第240話 ギューデンが動きだす
ついに大マフィア組織が動きだす
2国間和平交渉会議12日目深夜。
ここはグラン連邦国首都べマン市中央区、30階建の超高級ホテル。スタリオン最上階スイートルーム。
エリーは大きなソファーに座りうたた寝をしていた。ユーリと他の面々は別室でもう就寝中である。
エリーは寝ぼけてテーブルの資料を床に散乱させた。
「……! あゝっ!」
エリーはひとり声をあげて散乱した資料を集めてテーブルに戻す。
(明日は、ドールに戻って、夕方にはエルヴィス。また移動ばかりですね……、ホント第一機動連隊が懐かしいです。エマさんに丸投げして自分は戦闘に専念していればよかったのですから。今は……まあ、みんなも出来る限りフォローしてくれていますけど……。何かとやる事が多いなぁ。そもそも私て女神の時から戦闘中心で、あとの処理は周りに投げていたのですけどね。うーーっ! なに考えてるんろう? 私、疲れてる? 2日間くらいゆっくり魔力循環回復出来れば戻るのに……)
エリーは両足を投げ出し、両手を広げてだらけた顔をしてソファーに寝っ転がる。
「……あゝーーっ! 何か食べたいけど、ユーリさんに怒られるしなあ)
エリーは独り言を呟く。そしてリビングルーム内に気配を感じてエリーが視線を向けると、そこには金髪の美女がこちらを戸惑った顔で見つめていた。
「……あゝ! イレイナさん! なんで!」
油断していたエリーが声を上げた。
イレイナはゆっくりエリーに近づくと、エリーの体に覆い被さる。エリーは直ぐにだらけた顔を引き締めて上に被さっているイレイナに言う。
「イレイナさん……重いのですけど! どいてもらえませんか」
イレイナは悲しい顔をすると、両手をソファーについてエリーから体を離した。
「……申し訳、ありません。出過ぎた真似でした。お疲れの様だったので……」
「……? 心配してくれているのですか。ちょっと唐突ですね」
イレイナはエリーから離れて、隣りに座り直して顔を見て言う。
「……先ほどから、失礼とは思いましたがエリー様のご様子を拝見しておりました。エリー様……無理をされている様で……」
「……大丈夫です。イレイナさん、心配させてゴメンなさいね」
エリーはそう言ってイレイナの両手を優しく掴んだ。
(……やっぱり、疲れているように見えたんだ。ローゼに癒してもらうかな。それなら半日程度で回復出来る)
エリーは思いながら、イレイナを微笑み見つめた。
「イレイナさんとエイダさんには、ベランドルに一緒に来てもらいますね。イレイナさんには異動辞令を発令してもらいました。外事局特務対策課諜報担当官になります。これで問題無く私と行動を共に出来ます。あとは飛行士訓練、魔法、剣技修練もお願いしますね」
エリーはそう言って髪をかきあげてソファーから立ち上がる。
「はい、エリー様、私はお役に立てるよう尽力致します」
イレイナは床に跪き右手をついて頭を下げた。
「イレイナさん、恋人とか居ないのですか?」
エリーはソファーからイレイナのそばによって屈んだ。
「……えっ! いません!」
「そうですか、ならよいです。しばらく会うことも連絡することも、出来なくなりますからね」
エリーはそう言ってイレイナの肩に手を添えて立ち上がるよう促した。イレイナは立ち上がりエリーの顔を見て言う。
「尽くすべきお方は、エリー様だけです。今はそれだけです」
イレイナは美しい金髪をなびかせ嬉しそうな顔をした。エリーはそれを見て囁く。
「ゴメンなさいね。巻き込んじゃって」
イレイナはエリーの手を握りしめて声を上げる。
「いいえ! それは違います! 私はエリー様に出逢えたことを、しあわせと思っております。エリー様は私が不幸になったような言い方はおやめください。今まで感じたことのない幸福感、高揚感を私にくださったのですよ。それに大きな目標が出来たのです。簡単なことではありませんがやり遂げて見せます」
イレイナはブルーの瞳を輝かせる。
(……うっ! 眩しい! 昨日魔力を通しすぎたか?)
エリーはそう思いながらイレイナの手を握り返した。
「ありがとう! イレイナさん。 じゃあ寝室へ参りましょう。刻んだ魔道回路の調整をしますね」
エリーはそう言ってイレイナの手を引っ張り立ち上がる。
「はい、お願い致します」
イレイナは少し嬉しそうに頷いた。そして2人はリビングルームからエリーの寝室へとゆっくり移動すした。
◆◇◆
ここはべランドル帝国帝都ドール市ドール城、皇帝居住エリア内。
エランは、今しがたセリカに起こされベットの横の椅子に座ている。エランは目の前に立つセリカに聞き返す。
「それは事実ですか? そのようなことした所でメリットは有りませんよね。それどころかデメリットの方が大きいと思うのですが」
セリカは無表情に言う。
「それはローラ様、いえ、エリー様のチカラを誤認しているからでしょう。ひとりで一国を滅ぼすほどの桁違いの能力を有している。エラン陛下の妹君、魔道士ローラ様を。もし彼らが、ローラ様を侮ったと気付いた時は……もう手遅れでしょうが。ですが、最適な情報のコントロールに失敗し、彼等を無謀な行動に走らせた責任は、私にも有ります。申し訳ありません」
そう言って、エランにセリカは頭を深く下げた。そしてエランは微笑み頷き言う。
「あなた……責任感あり過ぎですよ。ある意味、傲慢ですね。確かにあなたは実力者ではあるけど、エリーほどではないし、それにエリーだって万能ではないのです。弱い部分もあるし、死ぬことだってある。だからこそ、お互いに力を合わせてことを成すのですよ。セリカさん、それでどうするつもりですか?」
「……はい、アンドレア魔導師団長ブライアン殿に協力要請を打診しております。それとベルニスのウィン殿にも。エリー様に緊急時には頼るようにと指示を受けておりました」
エランは椅子から立ち上がり、セリカの両手を持って優しく言う。
「セリカさん、あなたが仕えているのは今は、わたくしです。確かに契約を結んでいるのはエリーかもしれませんが、あなたは私に尽くさねばなりません。それはが結果的にエリーのためになるのです。だから余計なことは考えず、私に尽くしなさい。よいですね」
セリカは、優しく微笑むエランを見て言う。
「はい、エラン陛下、そのように」
エランはセリカの手を離すと、苛立った顔をして声を上げる。
「くーーっ! この大事な時に……、ハリーさんを起こしてもらえますか、至急です!」
セリカが少し驚いた顔をして答える。
「はい! 直ぐに」
そう言ってセリカは慌ててエランの寝室を出て行った。そしてエランはベットに寝そべる。そして意識を深く沈めた。
(エリー……起きてる。連絡は行ってるかしら? ……?)
《……!? あゝ? お姉様? いま寝たばかりですけど……精神感応を使うって緊急事態ですか!?》
エリーの魔導精神体と繋がった。エランは精神体に違和感を感じて尋ねる。
(エリー、精神体に乱れが有ります。誰か介入していませんか?)
《……気にしなくて大丈夫。従者の魔導回路を調整した直後だから。遮断するから大丈夫だよ》
エリーの隣ではイレイナが寝息を立ててスヤスヤと眠ていた。
(……また取り込んだのですか? それよりギューデンが動きました。こちらも至急手を打ちます。エリーの方でも気を付けて!)
エランが思念を送るとエリーは答える。
《はい、予想より早かったようですが、サディさんに準備は頼んでいます。それでは予定を変更して早朝に立ちます。お姉様に会えないのは残念ですが、まあ、しょうがないですね。それでは、また連絡をします》
そうしてエリーとの精神体精神感応は切れた。
(エリーはある程度予想していたの? でも安心しました……)
エランはベットの上でふーーっ息を吐き安心した顔をする。
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