動を開始しているようです。もはや手遅れです……」

 黒縁メガネの外事交流長官キタムラが答えると、恰幅の良い50代くらいの防衛軍大将キモトが声を上げる。

「申し訳ない! ワシの管理の不手際だ!」

 そう言って、防衛軍大将キモトはメンバーに頭を下げた。


「……打つ手は無いのか? もしローラを討ち取った場合……どうなる?」


 白い口髭を蓄えた行政長官ヨソギが、黒縁メガネの外事交流長官キタムラに困惑した顔で尋ねた。外事交流長官キタムラは顔を伏せて間を置いて答える。

「……討ち取った場合にせよ。失敗したにせよ。ヤマノはベランドル帝国の報復を受けるでしょう……」


「……だろうな。タムラの奴はどうして暴走した? そこまでバカでは無いはずだ……」


 短髪の財務長官カクタニが声を上げる。

「みなさん! 今、タムラを責めたところで何も変わらない! 早急な対応を!」


 行政長官ヨソギは短髪の財務長官カクタニを見て言う。

「では、カクタニ殿は、どんな方策を?」


「……それを討議しているのでは!」

 短髪の財務長官カクタニが機嫌が悪そうに声を上げた。


 それらを黙って見ていた短髪白髪の領当主キタジマが声を上げる。

「もはや、タムラを罷免、謀反人とし、同調した諜報部隊を反乱分子としてヒイズル帝国、ベランドル帝国へ通知するしか無いのではないか」


「……それはもはや手遅れかと……。ことは第二段階に進んでおります」

 行政長官ヨソギが力無く言った。外事交流長官キタムラが立ち上がり言う。


「一刻も早くベランドル帝国政府へ連絡を入れましょう! とりあえず事実説明を!」


「……しかし、どう連絡して良いものか? 決してからでは……遅い。我々はベランドルとの外交ルートを持っていない。クリフォードかベルニスのルートから接触して連絡するしかない」

 行政長官ヨソギが黒縁メガネの外事交流長官キタムラに動揺した顔で言った。


「確実なのはベルニス王国ルートでしょうか? クリフォードはワダ政権寄りなので、拒否される恐れが、それに正しく伝わるかどうかも心配です」


 領当主キタジマが焦ったように立ち上がり言う。

「ベルニス王国に仲介を打診しよう。急ぐべきだ。キタムラ頼んだぞ」


「……は、はい、では、タムラを謀反人として、同調した諜報部隊が動いたと言うことで、よろしいですね」

 外事交流長官キタムラが領当主キタジマに確認した。

「あゝ、そうだ! タムラは謀反人だ。我が意に反して暴挙に出たと」


 行政長官ヨソギが領当主キタジマを悲しい顔で見る。

「ですが、最悪の場合は、キタジマ様をはじめ全員首を差し出す覚悟は必要かと思います」


 恰幅の良い5防衛軍大将キモトが声を上げる。

「……聞き入れてもらえなければ、最後は、玉砕覚悟で潔白を証明すれば良いのではないか!」


「キモト殿……あなたは、ギューデンの要塞都市マラリスでの惨状を知らないのですか?」

 外事交流長官キタムラが苛立ったように吐き捨てるよに言った。


「……あゝ、そのことはある程度知っている。」

 防衛軍大将キモトが小さい声で答えた。


「軍事力的には上であったマラリスが半日持たないかったのですよ」

 外事交流長官キタムラがさらに苛立った声で言った。そして行政長官ヨソギが手を挙げてテーブルを叩く。

「もうよいではないか! さっさとやるべきことを頼む! 今は言い合いをしている場合ではない!」

 それを聞いたほかのメンバーは視線を下げた。


「ヨソギ、すまぬ。お前の言う通りだ」

 領当主キタジマが頭を下げた。それを見て行政長官ヨソギが慌てて頭を深く下げて言う。

「キタジマ様! どうかお止め下さい! そんなことより打てる手を出来る限りやりましょう」

 外事交流長官キタムラが一礼すると会議室から出て行った。行政長官ヨソギが防衛軍大将キモトに目を細めて言う。

「思念通信は出来ないのか? それで作戦を中断させれば傷口は抑えられるのではは!」


 防衛軍大将キモトは行政長官ヨソギを諦めた顔をして見てから答える。

「それは試みたが……残念ながら無理だった。何やらオオカワ市周辺に強力な魔導結界が展開されているようなのだ。それと電話等の通信も障害が発生している。原因は調査中だが今のところわからない……」


 行政長官ヨソギは動揺した顔をして言う。

「まさかタムラか!? 奴の配下が、バカものが! くっそ! 電信機は使えるか?」


 そう言って行政長官ヨソギは部屋から慌てて出て行く。


 諜報長官タムラは前日より姿を消して北部島では確認されていなかった。状況はこうであるヒイズル旧王国ヤマノの自治領。ヒイズル帝国新政権に変わり旧王国時代自治領として半ば独立運営していた。だがヤマノ領を新政権ヒイズル帝国は自治権を認めず戦争を仕掛け、占領統治しようとした。だが、強力なヤマノ領魔導武士団により戦線は膠着し、ベランドル帝国ローラの訪問を受けお互い合意して休戦協定を結んでいた。

 それを好機と捉えたヤマノ領(通称北の勢力)諜報長官タムラ•キヨタロウは独断専行して、武士団上位剣士を密かに動かしてローラ使節団強襲を敢行したのであった。

 ヤマノ領(通称北の勢力)上位剣士は諜報部隊もしくは防衛軍部隊に所属しており、人数はそう多くはない。ヤマノ領全土で50人ほどしかいない。そのうちの30人が今回、ローラ使節団強襲に参加している。大陸で言えば特級魔導剣士から上級魔導剣士に相当するレベルである。


 そして、諜報長官タムラは覚悟を決めて自ら、諜報特戦隊隊長ヤマキタと共に実行部隊に加わりローラ使節団の宿泊所、ヒイズル来賓館を襲撃するのである。


 諜報長官タムラの考えは完全にアンドレア、ベルニス諜報によって情報操作され誘導されたものであった。諜報長官タムラは、このままいけば、ヤマノ領はジリ貧でヒイズル帝国に飲み込まれる。それならば、大陸の英雄ローラを暗殺して混乱に乗じて勢力を盛り返す。

 そしてローラ使節団訪問情報も事前にタムラに伝えられていた。ローラ達の能力情報も事前に過小評価で情報を得ていた。

 ヤマノ領諜報長官タムラは完全に、後ろで各国諜報を配下に置いているローラ達の思惑通り動かされたのである。

 ヒイズル帝国は現在国内情勢はまだ安定していない。旧王国残党が国内に残り不満が燻り、ヒイズル北部島は旧王国自治領が主権を主張して独立運営している。そこにエリー達は問題を一気に解決しよう仕掛けを行い、崩しの一手としてヤマノ領(北の勢力)を動かしたのである。

 

 ◆◇◆


 ここはヒイズル帝国首都オオカワ市、中央区官庁街。そこに1キロ四方塀に囲まれた美しい白亜のヒイズル来賓館。


 ヒイズル来賓館正門前には、ヤマノ諜報特戦隊長ヤマキタが黒い戦闘服で30名ほど引き連れ正門の守衛将兵10名ほどを斬り倒していた。

 守衛将兵達は、ヤマノ特戦隊の剣士達の前に、無残に抵抗する間もなく倒されていた。そこには圧倒的力に差があった。


 正門前には、まだ息のある守衛将兵のうめき声が聞こえる。

 門の30mほど奥にある詰所から慌てたように飛び出してくる警護将兵達10名ほどが駆け寄りライフルを斉射する。ヤマノ特戦隊の剣士達は集合すると魔導シールドを展開して銃弾を回避しながら詰め寄る。そして警護将兵達10名も次々と斬り倒されていく。

 血しぶきが舞い倒れていく来賓館警護将兵達。戦闘力の差は歴然としており虐殺にしか見えない。


 ヤマノ特戦隊隊長ヤマキタが鋭い目付きで背後の部隊員達に声を上げる。

「図面は確認しているな! 本館を一気に制圧する。ローラは見つけてもお前達では手に負えん。俺を呼べ! いいな!」


 そうしてヤマノ特戦隊30名は本館を目指して一気走り出した。

 

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます! これからも、どうぞよろしくお願いします。


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