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第246話 サディとヴェラ

サディは王国時代の弟子と対峙する。

2国間和平交渉会議13日目夕方。

 

 ここはライオネル連合共和国、商業都市マリトバ港湾地区、大犯罪組織ギューデンの重要拠点内。


 トッドとサディは、諜報手練れの配下を引き連れて拠点を急襲していた。そして今、重要幹部ヴェラと対峙している。


 ヴェラの傍らに付いている魔道剣士グースカがジリジリ退がりながら声を上げた。

「アンタ何者だ! 俺なんかと格が違う! なあ、見逃してくれないか! やる前から直ぐ結果が判ってる勝負なんてやりたくないんだけどな!」

 隣りのヴェラが機嫌の悪い顔をする。そしてトッドは無表情にそれを聞き流す。

「そりゃそうだよな。俺らを始末するために来たんだから、見逃すわけないか!」


 魔道剣士グースカは青白い顔をしてトッドと対峙している。グースカの構えている魔道剣にはすでに上限一杯の魔力が込められている。

(……こりゃ無理だな。斬り込もうが。受けようが。両断されるイメージしか浮かばない。なんでこんな英雄級の魔道剣士がここにいるんだ!?)

 グースカは顔全体に冷や汗がダラダラと流れて止まらない。グースカの体はいくら魔力を通しても恐怖心を緩和することが出来ずにいた。


 グースカは直ぐに魔力障壁で体を覆うと後方へ飛翔、窓ガラスの飛散する音と共に室外へと飛び出した。ヴェラは驚いた顔をして声を上げる。

「ああーーっ! グースカ!」

 そして物凄いスピードでトッドがヴェラの横をすり抜けて行った。

(……なんだ! この速さは! 全く反応出来なかった)

 ヴェラは直ぐ横をすり抜けたトッドに反応出来なかった自分に驚いていた。そして改めて前にいるサディと対峙する。

 (ふーーっ! これはまずい状況!?)


 サディが笑みを浮かべて声を上げる。

「なに! ヴェラさん! 驚いた顔しているけど! どうしたの、そりゃ認識出来る訳が無いですよ。剣技ならローラ様と互角のトッドさんですからね!」


 サディは顔を一瞬引き攣らせて平気なようにサディに声を上げる。

「ふっ! そうなの! あれが大陸に名を馳せたトッド•ウォール……」


 サディは魔力量を上げると、一気に身体強化を図り魔道剣を突き出しヴェラに向けて飛び出した。ヴェラは直ぐに防御障壁を前面に展開してその攻撃を難なく受け止めた。


「グロリアさん、その程度では通りませんよ」

 ヴェラはサディを嘲るように言った。サディは口元緩めて言葉を発した。

「……ええ、まだ、この程度では無理な事は承知していますよ。でも」


 サディは間合いを取り、そして魔道剣を上段に構えて魔力を魔道剣に集中する。魔道剣が魔力で白色に光迸り始めた。それを見てヴェラが顔を緩めて言う。

「グロリアさん、以前より力をつけられたようですね。しかし、私には届かない。以前あなたは私の憧れであり目標でした。だが残念、あなたは私が必要とする時、私を見捨てた。そして、いま感じるよ。あなたは大したことが無かったと」


 サディは悲しそうな顔をしてヴェラを見つめる。

「ヴェラ、あなたが酷い目に遭った事は知っています。でもね、悪魔のような組織に身を投じる事はなかったと思います。私だって色々大変だったのですよ。酷い目に遭ったのはヴェラ! あなただけじゃ無いんです!」

 サディはそう言って魔道剣を上段に構えてヴェラの間合いに飛び込みと斬撃を放った。そしてヴェラは直ぐに魔道剣を掬い上げてそれを外へ弾く。サディ体を捻って体勢を整えると、中段から斬撃を放った。ヴェラは難なくその斬撃を魔道剣を返して外へいなした。


「グロリア! 剣士でもないのに無理だよ! その太刀筋じゃ到底、私を仕留める事は出来ないよ! ほんと残念だけどね」

 ヴェラは余裕の表情でサディを見つめる。サディは一旦距離をとってヴェラを見据える。


「ヴェラ! なかなかですね。でもあなたに勝機は有りませんよ。なぜなら私は時間稼ぎすれば良いのですから」


「……!?」

 ヴェラは顔を顰めてサディを見つめる。周辺に居た配下の魔道士達の魔道反応が全員感知出来ない。トッドとやり合っていたはずのグースカの反応も、魔道士筆頭のバリアンも反応が無い。サディは慌てて念思スキルでバリアンに呼び掛ける。だが、周囲の配下の応答は無かった。

(……いくら英雄級の魔道剣士といえど、そんなはず……、こちらは特級魔道士でもSランクのバリアン、そして全員が上級魔道士以上だぞ! それを数分で片付ける!? グースカだって怯えていたが、腕前は特級剣技士クラスだぞ、一撃でやられる事など無いはずだ……)


 ヴェラはグースカに念思スキルで呼び掛けながら周囲を警戒する。そして必死にトッドの反応を探っていた。

 サディが悲しい顔をしてヴェラを見つめて言う。

「ヴェラ、あなたは、間違いを犯した。残念ですが。もう終わりです」


 ヴェラは引き攣った顔をしてサディを見据えて声を上げる。

「なんなの! グロリア! 私の邪魔をするの……」


 そしてサディの背後に知らぬ間にトッドがやって来て立っている。トッドのヴェラを見つめる目は恐ろしく冷たい。ヴェラはそれを見て身動きが取れなくなった。

(魔道剣士ごときになんで……私が恐怖している!? やはり早く逃げなければならなかった)


 サディがトッドに声を上げる。

「トッドさん! 注意してください! どんな隠し魔道アイテムを持っているか分かりません!」


 トッドは無表情にヴェラを見つめたままサディに言う。

「サディさん、無用です。エリー様より頂いたミカヅキノツルギであればこの程度の魔道術師造作もありません。……ですが? よろしいのですか? 因縁の相手なのでしょう。私が手出ししても」

 サディは少し戸惑った顔をして答える。

「私がつまらぬ事にこだわって、逃すようなことがあれば、それこそご迷惑を掛けてしましす。トッドさん気兼ねなくお願い致します」


 ヴェラは2人の会話を聞いて瞳を大きく開い声を上げる。

「グロリア! やっぱりそんなもんだよね!」

 そしてヴェラは一気に魔力量を全開レベルまで引き上げた。

(なんなんだ! この魔道剣士はそれにあの細身の剣はとんでもない魔力闘気を放っている。私が防御障壁を張ったところで無意味なほどの攻撃力を持っている。そりゃバリアン達が敵にすらならない訳だ。それにこのトッドという男は人を何人斬って来たんだろう? ためらいすら感じない殺気と魔道波動を感じる。コイツは絶対に敵に回しちゃいけない奴だ!)


 サディは魔道波動で白色に輝くヴェラを見つめて言う。

「ごめん! ヴェラ! あなたを導けなくて」


「へーーっ! なんで」

 ヴェラが顔を顰める。トッドはヴェラの間合いに飛び込むと無表情に上段右斜から猛烈な斬撃を放った。それはヴェラの魔法障壁を簡単に粉砕してヴェラの魔道剣を弾き飛ばし、肩から腹部へと抜けていく。

 そしてヴェラは床に崩れ落ちた。サディがヴェラに駆け寄り抱き起こす。

「……ぐ、グロリア、さん……、こんな、最後……」

 そう言葉を発して、ヴェラはだらりと体の力が抜けて動かなくなった。抱きかかえているサディは瞳から涙が溢れて声が出るのを必死に抑えている。そしてたまらずサディは言葉を発した。

「ヴェラ! 私はなんの役にも立たない無能だった。ごめんなさい! 最年少王宮魔道士なんて自惚れてた自分が情け無い……師匠として弟子をこんな……」

 

 トッドは刀を鞘に収めると、一瞬間を置いてサディを見て無言で背を向けると、部屋を静かに出て行った。そして残ったサディはヴェラの亡骸を抱えしばらく呆然とするのであった。

 

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます! これからも、どうぞよろしくお願いします。

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