第266話 ヒイズル王国残党
エリーはエランと話しをする
2国間和平交渉会議16日目、深夜。
ここはべランドル帝国帝都ドール市、ドール城、皇帝居住エリア居室内
エリーはエルヴィス帝国から帰って来て直ぐにエランの元にやって来ていた。
「明日は早朝に立つので、早く寝ますね」
エリーがベットに行こうとすると、エランが寂しそうな顔でエリーの顔を見つめる。
「エリー、話などほとんどして無いではないですか……」
エリーはエランの顔を見つめる。
「……記憶帯の共有をしたので、特に話すことはないですよ」
「……えっ! そう言うことじゃなくて、プライベートに関してですよ」
エランが少し怒った顔をして言った。それを見てエリーが困った顔をしてエランのそばによる。
「……すみません。お姉様も激務で疲れが溜まってますよね。はい、わかったよ!」
「じゃあ、なんでも話してよ!」
エリーがベットの端に座って手を広げる。それを見てエランが戸惑った顔をして言う。
「……そうじゃなくて……」
「……? まあ確かに寂しいよね。お姉様こころから話せる相手は、今は私ぐらいだものね」
エリーが笑顔でエランを見て言った。
「……! なに! 確かにそうです」
エランは寂しい顔をする。エリーがエランの肩に手を優しく添えて顔を近づけて囁く。
「……ゴメン、エランお姉様……お姉様が覚悟を持ってベランドル帝国を支えていたことは知ってるよ。そのためにバカなお姫様を演じていたこともね。いっぱい我慢してたのもね。だからワガママだって不満だって、私に言っていいよ」
エランが少し潤んだ朱色の瞳でエリーを見て言う。
「エリーだって女神様の加護で運命を翻弄されているじゃない……」
エリーは微笑んで目の前のエランの顔を見て言う。
「……違うよ。セレーナが私で無かったら……、多分、お姉様と今、こうして話なんていないし。大陸の混乱は収束していないと思うよ。多くの出会いや事柄は女神の導きによってなされている。そう、この時代の必然なんだよ。だから逃げないし役目を果たす。でないとみんなが不幸になっちゃう……」
エランはエリーの肩を抱き寄せ抱擁する。
「そうですね。今の私があるのもエリーのおかげですよね。あゝ、私たちは女神に選ばれたのですよね」
エリーはエランを優しく押して身体を離す。
「……やっぱり、眠いから寝るよ」
エランが少し間を置いてエリー尋ねる。
「……エリー……、トッドさんについてですが?」
エリーはベットでシーツを被りエランの方を見る。
「えっ! トッドさん?」
「……ええ、トッドさんが笑ったところを見たことがないのです」
「……? 笑わない? そんな事ないよ。普通に笑うよ」
エリーは枕に頭を沈めて目を閉じる。エランはエリーを見つめて躊躇ったように言う。
「私といる時は何となく……、素っ気なくて、事務的対応なのですよ。トッドさんは命の恩人であるし感謝もしております。もっと打ち解けてフレンドリーに接して欲しいのですが」
エリーは目を閉じたまま言う。
「……なんなんだろうね? トッドさんとはもう7年くらいだけど最初から優しくて良い人だと思うけど……、まあ、1ヶ月くらいじゃそんなものかも。それにお姉様はベランドル帝国皇帝だからね」
「……あゝ、皇帝!? そんなものどうでも良いのですけどね。私としては壁を取り除きたいのですけど」
エリーが目を開けてエランを見て言う。
「じゃあ、ヒイズルから帰ったら一回入れ替わってみますか? 私と、それでトッドさんの反応を見るのはどうですか?」
「……! ええ……、そうですね。それは良いです。エリーお願いするわ。素のトッドさんを見てみたいです」
エランが嬉しいそうにエリーに転がって近寄り肩を叩いた。
「……嬉しいそうですね? そんなにですか?」
エリーが戸惑った顔をする。
「……約束ですよ。エリー、ではそう言うことで、明日も早いし寝ましょうね」
エランはそう言ってシーツに潜り込んだ。
◆◇◆
ここはヒイズル帝国、首都オオカワ市より北へ500キロほど離れた地方都市ミズノ市市街地歓楽街。
飲み屋2階一室に20代から40代の男性が10人ほど集まって飲み食いをしていた。2階は貸切で他の客はいない。
「ナカムラ様、どうされるおつもりですか?」
30代半ばくらいの小太りの男性が20代後半の短髪の目鼻立ちの整った男性に話し掛けた。
「……どうしたものか? うかつには動けんだろうな。なんせ相手は大陸の英雄ローラだからな」
ナカムラと呼ばれて男性は酒をおちょこでスッと飲み干すと思案したような顔をする。
すると、1番奥に座っていたひげずらの40才くらいの強面男性が声を上げる。
「始末すれば良いのでは、大混乱ですよ。我々の剣技を持ってすれば容易いことでは無いのですか」
ナカムラと呼ばれた男性が直ぐに目を釣り上げて怒った顔をしてひげずらの強面男性に言う。
「あんたバカなのか! そんなことしたらヒイズルが終わっちまうよ! ローラの武人としてもかなりのものだが、それ以上に圧倒的な軍事力を有している。そんな単純なことも理解していないのか?」
ひげずらの強面男性は不服そうに言い返す。
「ナカムラ様! ワダの奴らも一緒に殲滅させられるてことでしょう! 良いじゃないですか!」
ナカムラはおちょこをひげずらの強面男性に投げつける。男性はおちょこをかわして壁に当たって砕け散った。ひげずらの強面男性は驚いた顔をしてナカムラを見つめる。
「テメエは、なんのためにやっている! ただ復讐のためか! それならいまここで、俺が叩き斬ってやる!」
そう言ってナカムラはそばに置いていた刀の柄に手をかけると刀身を抜き放った。周りの4人ほどが慌ててナカムラを抑え込む。
「ソウイチロウ様! どうか、抑えてください! タムラは大切な仲間です。酒が入って考えが巡らなかっただけです」
そばでナカムラを抑えている男性が声を上げる。
「タムラ! ナカムラ様に早く謝罪を入れろ! 本当に死ぬぞ! 早くしろ!」
タムラと呼ばれたひげずらの強面男性は直ぐ土下座すると必死の形相でたたみに額を擦りつけて言う。
「ナカムラ様! 考えが足りませんでした! 申し訳ありません! 多くの人民が死ぬようなことが許されるべきもありませんでした。どうかお許し下さい!」
ナカムラは前に出ようとするが周囲の者が必死で抑え込む。
「タムラは十分理解しております。どうかここは抑えてください! ソウイチロウ様ここで味方を殺しても良いことなど何もありません」
「……! わかった! 許そう……、だが次回はないぞ! 肝に銘じろ」
そう言ってナカムラは刀を鞘に収めた。周りの者は安堵した顔をしてナカムラの周りに座って、おちょこをナカムラに渡して酌をする。
20代半ばの細身の男性がナカムラを見て言う。
「打つては聞いておりますが、どうやってローラに接近するおつもりですか? オオカワ市ではまず接近は困難かと」
ナカムラは細身の男性を見て言う。
「チカトキ、ローラはヒイズルの地方都市をお忍びで巡るそうだ。タンバさんにはもう手筈を頼んでいる。ローラは今回、正式訪問ではない偽りの身分で訪問するそうだ。これはチャンスなんだ。我々が正規のヒイズルの運営者であるとローラに認めてもらえれば、逆転もあり得る。このまま薄汚いワダ一派にやられたまま引き下がる訳にはいかない」
細身の男性がナカムラを見て驚いた顔をして言う。
「説得出来ますか? ローラとはかなりの策略家だと聞いております」
ナカムラは立ち上がり部屋の全員を見渡して言う。
「やらねばならん。それだけだ。ローラの力を得なければもはや、我々に勝ち目はない」
「……ソウイチロウ様ご自身が行かれるのですね」
細身の男性が尋ねた。ナカムラは頷き答えた。
「あゝ、他に誰が行くというんだ。俺しかいないだろう」
そして全員が立ち上がりナカムラに一礼した。
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