第248話 攻撃準備
エリー達は魔都攻撃準備を進める。
2国間和平交渉会議13日目深夜。
ライオネル連合共和国オーリス市郊外農村部、魔道士ローラ率いる混成魔導特殊部隊が密かに順次到着、魔都攻撃準備をしていた。
廃村の空き家内に仮本部を設置し、最低限の分析通信機器を運びこんでいた。
エリーは農家の母屋の個室にソアラと2人で話している。ソアラがニコニコしながらエリーを見て言う。
「どうですか? リサさん雰囲気はそんなに変わりないでしょう」
「うん……、そうだね? 上手く行ったみたいだね」
エリーは少し嫌な顔をしてソアラを見て言った。
「チカラの全ての開放は私とエリーの承認が必要ですから、大丈夫ですよ」
そう言ってソアラは部屋のベッドにダイブする。
「まあ、魔道回路は破れないですよね。部分的に能力の発動は可能です。それはリサさんの意識制御によるものですから、身体精神強化も完了していますから上書きされる心配はありませんよね」
エリーは少し眠そうな顔をしてベットに寝そべるソアラを見て言った。
「いよいよ仕上げ段階ですね。問題はダグがアクセリアルと繋がりがあるかどうか……」
ソアラは仰向けに目を閉じて両手を広げた。エリーがそれを見て呟く。
「……ソアラちゃん、レンベルは問題無いんですか?」
「……! ええ、大丈夫」
ソアラはそう答えてベットの上で寝返りを打った。
「魔道展開ポッドは上手く扱えるのですか?」
エリーがベットの上でぐるぐる回っているソアラに言った。ソアラはエリーのほうへ顔を向ける。
「……まあ、シュミレーターでは問題無く20個は扱えます。とりあえず10個程度だったら実戦でも使用出来ると思うけど……」
「……そう、まあ、練習も兼ねて今回は使用して見てください。装甲強化歩兵が出て来るかもしれませんからね」
エリーはそう言って嫌な顔をした。
「最終システム調整は、あのアナさんですからね。問題有りませんよ。あの子ブラウン商会へ引き抜けば良いのに、かなり優秀ですよ」
ソアラが嬉しそうにエリーに言った。
「ええ、一度アナさんにはお話しはしましたよ。そして迷うことなく断られましたよ」
エリーは少し寂しそう答えた。ソアラはそれを見て言う。
「……あっ! そうだったんですね。そりゃそうですね、システムに精通してるし、軍に置いておくにはもったいないものね」
ソアラは申し訳なさそうに言うと、ベットから上半身を起こしてエリーを見つめた。
「……? ソアラちゃん少し寝たらもう3時間後には出撃ですよ。私も隣で仮眠をとります」
エリーはベッドのソアラを奥に押し込むと、空いたスペースで横になって毛布を被った。
「私、仮眠とるから、1時間したら起こしてね」
エリーがそう言って目を閉じた。ソアラはエリーに体を寄せると言う。
「エリー、精神体回復をしてあげるよ。少し消耗してるみたいだから……」
エリーは目を閉じたまま軽く頷いて小声で言う。
「……ソアラちゃん、ありがとう」
ソアラは精神体治癒スキルを発動して体が白い光に包まれる。その光がエリーの体を包み込みしばらくしてエリーが寝息を立てて寝始めた。
(やっぱり、エリーの消耗は思ったより深刻ですね。これでしばらくは誤魔化せるけど……、休養が必要です。カミュさまの神殿で治療調整出来れば良いのですけど、この状況はエリーの融合精神体に無理をさせ過ぎたのかしら?)
ソアラは魔力をエリーに通しながら思っていた。
◆◇◆
ここはジョルノ共和国とライオネル連合共和国国境線付近、連合軍設営陣地。
グラン連邦国軍戦術ミサイル師団がミサイル発射設備を設置して調整作業を慌ただしくしていた。すでにこの周辺エリアの発射装置にはミサイルが装着され最終調整を行なっている。
ミサイル戦術師団505連隊がこの周囲エリア10基の発射装置を管理している。505連隊長が大隊長、各中隊長に最終確認の指示を出す。
「中継、目標ビーコン信号確認問題無いか! 自爆装置作動確認は良いか! 変更中止命令がない限り順次定刻より発射を開始する! 各部隊員に漏れなく通達するように! また目標より逸脱確認された場合! 速やかに安全地帯にて自爆処理の実施を徹底するように! 以上だ」
攻撃指揮担当大隊長が連隊長に報告する。
「定刻開始問題有りません。1番から10番発射管制シーケンス問題無く、定刻30分後第2次攻撃ミサイル弾頭確認も終わっております」
「そうか、了解した! それでは各員休息後、定刻1時間前より攻撃発射体制をとれ」
大隊長、各中隊長6人が一斉に505連隊長に敬礼してその場から離れて行った。505連隊長は隣の情報通信士官を見て言う。
「暗号電文を頼む。宛、第一艦隊アテナ号艦長トーラス中佐、目標着弾時刻確認願う。以上だ。返信があれば直ぐに報告を頼む」
情報通信士官は電文内容を復唱する。
「復唱致します! ミサイル戦術師団505連隊長ベネット、 宛、第一艦隊アテナ号艦長、トーラス中佐、目標着弾時刻確認願う。以上でよろしいでしょうか」
505連隊長が頷くと、情報通信士官は敬礼して師団本部テントへと向かった。505連隊長は腕時計を見て少し緊張した顔をする。
(攻撃まであと2時間か。砲兵隊から新設ミサイル部隊に異動して早くも2年……厳しい訓練の日々が思い出される。やっと実戦だ。上手くいけば良いが、本当に訓練通りの結果が出れば、我々が今後の軍の中心部隊となる事は間違いない)
そして505連隊長は星空を見上げて目を細めた。
◆◇◆
ここは魔都マラリスの中心街、マラリスタワー最上階。
ダグ•ギューデンは最上階から窓の外を見つめながら機嫌が悪そうに、後ろに控えるうフランクに言う。
「どうしたのです! フランク、緊急事態ですか? マリトバとの通信遮断はとりあえず問題は無いと思いますが。ヴェラが上手く対処していると思います。ヴェラの魔道士隊は我々の最強部隊ですよ。たとえ敵が精鋭部隊を送り込んだとしても返り討ちですよ」
「はい、それならばよろしいのですが……、隣国でベランドル、グラン両軍の部隊の動きが確認されております。まだ、ライオネル国内へは入っていないようですが、近日中に国内へ入って来るものと思われます。それと解読不能な暗号通信が本日より頻繁に確認されております。特殊部隊による急襲が、もしかするとあるかもしれないので、ダグさまに魔都全域に緊急警戒警報を発令してもらいたいのです」
フランクはダグの背中を見つめながら緊張感のある声で言った。
「フランク、それは急を要することなのか? 朝でも良かったのでは無いか。仮に攻撃があるにしても周辺には気配すらないのだろう。違うのか?」
ダグは相変わらず機嫌の悪い様子でフランクに尋ねた。
「……はい、実を申しますと、マリトバだけでなく、各拠点周辺との連絡が全く取れなくなっております。ここ1時間ほど前から全ての通信が絶たれました。マラリス周辺には偵察要員を出してとりあえず安全は確認しておりますが。万全とは……」
「……動きがあるということですか?」
ダグは振り返り、フランクを見て言う。
「フランク、ここは仮に攻撃を受けたとしても、容易くは攻め入れません。それぐらいわかるでしょう」
フランクはダグから視線を下げて言う。
「……ダグさま、申し訳有りません! 何か起こるような気がするのです。とんでもないことが」
「……らしくないな。フランク……、よいでしょう! 全域に緊急警戒体制を敷きなさい。敵を迎える準備をお願いします」
ダグが言うと、フランクは頭を深く下げて部屋から出て行った。ダグはフランクの後ろ姿を見送り、ソファーにゆっくり座って呟く。
「やれるものならやってみるがいい……この魔都マラリスがどれほど恐ろしいか知ることになるだろう」
そしてダグは窓の外の魔都の夜景を見つめた。
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