第250話 魔都炎上
ミサイル弾が魔都を襲う。
2国間和平交渉会議14日目早朝。
ここは魔都マラリスの中心街、マラリスタワー。
ダグは攻撃予定時刻前にタワーの1階へ移動していた。ダグはマラリスタワー最上階で攻撃を迎え討つつもりだったが、フランクの嘆願に遭い強固な防御障壁のある1階に移動したのだ。ここなら万が一の際、地下シェルターへの退避も容易と思われたからだった。
フランクは直属精鋭私兵隊1個大隊をマラリスタワー周辺に展開させていた。そして空への備え魔道対空砲を準備していた。
フランクは攻撃に備えて、マラリスタワーの2階の作戦司令所のような部屋にいた。そこには30人ほどのオペレーターがフランクの指示を各所の傭兵部隊、直属私兵隊へ伝達指揮をする場所である。オペレーターの前には情報端末と通信機器が設置されている。オペレーター達は各部隊専任であり、部隊の状況把握指示をフランクの命令に沿って的確に指示する役目を持っている。フランクの直属私兵隊の中でも情報分析力に優れたものを選抜して任命していた。
フランクが一段高い場所から声を上げる。
「異常はないか! 周辺に敵部隊の侵入はないか!」
フランクの隣りにいる女性オペレーターが答える。
「現在、周辺に異常確認無し!」
フランクは壁の中央の大きな時計を見て言う。
「予定時刻2分前だ! 各隊へ! 警戒を! 何を仕掛けて来るかわからない」
オペレーター達は各部隊へ直ぐに指示を出す。そしてオペレーターが声を上げる。
「周辺より不明高速飛行体多数確認! 各隊対空戦発砲許可! 各隊応戦せよ!」
オペレーター達は慌てたように指示を出している。
「……やはり、新兵器を投入してきたか。数はどうか!?」
フランクは声を上げる。隣りの女性オペレーターは慌てたようにヘッドセットを右耳に当てながらマイクで指示を出している。
「各隊観測点より報告! 都市周辺より物凄い速度でマラリス上空へ侵入! 侵入前に発砲開始するも命中無し!」
オペレーターの緊張した声を聞いてフランクは声を張り上げて指示を出す。
「各個応戦! 防御障壁展開せよ!」
そして直ぐに大きな振動がフランク達を揺さぶると、連続して小さな振動がしばらく続いた。
「なんだ! これは攻撃を受けているのか! 被害は!? 状況を報告しろ」
司令所内の照明が点滅して非常電源に切り替わった。フランクは隣りの女性オペレーターを見て言う。
「電源が絶たれた。発電所がやられたのか」
女性オペレーターが端末を操作してモニターで状況を確認する。
「1号から4号発電炉は全て機能停止もしくは破壊された模様! 地下にある5番7番発電炉は稼働中ですが、送電設備の影響で供給が絶たれています! 復旧指示を出します」
「……どうなって、まだ、何があった! 状況は! まだ……始まったばかりだぞ。各オペレーター部隊状況は!」
〈現在、無線および電話回線、不通、途絶多発しています。部隊も混乱がひどくまともな交信ができません!〉
オペレーターの報告を聞いてフランクが声を上げる。
「第一傭兵団長へ通信を繋げ!」
隣りの女性オペレーターは端末と通信機器を操作してからフランクに顔向けて言う。
「申し訳有りません。第一傭兵団との通信が確保出来ません。配下の各部隊長とも連絡が繋がりません。魔道観測士のイメージ通信も途絶したまま回復しません! どうしますか? 他の部隊でチャンネル確保します」
そう言うと女性オペレーターは素早く機器を操作してからフランクを見て言う。
「第3傭兵団と通信確保! こちらタワーワン応答せよ!」
女性オペレーターが呼びかけると応答が直ぐに入る。
『こちら第3傭兵団第2分団長デイビット•バデス! タワーワンへ! 我々の西部2区は猛烈な火炎弾の攻撃を受けて現在混乱している。被害は不明だが……かなりひどい状況だ。団長との連絡もつかない……とにかく今、確認出来るのは地下にいた我々だけだ。周辺を確認する! 攻撃の詳細はわからないが、猛烈な圧力と熱風と光が発生した強大な威力の火炎爆裂魔導弾の一種だと思う。地上にいた魔導観測士のイメージ通信の映像を確認した。今、ドアから外の魔法障壁で守られた部分は残っているが……、とにかく、こんなの……一瞬でこんな経験はない、戦場経験はあるが……とにかく確認する。以上だ」
第3傭兵団第2分団長デイビット•バデスからの通信はそう言って切れた。
フランクは隣りの女性オペレーターを見て言う。
「……すぐに第2波が来ます。タワーの魔法障壁はまだ大丈夫ですか?」
「はい、現状タワーのダメージは軽微です。直撃は受けていないようなので。ですが周辺施設、部隊の被害は不明です。通信が出来ませんのでそれなりの被害はあると思われます」
女性オペレーターはヘッドセットを外して、フランクに囁く。
「フランクさま、どうなされますか? このままでは……、私が外へ確認に出ます」
「ハンナ、そうだな。行ってくれるか。重装強化スーツを着用しろ」
女性オペレーターは頷き言う。
「ではドリーを連れて行きます。よろしいですね」
フランクは女性オペレーターを見て答える。
「……あゝ、構わん。連れて行け。だが、危ないと思ったら直ぐにシェルターへ避難しろ、いいな」
「はい、了解致しました。準備します」
女性オペレーターはそう答えると、椅子から立ち上がり声を上げる。
「私は! 今からバルデムで外へ行行きます。ドリー! 一緒にお願い」
奥に控えていた戦闘服の女性が、女性オペレーターの前に来て頭を下げる。
「ハンナさま!」
女性オペレーターは直ぐにフランクを見て微笑み囁く。
「では、行って参ります」
そう言って女性オペレーターハンナは作戦司令所からドリーと一緒に出て行った。そしてフランクはオペレーター達に声を上げる。
「これよりタワー地下シェルターへ司令所を移行する! 万が一を考えてだが、ダグさまも一緒に! システム切り替え後、速やかに全員移動せよ」
そしてオペレーター達は慌てたように端末操作を行い始める。1分ほどしてオペレーター達が各端末椅子から立ち上がり始めると、各人が駆け出し司令所から出て行った。
フランクは作戦司令所の最終確認をして、司令所から出ると直ぐに1階へと向かった。
◆◇◆
同時刻、魔都マラリス空域高度8000m付近。
上空にはグラン連邦国軍、デーン航空群所属、早期警戒機ガリアが旋回しながら待機していた。
「こちらアルバトロス1号! 着弾予定時刻1分前! 誘導弾25個体、位置補足! ロスト個体無し!」
早期警戒機ガリアの管制室内でレーダー員士官が連合軍本部に報告した。
『こちらドール本部! アルバトロス1号! 着弾観測、誘導着弾ポイント補正願います!』
「アルバトロス1号! 了解! 着弾高度そのまま! 位置座標確認! 1番から25番まで時間差予定時刻1分以内! 最終調整完了! 着弾開始します!」
ガリア、コックピット後方に設置されている薄暗い管制室。40インチのモニターが壁一面に10個並べ設置されている。それを見ながらスティックとボタンスイッチをレーダー管制担当士官達が操作している。
「1番から10番着弾、起爆確認! ……続けて11番から20番着弾、起爆確認! …………21番から25番着弾、起爆確認! 全弾起爆確認!」
ジョルノ国境沿い2地点から発射された誘導ミサイル20発、マリトバ沖合の巡洋艦アテナから発射された誘導ミサイル5発が魔都マラリス上空に到達し、次々と弾頭に搭載された魔導気化火炎弾が爆裂、巨大な火の玉と煙が魔都を襲う。誘導ミサイルは目標ポイントで起爆爆裂した。
「アルバトロス1号! 目標着弾確認! 着弾精度プラスマイナス500m内! 高度誤差プラスマイナス200m! これより魔都写真画像転送開始します!」
『ドール本部! 了解! 指定高度は厳守する事! 第2次誘導ミサイル弾が到達するまで20分ほどだ。5分前には指定空域で待機願う』
「アルバトロス1号! 了解! 撮影後、直ぐに復帰待機します」
レーダー管制担当士官は5名の他の将兵に指示を出す。
「降下後、出来るだけ指定ポイントを撮影後、指定空域に戻る。5分だな、頼んだ」
「キャス少佐、了解! 指定箇所全部は無理ですね」
黒髪ショートヘアの小柄な女性士官が、カメラ用遠隔モニターを見ながら言った。
「ベス中尉、しょうがない。我々の主任務は撮影ではないからな」
ヘッドセットをつけたレーダー管制担当士官、キャス少佐がベス中尉にパネルから目を離さず言った。そしてキャス少佐はヘッドセットでコックピットを呼び出し飛行を指示を機長に伝える。
早期警戒機ガリアは指示に従い高度を下げて魔都上空を旋回し始める。キャス少佐は魔都の拡大映像を見て顔を強張らせる。
「……これは」
管制室内にいた全員が息を呑んでモニター画像を見つめてる。魔都は攻撃前とは全く違う様相を呈していた。
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