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第269話 来賓館

エリー達は来賓館に到着した

 2国間和平交渉会議17日目、午後。(大陸統一歴1001年10月30日)


 ここはヒイズル帝国首都オオカワ市、中央区官庁街。そこに1キロ四方が塀に囲まれたヒイズル庭園がありその中に建物が5個点在している。そして中央に一際大きな3階建ての建物が来賓館である。

 エリー達はここまで馬車で移動して来た。2時間ほどの時間を要していた。ヒイズルは現在、首都周辺に軌道車用レールを敷設を急ピッチで進めているが、どんなに急いでもレール網を構築するためには、あと2年は要するだろう。自走車両もまだ10数台しか輸入されていない、ほぼ軍用輸送車両であった。自走車両をエリー達の送迎に使う案もあったが、さすがに来賓を輸送車両に乗せる訳にはいかないと却下された。そして王族用の6頭立ての馬車が使われることになったにである。

 エリー達は当初ランカーⅡでの首都乗り入れをヒイズルに申し入れたが、首都上空の飛行は拒否された。そして郊外のイズミ飛行場へ降りることになったのであった。

 移動中、豪華な馬車内でエリーはミヒロ皇女とヒロカ第2皇女と同乗して色々な話しをした。ヒイズルの歴史、文化、特に食文化に関してはエリーは興味深々で聞き入っていた。その話は甘味に目がないヒロカ第2皇女の得意分野であった。

 ミヒロ皇女はその間、セリカやリサと大陸についての当たり障りのない硬い話しをしていた。

(……なんなの、ローラ様て、聞いていた話しと全然違う!? こんなのただのヒロカと同じ女学生じゃない! これが大陸の英雄、稀代の大策略家? やはり仕立て上げられた偶像!? ローラ•ベーカー、ベランドル出身の王族系の元貴族、魔導士、元宰相、魔導剣士! 逆らう者は圧倒的な力でねじ伏せる絶対的強者……。信じられない? でも、ヒイズル語を母国語の様に操るなんて普通出来ない……それにときたま見せる圧倒的な存在感! やはり隠蔽している。この人は私などでは到底及ばない域の人間だ! たぶん?)

 ミヒロ皇女が考えていると、馬車の外の来賓所内の庭園をさしてエリーが話し掛ける。

「ミヒロ皇女殿下! すごく綺麗な庭園ですね。維持には手間がすごく掛かりますよね」


 ミヒロ皇女は慌てた様に答える。

「は、はい、庭師が毎日手入れをしております」


 エリーはミヒロ皇女に頷くと言う。

「春先には美しい花が咲き乱れると聞きましたが、見てみたいものです」


「あっ、はい、ご一緒に花見の会を催したいものです……。是非にローラ様!」

 ミヒロ皇女が嬉しそうにエリーに答えた。そして馬車は来賓館の玄関前に到着して停止した。出迎えのスーツ姿の職員が馬車のドアを開ける。セリカが立ち上がり馬車から降りるとエリーと視線を合わせる。

「……ローラ様、問題ありません」


 エリーは座席から立ち上がり、ミヒロ皇女に頭を下げて言う。

「ミヒロ皇女殿下、楽しいお話しありがとうございました。今夜は子女の集まりの催しをお願いしておりましたが。どの様になりました?」


 ミヒロ皇女は座席から立ち上がりエリーを見て申し訳なさそうに頭を下げて言う。

「出席者があまり集まらず、申し訳ありません! 50名を予定しておりましたが、私達を含め20名ほどしか参加しません。今から皇帝令を発して強制出席させますので! どうか、ご容赦ください」


 エリーが右手を挙げて言う。

「いいえ、結構です。私は名前を出していません。ですから希望者だけで十分です。ローラの名前は大々的に出せませんからね。これ以上は良いですよ。ねえ、ミヒロさま」


 ミヒロ皇女は一瞬強張った顔をして返事をする。

「……は、はい、危うく出過ぎた真似をするところでした。ローラ様申し訳ありませんでした」


 そしてエリー達は馬車から降りて来賓館の大きなドアをくぐって1階玄関に入った。豪華な大陸風の作りの内装だ。中央に広い2階へと続く階段が設置されている。装飾は品の良いものだった。エリーの横にリサが寄って小声で囁く。


「ローラ様、周囲の監視体制は最小限ですね。私達に勘繰られるのを恐れられてでしょうか? 一応周囲3キロほどには感知スキルを発動警戒していますが、今のところ問題はありません」  

 エリーは頷きセリカに視線を合わせる。セリカは頷きエリーに微笑んだ。


「……うん、じゃあぐっすり寝れそうだね」

 エリーが振り返りミヒロ皇女に一礼する。ミヒロ皇女はエリーを見て一礼すると言う。

「ローラ様、歓迎食事会まで時間がありますので、来賓室で御休憩をしてくださいませ。私達は準備がありますので一旦王宮へ戻らせて頂きます」

 ミヒロ皇女とヒロカ第2皇女がエリー達に丁寧に一礼した。ヒロカ第2皇女はエリーを見て一瞬寂しそうな顔をして去って行く。

 エリーは2人の背中を見送り、リサとセリカに小声で言う。

「ヒイズルはどう考えているのでしょう。全く閣僚の接触が無いのは……、どうも不自然です。閣僚達は、私がローラと知っているのですよ。政治的権限の無い王族の皇女を特使に当てて? まあ確かに今回は友好交流目的の訪問では有りますが、それにしてもですよ」


 リサがエリーの耳元で言う。

「お話しは部屋で致しましょう」


「あゝ、そうだね」


 少し離れたところにいたスーツ姿の男性に声を掛ける。

「すみません! 部屋へ案内してくれますか」

 男性職員が慌ててエリー達の前に来る。職員の顔はかなり緊張している。

「ローラ様……お部屋の方へご案内致します」

 そして中央階段を上がり2階廊を進んで奥に、階段室ドアの前に2人警備兵士の立っている。エリー達に気づくと敬礼して階段室ドアを開けた。

 そしてエリー達は階段室を通って3階へ入る。廊下を進んでドアの前で案内職員が頭を下げてドアを開けた。

「ローラ様! こちらのお部屋です」

 居室は30畳ほどの広さで、奥に寝室がある様だ。中央に大きなテーブルと1人掛けの大きなソファが6個並んでいる。内装は大陸風の豪華な作りだ。

「それはでは、失礼致します。御用の際はそちらの内線電話でわたくし、タジマになんなりとお申し付けくださいませ」

 そう言って職員は頭を下げるとドアを閉めて出て行った。

「リサさん、魔法結界をお願いします」

 エリーが言うとリサが頷き直ぐにスキルを発動する。

「ローラ様、盗聴等は無いようです」

 リサがエリーに言うと、エリーはだらしない顔をしてソファにどっかと座り込んだ。

 それを見てセリカが顔を顰めて言う。

「ローラ様……今夜寝るまでは、気を引き締めてください!」


「セリカさん、いいじゃない。もう身内しかいないんだから。こっち来て座ったら、ねえ」

 セリカは戸惑った顔をしてエリーの隣に座った。


 ◆◇◆


 ここはヒイズル帝国首都オオカワ市、中央区官庁街。迎賓館より3キロほど離れた首相官邸。


 首相執務室内で中央のテーブルを囲んで5人ほどの男性が話していた。

「ローラ様、来賓館に入られたとの事です。ミヒロさまは今夜の歓迎食事会準備のため王宮に戻られました。それとローラ様、随行人員は当初の予定通りのことです」

 30代の男性外務省職員がワダ首相に報告した。

「さて、どのタイミングでローラ様に接触するかだが……どうか?」

 キクチ外務大臣がワダ首相を見て言う。

「ハイダが動いている様です。接触には注意必要です」


 ワダ首相は渋い顔をしてキクチ外務大臣の顔を見る。

「ギューデンとの繋がりが露呈することは、絶対にあってはならない。ダグ•ギューデンがあの様な暴挙に出ようとは……我々が関わっていたなどと思われたら、それこそ国家の一大事となるだろう」

 キクチ外務大臣は顔を伏せて言う。

「魔都の状況は聞きましたが……酷かった様ですね。軍事力的には我が国を上回る魔都マラリスがわずか数時間で壊滅し、ローラ様、自らダグ•ギューデンを討ち取ったとのことです。ですが殺されてよかったです。余計な情報が漏れなくて」


 ワダ首相は頷き言う。

「ローラ様と個人的に上手く伝手を持てれば良いにだがな。そうすれば、ヒイズル国内も安定する」


 キクチ外務大臣がワダ首相を見て少し顔を緩めて言う。

「そう願いたいものですね。我が娘も今夜の歓迎食事会に参加させてますので、役立てば良いのですが」


 ワダ首相は椅子から立ち上がり手を軽く上げる。

「事務仕事を片付けるから、また後で」

 そう言ってワダ首相は執務机へと戻った。


 他のメンバー達は椅子から立ち上がり一礼すると、次々と首相執務室から出て行った。

 


 

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!

 これからも、どうぞよろしくお願いします。


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