第264話 皇女ミヒロ
エリーは精神体と肉体の回復処置を行った
2国間和平交渉会議16日目午後。
ここはエルヴェス帝国、ルーベンス市より500キロほど西の地方都市ハイヤ。エリー達はハイヤ郊外の大森林地帯の中のカミュの地下神殿にいた。
エリーは昨日の正午には、ここに到着して精神体と肉体の回復処置を開始して24時間ほど経過している。
ここカミュの地下神殿にはリサ、セリカの2人が同行している。エリーがカプセルに入り治癒回復処置をしている間、セリカとリサはガーディアンと闘技場で模擬戦を行っていた。
セリカとリサは剣技模擬戦を行い苦手分野の改善も同時に行っていた。エリーが眠っている、その間2人の面倒は管理者ドリアンが見ていた。
セリカは白の修練着で闘技場内で魔導剣の素振りを繰り返していた。リサは少し離れた20mほどの半円に囲まれた場所で魔力の展開修練を行っている。闘技場内に男性の声が響く。
『エリー様がそろそろお目覚めになります。どうされますか? そのまま修練を続けますか?』
セリカが素振りをやめて言う。
「ドリアンさま、エリー様のところへ参ります」
リサは魔力展開を中断して魔力を収縮させた。
「はい、私も参ります」
そしてセリカとリサはとりあえずシャワーを浴びて、汗を流すと普段着に着替えてエリーの眠っている回復処置室へと向かった。セリカとリサが室内に入るとエリーは透明のカプセルの中に全裸で浮いていた。管理者ドリアンの声が響く。
『あと2分ほどでお目覚めになります。お待ち下さい』
セリカがカプセルのエリーを見てリサに呟いた。
「……エリー様、成長されてますよね……?」
リサは前によりカプセルに浮いているエリーを姿を見て言う。
「はい、そうですね。この短期間でより女性らしくなられたと……」
リサはエリーに見惚れていると周囲が赤点滅を始めた。そして管理者ドリアンの声がする。
『まもなく終了します。開放するので離れてください!』
そしてエリーのカプセルが動き始める。そしてカプセルが縦から角度が徐々に変更されて横になり、繋がれているパイプから液体が排出される。
エアー排出音と共にカプセルの密閉ロックが解除され、ガラス面が上部へ開放される。
「ゲッホ、グエッホ……!」
エリーは口の中の液体を吐き出し、しばらく顔を歪めてカプセルから上体をカプセルの脇につかまりゆっくり起こす。そして周囲を虚な目で見渡した。
『エリーさま、お目覚めですね。気分はまだ優れないと思います』
神殿管理者ドリアンの声がする。直ぐにリサとセリカがそばに来て、エリーにリサがガウンを背中から被せた。
「エリー様、大丈夫ですか?」
セリカが声を掛けた。エリーは潤んだ朱色の瞳でセリカを見つめて言う。
「……うっ! まあいい感じですよ。引っ掛かりが取れた感じで、爽やかな朝です」
セリカがエリーの顔を見て不思議そうな顔をする。
「……? それは……、大丈夫と言うことですね」
リサはガウンでエリーの上半身を覆いながら嬉しそうな顔をする。
「エリー様、揺らぎが無くなりましたね。良かったです」
リサはエリーを支えて立ち上がらせた。エリーが少しよろめいてリサの肩にしがみついた。
「ちょっと、全身のバランスが……」
セリカがリサの反対側からエリーの腰に手を回して支える。
「……、大丈夫ですか? しばらく横になりますか?」
セリカがエリーに言うと、エリーはぼんやりとした顔で言う。
「……とりあえずシャワーを浴びます」
「では、シャワールームまでお連れします」
セリカがエリーの体を両手で引き上げと、リサが少し嫌な顔をしてセリカを見て言う。
「そんなに引っ張らないでください! エリー様が痛がっていますよ」
「……!? あゝ……、すみません」
そうしてセリカはエリーの左腕を抱えて、リサと一緒にエリーの上半身を支えながら回復処置室から出てシャワールームへと向かった。
◆◇◆
ここは東方の島国国家、ヒイズル帝国首都オオカワ市首相官邸内。
30畳ほど広さの首相執務室。そこに中央付近に6人掛けのテーブルと両サイドにソファーが置かれている。そのソファーに黒いスーツ姿のワダ首相と隣には外務大臣が座り、反対側のソファーには紺色のワンピースを着た黒髪の二十歳くらいの美しい女性が座っていた。
「ミヒロさま、わざわざお越しくださりありがとうございます」
ワダ首相が黒髪の美しい女性に頭を深く下げた。ミヒロと呼ばれた黒髪の美しい女性はワダ首相を見て微笑み言う。
「いいえ、ワダさま、私は父より国家の命運を握る最重要要件であることは聞き及んでおります。そして覚悟もしております。早く段取りをしておかないと間に合わなくなります。担当官からの説明と資料には目を通しておりますが。直接、ワダさまとお話ししないと最後の詰めが出来ませんから」
ワダ首相はミヒロ皇女を見て真剣な顔をする。
「では、今回の件謹んでお願い致します。ベランドル帝国ローラ様ご訪問接待役責任者ミヒロさま、資料等の説明ではお話しには上がっていないことをお伝えいたします」
ミヒロ皇女は頷きワダ首相を見る。
「はい、噂程度は聞き及んでおりますが」
ワダ首相はミヒロ皇女を見て頭を下げる。
「ミヒロさま、今回の件、大変申し訳なく思っております。ローラ様のハーレム入りをお願いしたいのです。ですが当然、ローラ様に気に入ってもらえなければ、それも叶いませんが」
ミヒロ皇女は寂しそうな顔をしてワダ首相を見つめる。
「はい、承知しております。ローラ様のハーレムは容姿が良いだけでは無く、個々の能力が高いのですね。知性、武、魔法と何かしらの高い能力値を持っている。私では難しいと……」
ワダ首相は直ぐに否定するように言う。
「いえ、ミヒロさまの魔導拳武のレベルは陛下譲りのかなりのものです。私などが申し上げるのは大変礼を欠くものと存じますが、容姿に関してもお美しく品を備えておられると思います。そして知性も王族内において秀でていると思います」
それを聞いてミヒロ皇女が少し照れた顔をして尋ねる。
「では、なぜですか?」
「ローラ様の好みかどうかです」
ワダ首相は直ぐに真顔で答えた。
「……! まあ確かに、そうですね」
ミヒロ皇女は少し考えた顔をする。
「まずは、気にいられることですね。尽力致しますので、ワダさまご安心ください!」
ミヒロ皇女はワダ首相を見て微笑み言った。
ワダ首相はミヒロ皇女を見て少し間を置いて言う。
「ミヒロさま、まずはローラ様のハーレム入りをお願い致します。今まで大陸においてハーレム入りの女性を出している国は優遇されているのは間違いございません。反対に敵対し女性を差し出していない国は徹底的に叩きのめされています。大陸の大陸軍国家ジョルノ共和国です。ローラ様自ら出撃し、たった半日で主力の機甲軍団が壊滅したと言うことです」
ミヒロ皇女がワダ首相を少し強張った顔をして見つめる。
「もし……ローラ様と敵対した場合。ヒイズルはどうでしょう?」
ワダ首相は顔を伏せて答える。
「その場合……、多くの人民が死亡すると思います。当然、我々の勝利は無いかと……、陸戦近接戦闘なら活路もあるかと思いますが、相手は圧倒的な海軍力、航空機とか言う新戦力を有し国土の大半は戦場と化しヒイズルは壊滅的打撃を受け軍人のみならず多くの人民の犠牲を出してローラ様の前に跪くことになると思います」
ミヒロ皇女はワダ首相を見て頷き言う。
「……やはりそうですよね。ワダさまも交渉を頑張ってください。私も覚悟を決めて頑張りますので。昨日より、女性の扱いのレッスンも受けております」
「……ミヒロさま……」
ワダ首相はソファーから立ち上がりミヒロ皇女に深く頭を下げた。
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