第255話 クラリスとの面会
エリーはクラリスと面会する
2国間和平交渉会議14日目朝。
ここはライオネル連合共和国、魔都マラリスより東へ20キロほど離れた森に囲まれた農村地域。
エリーが10畳ほどの簡易軍用テントでユーリと朝食をとっているとテントの外からトッドの声がする。
「ローラ様! よろしいでしょうか?」
エリーは直ぐに食べていたハムタマゴサンドを慌てた様に飲み込んで言う。
「はい、どうぞ!」
テントをめくり上げてトッドが顔をでして頭を下げる。
「ローラ様、ライオネルのクラリス様をお連れしました」
エリーは直ぐに立ち上がり微笑みトッドを見て言う。
「こちらに案内してください」
「はい、了解です。直ぐでよろしいでしょうか?」
トッドが尋ねると、エリーは答える。
「はい、お願いします」
トッドは一礼すると直ぐにテントを出て行った。エリーはユーリを見て言う。
「もう1人分、食事を準備してください。お願いします」
ユーリは直ぐにエリーの顔を見て一礼すると、朝食の準備のためテントから出て行った。
そしてエリーはテーブル上の携帯無線機を手に取りレベッカへと通信を繋ぐ。
「レベッカさん! こちらへお願いします。クラリスさんが到着しました」
『はい、ローラ様、5分ほどで伺います。それでよろしいでしょうか?』
「はい、それで結構です」
『承知致しました』
レベッカは答えて無線が切れる。エリーは携帯無線機をテーブルの上に置いて、テントの棚から食器類を取り出すとテーブルの上に並べた。しばらくしてユーリが朝食のハムサンドと、ホットミルクの入った容器を持ってテントに戻って来た。
「ローラ様、これでよろしいですね」
ユーリは朝食をテーブルの上に置きながらエリーに言う。
「はい、お腹が空いてれば食べるでしょう。たぶんね。あゝ、それと連れの方々にもお出しするよう伝えてください」エリーはユーリを見て微笑み言う。
「ローラ様……よろしいので、ライオネルの者どもですが?」
ユーリは機嫌の悪い顔をして言った。
「はい、ソアラちゃんの件は、まあ、問題なかったので。それに優秀な配下を手に入れたので、私的にはプラス要素が大きかったですね。ライオネルをどうするかは未だ、決まっていません。ですのでクラリスさんと会って決めたいと思っています」
エリーはそう言って椅子に座ってユーリを見て尋ねる。
「魔都マラリスの状況はどうですか?」
「はい、当初予定の地上目標物破壊は全て完了との報告を受けております。バルガ航空隊は順次帰投、パイロットチェンジを行い2回攻撃予定です。あと2時間ほどで終了します。地下50m付近までは貫通弾で目標施設の破壊を行って、発電設備は全て破壊したとのことです。バルガ航空隊の攻撃終了後、ベルーダによる掃討対地攻撃を行う予定ですので、その時に重装機兵隊の出撃となります」
そう言ってユーリは椅子に座りハムサンドを手にとり口に運んだ。
「魔都への突入は、4機ですね。ソアラちゃんのレンベルには支援要員としてレベッカさんが搭乗しますから、あとは、私の機体にはリサさんが搭乗予定です。眠っている様ですが大丈夫ですか? まあ、しばらくは疲労も大きいと思うので慎重にですね。そしてユーリさんとアンジェラさんですね」
エリーは少し笑みを浮かべてカップを手にとった。
「はい、お昼前には出撃です。魔都突入時には周辺にブラウン傭兵隊の精鋭1個中隊を展開させるので余計なものは排除します。あとはベルニスのウィン殿からの情報としてアーマーパワードスーツ……、装甲強化スーツをギューデンが所有しているとのことです」
ユーリが答えてカップのホットミルクを飲み干した。
そしてテントの入口でトッドの声がする。
「ローラ様! クラリス様をお連れ致しました!」
エリーとユーリは椅子から立ち上がりエリーが答える。
「はい、どうぞ!」
トッドがテントに女性を連れて入って来た。そして女性はトッドの前に出ると深く頭を下げた。
「ローラ様、お初にお目に掛かります。ライオネル連合共和国外交局次長、クラリス•アルバーンと申します。今後とも宜しくお願い致します」
そしてクラリスはエリーに再び深く頭を下げた。エリーはクラリスに微笑み一礼する。
「ベランドル帝国、皇帝直属魔導士ローラです。ドール城では私の配下ソアラが大変お世話になりました」
「……」
クラリスはその場で左膝を地面につき頭深く下げて言う。
「大魔導士ローラさま! その節は身の程をわきまえず、大変な振る舞いを致しました。今後、ローラさまに敵意を向けるようなことは、二度とございません」
クラリスはさらに深く地面に接するほどに頭を下げた。エリーはクラリスの前に行って屈み込む。
「クラリスさん、良いですよ。そんなに謝罪しなくても。あなたの妹さんアルティさん、腹心だったグロリアさんは私に忠誠を誓ってくれています。優秀な人材を得て私はむしろ感謝していますよ。それに人的被害が無かったので良かったです。もし私の周りのモノに被害が出ていたら、ライオネルは消滅していたでしょう」
クラリスは強張った顔でエリーを見上げて言う。
「……わたくしクラリス•アルバーンはローラさまに忠誠を誓います。どうかライオネルをお救いください」
エリーはクラリスの肩に手を優しく添えて言う。
「クラリスさん……あなたは中途半端にしたたかですね。残念ながら本当の恐怖や理不尽さを理解していない。お嬢様ですね。周りに守られている事を理解していない。……まあ私も似たようなモノですが」
クラリスはエリーの顔を見ながら戸惑いながら思った。
(……アルティから聞いていたが……確かに見た目は小娘にしか見えない! だが従えている従者は後ろのトッド様、前に控える美しい女性もとんでもない殺気と魔力を一瞬私に向けた……かなりの強者である事間違いない。私は相手を見極める鑑定眼には長けていると思っているが、目の前のローラさまはよくわからない……、たぶん高次元の隠蔽スキルか何かで読み取れないのだろう。ライオネルを救うためには、私の選択肢はローラさまに従うしかないのだけど……)
エリーはクラリスの瞳を見て言う。
「クラリスさん、デリカス大統領に面会出来るようにお願いできますか? 今日中に……う……っと……夕方ですね。それでお願いします」
クラリスはエリーの顔を戸惑って言う。
「大統領ですか……。はい、承知致しました」
エリーはクラリスから離れるとユーリを見て言う。
「首都オーリスまでクラリスさんを送る手配をお願いします。それとお連れの方々はここに残ってもらいますね。クラリスさんには皇帝護衛隊のアリア中尉を付けてください。彼女が適任ですので」
「はい、了解致しました」
ユーリは一礼するとテントから出ていた。入れ替わりにレベッカがテントに入って来た。
「ローラ様、お待たせ致しました」
レベッカはエリーに一礼してからクラリスの顔を見る。
「わたくし、グラン連邦国、外事局長付き、補佐官レベッカ•グレバドスと申します。今後に付いてお話に来ました」
クラリスはレベッカを見て一礼する。
「はい、クラリス•アルバーンです。よろしくお願い致します」
エリーはクラリスに微笑み言う。
「では、準備した食事を食べながらお話し致しましょうね」
エリーはクラリスに椅子に座るように即した。クラリスはそれに応じて一礼してから椅子に座った。トッドはエリーを見て笑みを浮かべて言う。
「それでは、私は失礼致します」
「……ええ、トッドさん、忙しいですよね。一緒に朝食でもと思ったにですが」
「ありがとうございます。申し訳ありませんが、やることがあるので失礼致します」
そう言ってトッドは一礼するとテントから出て行った。
「……」
エリーはテーブルにつくと、バスケットからハムタマゴサンドを皿に移して、クラリスに差し出す。
「どうぞクラリスさん」
「……ローラ様、ありがとうございます。頂きます」
クラリスは少し怯えたような顔をしてエリーに言った。そしてレベッカからのライオネルの現状と今後に付いての説明が始まった。エリーはレベッカの隣りに座り聞いている。クラリスはレベッカに質問したりしながら詳細を把握していく。そして30分ほどのレベッカの説明が終わる。
クラリスは悲しい顔をしてエリーに尋ねる。
「ローラ様がライオネルを救ってくださるおつもりがあることは理解致しました。ですが、動乱の続くこの国をまとめよとは……」
エリーはクラリスの瞳を見つめて言う。
「出来るはずです。やってください。猶予はないにですよ。国内の最大勢力であるギューデンを潰したのですから可能です。だから大統領勢力に力を与えようと言っているのです。クラリスさん。頑張ってくださいね」
そう言ってエリーは椅子から立ち上がりクラリスの顔に近づき囁く。
「あなたは、何のためにここにいるのですか? ライオネルをまともな昔のような国にしたいのでしょう」
クラリスはハットした顔をして言う。
「はい、ローラ様、命に代えて!」
エリーは笑みを浮かべて言う。
「じゃあ、クラリスさんお願いしますね。これから魔都を陥しに行って来ますので」
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