第258話 突入準備
エリーは地下施設への突入準備を進める
2国間和平交渉会議14日目昼。
ここはライオネル連合共和国、魔都マラリス市マラリスタワー。
エリー達はマラリスタワー地下入口前にいた。リサが先ほど女神の紋章を刻み込んだハンナの回復を行っている。通常女神の紋章を刻み従属契約を行った場合、1日から2日間は倦怠感と思考能力が大幅に低下する。それが自然に体と精神が適応し回復するのを待つのだが、今回はリサの中の女神カミュのチカラを使い体と精神の回復を一気に行った。当然副作用もある。まだ十分に適応していないのに無理に回復させて力を使えば、1週間から10日間ほど倦怠感が続きより魔力適応に時間を要することになる。
そしてエリーが無理にハンナを回復させたのは、地下施設を攻略してダグ•ギューデンを早急に仕留めるためである。
エリーは横たわっている回復処置の終わったハンナを見て言う。
「とりあえず4、5時間は大丈夫そうですね。リサさんありがとう」
エリーの隣りに立っているリサが少し寂しそうな顔をする。
「いいえ、それは良いのですが。……ローラ様、僅かですがマナエナジーの流れに乱れが生じています。疲れが溜まっていらしゃるようです……」
エリーはリサを見て微笑み言う。
「リサさん、カミュさまのチカラを得て、私の魔力を見れるようになったんだね。とりあえず今回の件が片付いたら休養するからね。自分でも自覚しているから……」
そしてリサの瞳を見て頷くとハンナを抱き起こす。
「ハンナさん、起きてください!」
エリーはハンナに微量の魔力を通した。そしてハンナが薄目を開けてエリーの顔を見て驚いた顔をする。
「……あ、ああ……め、女神セレーナ様……」
エリーはハンナを抱えたまま優しく声を掛ける。
「いいよ、まだ、十分に動けないから」
エリーはリサに視線を移すと。
「バリアス中隊のビルトさんを呼んでもらえますか! 10分後に地下施設に突入しますので準備をと」
リサはヘッドセットを耳につけると腰の端末を操作して通信を行う。
「こちらエンペラーワン! ビルト小隊長! 至急地下入口前まで来てください! 10分後に突入とのことです」
『こちらビルト! 了解! 装備一式お持ちします!』
ビルト小隊長は応答すると無線は直ぐに切れた。
「ローラ様、ビルト小隊長はこちらに準備して来るそうです」
リサはエリーに言うとエリーハンナの脇に手を回して抱えながら立ち上がる。
「はい、了解です。それでリサさん、ハンナさん記憶領域を確認しましたか? どう思いました?」
リサは少し悲しそうな顔をして言う。
「……まあ、不幸と言えば不幸なのでしょう。私が同じ立場だったら同じように出来たかどうか? もしかしたら生きていないかもしれませんね……たぶんですが。私は本当に環境に恵まれたのだと思います」
エリーはハンナのまだ虚な顔を見て言う。
「大陸はこれから大きな変動が起こりますが。それを越えられれば、きっと良い世の中になるはずです」
そしてエリーの前にビルト小隊長と小隊精鋭10人がやって来た。
「ローラ様! お着替えをお持ちしました。こちらの女性隊員がシートを用意しているのでこの中で着替えてください」
「はい、ありがとうございます」
エリーはそう言って女性隊員2人が囲うように持っているシートの中に入って、着替えを始める。パイロットスーツからブラウン特殊部隊専用戦闘服へと着替える。着替え終わってシートから出ると女性隊員2人に軽く頭を下げる。
「ありがとうございました」
エリーはパイロットスーツを収納ケースにしまい込む。そして女性隊員2人がアーマプレートをエリーに装着固定していく。
最後にバイザー付きヘルメットを被ってアゴ紐をロックした。
「これでOKですね」
エリーはそう言って軍刀を腰のベルトアダプタに装着した。
ビルト小隊長がエリーを見て言う。
「ローラ様、通信周波数確認をお願いします」
エリーはヘルメット装備ヘッドセットのケーブルを襟元のアダプタに接続、胸元のスイッチオンにする。
「こちらローラ! ビルト小隊長どうぞ!」
『こちらビルト! ローラ様OKです!』
ビルト小隊長はエリーに拳握って笑みを浮かべる。エリーは拳銃を腰のベルトホルダーから取り出し作動確認をする。
「……15連装新型銃か!? 9mm自動拳銃、ブラウン銃器工業製造……」
エリーは少し呆れた顔をしてリサを見て言った。
「これも、女神の叡智の一部ですね。ローゼ様の意向です」
リサが答えると、エリーが言う。
「……! もっと威力のあるマナレーザー銃とかにすれば」
「それは過分です。ローゼ様はここに来て多く影響力を行使されていますが、それは全て来るべき日に備えてです。必要以上のチカラは与えないそれがローゼ様のお考えです」
エリーは口元を緩めてリサに近づき肩に右手を添えて囁く。
「ローゼの言うことを全て信じちゃあダメだよ。ローゼは欺くのが上手いからね。リサさんみたいに純粋だと直ぐ信じちゃうんだから。物事は離れたところから回して思考しないと見えてこないからね。リサさんも、女神の叡智を手に入れたのだから自分で考えないといけないよ」
リサは頷きエリーの瞳を見つめる。
「はい、ローラ様の意に反するものは、たとえローゼ様でも排除致しますので、ご安心ください」
「……ええ、ありがとう」
そうして後方のレンベルTYPEⅡを見て言う。
「リサさんレンベルをお願いします。ハンナさんの準備が整い次第突入します」
リサがエリーに尋ねる。
「……ハンナさんは必要なのですか? もうすでに地下施設の情報はハンナさんに女神の紋章を刻んだ時点で把握されています。なぜですか? それに戦闘力でもユーリさん、レベッカさんには遠く及びません」
エリーは少し悲し顔をして言う。
「まあ、従属者の通過儀礼だよ。新しい主人に従う意志を示すためのね。それに地下施設を十分細かいところまで把握しているから迷うこともないしね。まるで迷路みたいだからね」
リサは丁寧に頭を下げて言う。
「はい、承知致しました! ローラ様お気をつけて行ってらしゃいませ」
そしてリサはパイロット用ヘルメットを手に取ると後方のレンベルTYPEⅡへと離れて行った。瓦礫に座らせていたハンナがエリーを見ている。
「……? だいぶ平常に戻ったようですね」
エリーはハンナの前に立ちハンナの顔を視感した。
(……女神の紋章グレード1、精神体、身体機能正常。魔力量制御も大丈夫ですね)
ハンナがエリーの前に跪き頭を下げる。
「セレーナ様! 感謝申し上げます! なんなりとお申し付けくださいませ」
エリーは嫌な顔をして言う。
「じゃあとりあえずお願いします。ローラと呼んでください。そしてあなたに元の仲間を潰しに行くので一緒にお願いしますね。私が強制的にスキルを発動すれば拒否は出来ませんが、私はそこまでするつもりはありません」
ハンナは恍惚としてわれを忘れる表情をしてエリーを見つめて言葉を発する。
「ローラ様! 承知致しました! ドリーを助けて下さった御恩お返しいたします」
「……そう、じゃあ見せてもらうよ」
エリーはそう言って声を上げる。
「ビルト小隊長! ハンナさんに装備をお願いします。リサさんの分を回して下さい」
ビルト小隊長がエリーに頷く。
「はい、了解です! ハンナさんこちらへ」
ハンナはゆっくり一礼してエリーから離れた。
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