第237話 グラン連邦国軍
エリーはグラン連邦国軍上層部会議に出席する。
2国間和平交渉会議12日目、午後。
ここはグラン連邦国首都べマン東部首都防衛隊施設、首都防衛隊司令部5階建ビル、大会議室。
エリーは大テーブルを囲みグラン連邦国軍部関係閣僚達30名と、今後の計画について打ち合わせをしていた。エリーの隣には、遅れて到着したユーリが補佐官として座っている。エリーは会議前に着替え白の皇帝護衛隊軍服を着用している。
「海軍艦隊再編についての報告は以上です。何か質問は御座いますか?」
グラン連邦国海軍部長が全員の顔を見渡して尋ねた。そしてエリー右手を上げて海軍部長の顔を見つめる。
「ローラさま、何か?」
エリーは立ち上がり微笑みながら言う。
「はい、グラン連邦国海軍、ベランドル帝国海軍再編と合わせ、新設グラン、ベランドル合同艦隊の演習を実施予定としております。それに伴いシステムの共有化を進めているのですが……、一部それを快く思わず阻害する行為があると報告を受けております。準備に時間があまりない状況下でこのような行為は、許されることではないのですが。意図的な妨害行為なら私は断固として排除致しますので、そのおつもりでよろしくお願い致します」
エリーの言葉を聞いて会議室内に緊張感が高まった。そしてグラン軍務局長が緊張した顔で立ち上がり声を上げる。
「ローラさま! そのような妨害行為などある訳はございません! 何か行き違いがあったものと推測致します。我が軍務局で詳細な調査を行い報告致しますので。それまでは、直接的、行動はお控えくださいますようお願い致します」
軍務局長がそう言って頭を下げた。
「はい、軍務局長のお考えは了解致しました。ですが、私の立場もご理解ください。今回のグラン、ベランドル両軍の再編に関して総括管理責任を両国政府から一任されているのですから。万が一、計画に延滞が生じることがあれば私が責任を負うことになるのです。問題があれば私が速やかに対処致しますのでご理解の程よろしくお願いします」
エリーはそう言って周囲を見渡して一礼する。
「……ローラさまが、両軍の統括トップと認識して問題無いということですね」
グラン連邦国国防相がエリーを見据えて言った。
「はい、そうですね。暫定的な処置ですが」
会議出席者からどよめきが起こる。
(……たぶん、こんな小娘がとか、思っているんだろうけど……、まあ、しょうがないよね。実際、そんなふうにしか見えないからね)
エリーは魔力を全身に通して、一気に魔道波動を周囲に発する。エリーの体が薄紫色に輝き始めた。周りの会議出席者はエリーの圧倒的な威圧感に驚愕と恐怖の表情を浮かべる。
「私は本気です! みなさまとゆっくり話し合って、物事を進める時間的余裕などない事を理解してください! 今回は超法規的措置であり、今回の件が片付くまで処置です。永続的なものではありませんので! どうかご協力をお願い致します」
エリーは魔道波動を纏いながら、丁寧に一礼する。
「はっ! ローラさま! 了承致しました!」
軍務局長が声を上げる。そして国防相も続いて声を上げる。
「ローラさま! 諸国をまとめるために奔走されている事、承知しております! わたくし! 微力ながら、お役に立てるよう尽力致します!」
そして会議参加者から次々と声が上がりその場が、魔道士ローラ支持でまとまった。
「みなさまの、今後のご協力を大いに期待致します」
エリーはそう言って着席すると、隣りのユーリが頷き微笑んだ。国防相、軍務局長の2人は結社メンバーであり、会議誘導してくれる事はエリーは事前に把握している。グラン連邦国軍上層部の掌握は今後の計画進行に絶対条件。エリーは、ハル外事局長、ハリーを交えて訪問前にドールで打合せをしていた。グラン連邦国軍内の局長級、部長級の官僚、制服組のローラへの支持を表明させる事が今回の主目的であった。そして目的はほぼ達成された。
会議は終了し、退席する参加者達はエリーにそれぞれ挨拶をして退席して行く。会議室に残ったのは国防相、軍務局長、ハル外事局長そしてエリー、ユーリの5人。
「本日はありがとうございました。これでとりあえず大丈夫そうですね」
エリーがテーブルの隅に集まった4人を見つめて微笑み言うと、ハル局長が目を細めて言う。
「ローラ様、あれはかなりヤバかったですよ! あの場であんなに殺気を帯びた魔道波動をばら撒いたらみんな怯えますよ……」
それを聞いてエリーは呆れたように立ち上がりハル局長に言う。
「ええ、皆さんに緊張感を持ってもらおうと思いまして。でも、ほんの少しですよ。本気の戦闘モードからみれば10の1くらいですよ。心臓麻痺や失神されても困るので抑えましたよ」
国防相がエリーを見て嫌な顔をする。
「十分あれでも震えがきました。私など血流が乱れて……、まあ、他の者も覚悟は伝わったでしょう。もしも、うかつな事をすればタダでは済まないと思ったはずです」
渋めい紳士風の軍務局長がエリーを見て微笑み声を上げる。
「さすが大陸に名が轟くローラ様と思いました! あれで全員の雰囲気が激変しましたからね」
ユーリは立っているエリーのそばによると囁く。
「……さすがです。抑えているとはいえ、魔道波動を発動して黙らせましたね」
エリーは少し疲れた顔をしてユーリを見つめる。
「……本当は、脅しみたいで嫌だったけどね。ハリーさんの計画通りに進めるために必要と思ったからね。みんなからは可愛い美少女と見られたいのが本心だよ」
ハル局長が口を緩めて少し笑ってから、エリーを見つめて声を掛ける。
「ええ、それはもう無理ですよ。ローラ様の本質を知ってしまったら……無理です。絶対に無理です」
エリーは少し機嫌の悪い顔をしてハル局長を見る。
「……! ハル局長……良いです。もうわかりました! あゝ、それでライオネルの件はどうなりました?」
ハル局長はエリーを見て首を横に振って言う。
「……あまりよろしくないです。またあとで詳細は報告します。手は打っていますのでとりあえずは……」
ハル局長はここでは話したくない様子なので、エリーはそれ以上は尋ねる事はしなかった。
「それでは、ありがとうございました! 私はこれからアーサー様のお屋敷へお伺いしますので、申し訳ありませんがこれで失礼致します」
そう言ってエリーはユーリと視線を合わせる。そしてユーリは直ぐに一礼すると会議室から出て行った。
「ハル局長、夕方ブラウン家の別邸にお越しください」
エリーは丁寧に一礼すると、3人もエリーに深く頭を下げた。
「ローラさま、お気をつけて」
国防相がエリーに声を掛けた。
「はい、それでは」
そしてエリーは会議室を出て行った。3人はエリーの背中を見送りドアが閉まると、視線を合わせた。
国防相がハッと息を吐き言う。
「エリー様も立派になられたものだ。私の心配は不要だった。……だが、しかし、ハル外事局長、なぜ? 貴官はエリー様とそんなに親密になった。結社のメンバーでも無いのに。あれで純粋なお方だ。貴官が出世のために利用しようとするなら、それは許されることではない。それは大いなる報いを受けることになるぞ」
国防相が少しドスを効かせた声で言った。それを聞いてハル局長は国防相に微笑み答える。
「何か勘違いされていますね。私はエリー様に忠誠を誓っております。私はエリー様の深淵を垣間見て、とてもではないですが、利用しようと思ったことすら有りません。私は、エリー様のお役に立てるよう日々努力しています。国防相はエリー様の本当の力を目の前で見たことがおありですか? 私は見たのです! この目で……私はエリー様に完全に……いえ、言葉では伝わらないのでこれ以上は無意味ですね。結果で証明しますのでご安心ください」
そう言ってハル局長は2人に頭を下げると会議室から出て行った。国防相は少し苛立った顔をすると、軍務局長が国防相に言う。
「まあ良いじゃないですか。ハル局長は今、エリー様のお気に入りですから、あまり関わると変に誤解されますよ。それより、大事なことは計画を遂行することです」
そう言って軍務局長は国防相の肩を軽く右手で叩いた。
「……あゝ、理解している」
国防相は軍務局長を見て頷いた。
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