第239話 エリーはバウスン卿と今後について話す
エリーはバウスン卿とホテルスタリオンで会談する
2国間和平交渉会議12日目夜。
ここはグラン連邦国首都べマン市中央区、30階建の超高級ホテル。スタリオン25階レストランフロア、レストラン内。レストラン【ブルーム】は全30テーブルの完全予約制、一見様お断りの高級料理店。エリーは1番窓際のテーブルに座っている。そしてエリーは薄い水色の背中が大きく開き、胸元が強調された豪華な刺繍と宝石が施されたドレスを着用している。当然、【ブルーム】はエリー達のために貸切となっている。もちろん、スタリオンホテル全体及び周辺には厳重な警備体制が敷かれていた。
「バウスン様、本日はありがとうございます。このような素晴らしい場所にお招き頂き感嘆しております」
エリーはそう言って対面の男性に微笑む。
「ローラさま、お褒め頂きありがとうございます」
男性は黒髪で顎髭を少し生やしたいかつい顔を緩めた。ガッチリした体型で身長は190は超えそうだ。ここ10年ほどブラウン商会を多方面で助けてくれたバウスン卿だ。
バウスン•ライナー、グラン連邦国のみならず大陸全土に影響力を持つ金融財界の実力者。直轄支配する銀行、商用企業を多く所有して圧倒的資金を有している。彼の協力支援がなければブラウン商会のこれまでの急成長はなかっただろう。そしてバウスン卿は女神ローゼ使徒のひとりであり、グラン連邦国にいるアーサー卿と双璧をなす魔法士である。
「ローラさまがこれほどお美しいお方とは……私はすでに魅了されております。しかし残念ながら妻子ある身であることが悔やまれます」
エリーは微笑み社交辞令を聞き流す。そして頷くと、バウスン卿も目線のを合わせて頷いた。
バウスン卿がグラン連邦国警護担当2人に声を掛ける。
「ここからはローラさまと内密な話しになる。席を外してくれるかね」
「……はっ! 了解しました!」
警護担当2人は一礼すると、その場を離れレストランから出て行った。エリーはそれを見てユーリに頷く。
「はい、待機します」
ユーリは一礼するとレストランの入り口付近まで退がり背を向けた。
「エリー様お久しぶりですね。6年くらいでしょうか? しかし美しく成長されて嬉しく思います。セレーナ様のお力を発揮され大活躍されているご様子で、本当に感謝しております」
強面のバウスン卿が微笑みながらエリーを見て言った。エリーにはどうもしっくりこない感じで言う。
「……いいえ、こちらこそブラウン商会への多大なる支援感謝申し上げます。準備が滞りなく進んでいるのはバウスン様のおかげです」
エリーはそう言って丁寧に頭を下げた。
「しかし、グランの魔女と魔道士ローラさまが同一人物とは誰も思わないでしょうな。そしてベランドル王女エレン様でもあらせられますから。本当にエリー様は大変ですね」
エリーはバウスン卿の言葉を聞いて少し口元を緩めてから言う。
「そもそもは、ローゼの仕組んだことですからね。まあ、心配しなくても役目は果たしますよ。バウスン様! これからもよろしくお願い致します」
「エリー様とお話し出来て、本当に幸せです。それで、開戦はいつ頃の予定ですか?」
バウスン卿は直ぐに真剣な顔になってエリーを見る。エリーはバウスン卿の顔を見て間を置いて答える。
「……ええ、こちらとしては1年以上が希望ですが……そこまでは、まず無理かと。現状、艦隊編成、航空戦力、各種対空兵器、陸軍再編防衛体制の構築等を含めて準備が最低限整うのが……そうですね。5ヶ月から6ヶ月ですね。兵器の数はなんとかなるにしても練度が心配です。消耗戦をすればこちらはかなり不利になります。これは資金があってもどうにもなりませんからね」
バウスン卿が思案するように腕組みをして、しばらく考えてからエリーに言う。
「エリー様、女神の共鳴スキルを使うのはどうですか? それなら思考知識を多くの者に与える事が出来るのではないでしょうか。そうすれば大幅な短縮が図れるものと思いますが! いかがでしょう」
エリーは嫌な顔をして直ぐに答える
「……! 確かにそう出来れば良いのですが……。膨大な魔力を必要としますので……?」
エリーはそう言ってハット閃いたような顔をする。
(……カミュさまの神殿に魔力増幅装置がありましたね! それを使用すればなんとかなるかも!?)
バウスン卿がエリーの顔を見て尋ねる。
「エリー様、何か妙案でも?」
「はい、試してみなければわかりませんが……、上手くいけば、練度の問題が解決します。バウスン様ありがとうございます」
エリーが嬉しそうに答えた。バウスン卿は目を細めて言う。
「ええ、お役に立てて良かったです。それでは各国の金融圧力を解いてもよろしいでしょうか? 各国は大陸相互条約に参加するのでしょう。あと残るのはライオネルだけですね。ライオネルは直接的な銀行も金融屋もないですから関係ないですが。あそこはマフィアや貴族間の抗争が激しく割に合わないところです。本来国を豊かにする基礎的土壌がない。薬物も蔓延しています。100年前までは安定した王政が敷かれて良い国だったと、しかし、王族の跡目争いで国が乱れそれ以来、国内情勢は悪化して今のような状況です。周辺諸国も旨みがないので手を出しません」
エリーはふっと息を吐き言う。
「はい、承知しています。ですがベランドルにちょっかいを出して来たのです。なので……野放しには出来ません。今後を考えても、やはり放っては置けないのです!」
バウスン卿は足を組み直して窓の外の夜景に視線を移して言う。
「エリー様、どうされるおつもりですか? 小規模戦力では長期化は避けられませよ。かと言って大規模戦力で蹂躙ではローラさまの株を下げることに。交渉で事がなればよろしいのですが」
「はい、最小限の武力で行うつもりです。すでに準備は進めております。上手く行くと思います」
エリーは自信ありげにバウスン卿に答えた。
「……そうですか。エリー様なら不安などないですね。これからのことを考えれば、些細なことでなのですね。ですが、油断はされぬように、思わぬところで足を掬われるものですから」
バウスン卿はエリーの瞳を見て言った。
「はい、心してかかりますので、ご安心くださいませ」
エリーは微笑みながら言った。
「今日は、楽しい時間をありがとうございました」
バウスン卿は強面の顔を緩めてエリーを見て言った。
「はい、こちらこそ、バウスン様、ありがとうございます」
バウスン卿がレストランの入り口で背を向けるユーリを見て言う。
「あの者は……かなりの強者ですね。外見の容姿もかなりですが、中身も。私も魔法、剣技もそこそこ自信はありますが。あの者には勝てないでしょうな。命を投げ出す覚悟でも良くて相打ちが良いところでしょう。しかし、エリー様に心酔し過ぎて危険な感じもしますが……、従者としては当然なのでしょう」
「……? ユーリさんは大切な人ですよ」
エリーは微笑みバウスン卿を見て言った。そう言って椅子から立ち上がる。
「バウスン様、ありがとうございました。それではまたの機会に」
バウスン卿はゆっくり椅子から立ち上がりエリーに一礼する。エリーは微笑みバウスン卿を見上げた。
(やっぱりバウスン様! 大きい、トッドさんと身長一緒くらいだけど、2回りは大きいよね)
「エリー様、最上階のスイートルームを準備しております。ごゆっくりお休みください」
そう言ってバウスン卿は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。それでは」
エリーがレストランの入り口に向かうとユーリがそばによって来る。
「……ローラ様、一瞬殺気を感じたのですが、バウスン様が何か」
レストランのドアが開きエリーはユーリと並んで廊下に出る。
「ユーリさんは凄いて話しだよ。勝てる気がしないって、バウスン様がね」
ユーリはそれを聞いても表情を変えず言う。
「私はまだまだです。エリー様の従者として恥ずかしくないよう精進致します」
エリーとユーリは前後に護衛担当がついてエレベーターに乗り込んだ。そして最上階スイートルームへと向かった。
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