第233話 イレイナの洗礼
エリーはイレイナを洗礼する。そしてエイダに今後について話をする。
2国間和平交渉会議11日目夜。
ここはグラン連邦国大港湾都市、デーン港ブラウン重工施設、居住エリア内。
広大なデーン港湾内の一画にブラウン重工施設がある。港湾のランドマーク的存在のブラウン重工技術センタービル25階建の100mほど高さがある。技術センタービルは照明で映し出され美しい様相を呈していた。エリーはそれを宿泊居室、窓際から眺めてまどろんでいた。
エリーの宿泊居室ドアが弱く遠慮したようにノックされる。エリーはハットして一瞬間を置いて答える。
「……はい、開いています。お入りください!」
ドアノブがゆっくり回りドアが開く。そこには昼間とは雰囲気の違うワンピースを着たイレイナが緊張した様子で立っていた。イレイナは慌てて一礼すると居室内に入った。
「ローラさま、た、だいま、参りました……」
イレイナはそう言うと、窓際のエリーのそばにより頭を深く下げた。エリーは椅子から立ち上がりイレイナの手を取る。
「イレイナさん、待っていました」
エリーは微笑みイレイナを見て優しく言った。イレイナは顔を上げると緊張から強張った顔をしている。そして、イレイナはブルーの瞳を潤ませながら口を開く。
「私は、ローラさまがお噂のようなお方では無いと思っております。エイダさんにもお尋ねしましたが……、心配など不要です。お任せすれば、今まで体験したことにないような身も心も幸福感に満たされるでしょうと……それ以上は申し上げる事は出来ないと恍惚とした顔で申されて……。私はとても不安になったのです。私にはそんな経験がありませんので……」
エリーはイレイナの肩に左手を優しく添えて言う。
「イレイナさん、緊張しなくて大丈夫ですよ。体も心もリラックスしてください。心配するような事は何もありませからね」
エリーはそう言ってイレイナをスッと抱きかかえる。イレイナはびっくりした顔をしてエリーを見つめた。イレイナは身長170cm、55kgくらいはある、確かに重くはないがエリーよりは大きく重い。持ち上げているエリーだって細身でそんなことが出来るようには見えない。エリーは軽々とイレイナをベットまで運び寝かせる。
「気持ちは楽にしてね」
エリーが優しくそう言ってイレイナの左手を握り頬を寄せる。そしてエリーは白色の光で輝き始める。
イレイナは目を閉じてエリーに身を任せた。エリーの白い光がイレイナへと広がり包み込むと、しばらくエリーの魔力がイレイナの深部コアへと流れ続ける。
イレイナはエリーから流れ込む魔力量と情報量の次元の違いに戸惑っていた。そして意識が朦朧としてエリーの顔がぼんやり見え始める。
イレイナは恍惚としてわれを忘れる表情のままベットに横たわっていた。エリーはそれを見てゆっくりとイレイナから離れる。
「……」
エリーは椅子に座り疲れた顔をして、一気に体の力を緩めてだらけた。
(……これで、今日の予定は終了ですね。あゝそうだお風呂へ行かなきゃ……)
エリーは椅子から立ち上がると棚から着替えを取り出して、部屋から出るとドアに鍵を掛けた。
エリーは廊下を進み1階の浴場エリアへ。エリー達の居る宿泊エリアは、独立した建物で塀で囲まれ外は、ブラウン商会の武装警備員が警備している。そして宿泊建物内には、お世話担当の侍女が2人、エリー達4人が居るだけだ。
エリーは脱衣室で裸になり浴室へと入った。10畳ほどの広さで洗い場がふたつ有りそう広くはない。エリーはシャワーをとりあえず頭から浴びると髪を丁寧にシャンプーで洗った。そして体を適当に洗うとエリーは、湯船にジャブンと浸かる。
(……あーーっ! いいーー!)
エリーはこころの声を上げて、幸せそうな顔をしてふっと息を吐いた。
(……? 浴場脱衣室に気配……、エイダさん!)
エリーは、せっかくの至福の時間を邪魔されて少し機嫌が悪くなった。
(まあ……良いけど、遅い入浴だね?)
エイダは、浴室内に入るとエリーと目を合わせて微笑む。
「……」
そして洗い場で髪と体を洗うと、ゆっくりと浴槽に浸かりエリーの隣に体を寄せた。
「……エイダさん、遅い入浴ですね」
エリーが微笑みエイダに話し掛けた。
「はい、ローラさまと一緒にと思いまして」
「一緒に……」
「はい、そうです」
エイダが嬉しそうにエリーの顔を見つめた。エイダは美しい茶色の瞳でエリーの朱色の瞳を見つめる。そして手を伸ばしてエリーの紫色の髪を撫でるように触った。
エリーは少し戸惑った顔をして言う。
「昨日からどうですか? 落ち着きましたか」
「はい、ある程度は落ち着いたと思います。深淵の一部に触れ、私の可能性についても知ることが出来てとても気分が高揚しています。ありがとうございます。そして自分はまだまだなのも当然自覚しております。より高みに達するために、更なる努力を必要とする事も理解しておりますので、どうかこれからもよろしくお願いします」
エリーはエイダの顔を見て、ゆっくりエイダの左手を優しく掴んで髪から離した。
「ええ、当然、面倒は見ますよ。でもね、距離感は大切にね」
「……!?」
エイダが少し動揺した顔をして言う。
「……あ、申し訳有りません! 私! 触りたくなってしまって……」
エリーは少し申し訳なさそうに、目の前のエイダの顔を見つめて言う。
「あゝ、ゴメン、そうだよね。寂しいよね。初めてひとりで知り合いも居ないのにね。エイダさん、ちょっと言い過ぎたね」
エリーはエイダがお付きも無しで、初めてブラデールを出た事を思い、少し自分が冷たいかったと反省していた。
「……ありがとうございます。ですが、私も馴れ馴れしくて申し訳有りません」
エイダは悲しそうな顔をしてエリーを見て少しエリーから離れた。そしてエリーはエイダの方へ寄せて体が少し触れると。
「良いよ、気にしなくて、これから一緒に頑張ろうね」
エイダがエリーに頷き。
「はい、ローラさま」
そしてエイダはエリーの肩に顔を寄せて、少し顔を緩ませた。
「……しばらく、このまま、暖まろうか。それでエイダさんの役目なんだけど。とりあえず、ローラの秘書官見習いという事で、よろしくお願いします」
エリーはエイダの肌の感触を感じなが言った。エイダはそれを聞いて少し頷き答える。
「はい、何もわかりませんんが。お役に立てるよう頑張ります」
「大丈夫だよ。リサさんと記憶共有化でやる事はすぐに理解出来るからね。あとは、魔法修練と剣技修練を2ヶ月ほどみっちりやって行くからね。しばらく辛いかもしれないけど頑張ろうね」エリーは微笑みエイダの頭に手を添えて優しく言った。
「……はい、ローラさま、いえ……エリーさま」
そうして2人は10分ほど湯に浸かり交流を深めた。
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