第231話 タイラー副長
2国間和平交渉会議11日目夕方。
ここはグラン連邦国大港湾都市、デーン港海軍港湾施設。接岸中の巡洋艦アテナ号。
食堂内6人掛けテーブルにエリー達は座り今しがた夕食を済ませ話しをしている。エリーの隣にはエイダ、イレイナ座り、対面にボーゲン少将、トーラス、ユーリが座っている。雰囲気は一見和やかだが、そうでもない。
ボーゲン少将がその場に飄々とした雰囲気でいる。そしてトーラスは少し苛立っている様子で口数は少なかった。
「では、そろそろお暇致します」
エリーが微笑みボーゲン少将を見て言った。
「……そうですか。では宿舎へ同行致します。よろしいでしょうね。お話ししたい事が有りますので」
ボーゲン少将がエリーを見つめて言言うと、エリーは開けらさまに嫌な顔をする。
「ええ、よろしいですよ」
そしてエリーは立ち上がりトーラスを見て声を掛ける。
「あの、最後にタイラー副長をお願い致します」
トーラスが少し驚いた顔をして答える。
「……はい、了解しました」
そしてエリーはユーリを見て微笑む。
「ユーリさん、先にリムジンへ皆さんと一緒にお願いします。私はクレアさんと少し用事がありますので」
「はい、了解です。では先に」
ユーリは一礼するとエイダとイレイナに視線を送る。エイダとイレイナは直ぐに立ち上がりエリーに一礼した。
「ローラさま、お待ちしております」
エイダとイレイナはそう言ってユーリと一緒に食堂を出て行った。
エリーはボーゲン少将を見て言う。
「ボーゲン少将、先にリムジンの方でお待ち頂けますか」
「……あゝ、邪魔ですか。では」
ボーゲン少将は口を緩めて立ち上がり一礼すると食堂を出て行く。
トーラスは一礼してエリーを見て微笑む。
「それではブリッジへ」
エリーはトーラスの後ろについて食堂から艦内通路を歩きエレベーターへと入った。
「一言、言っておきます」
エリーが言うと、トーラスは少し遠慮気味に言う。
「……すみません」
エレベーターのドアが開きトーラスとエリーはブリッジ内へと入った。ブリッジ内にいた5名ほどの将兵はエリーとトーラスに驚き慌てて敬礼する。トーラスはタイラー副長のそばに寄って視線を合わせる。
「……?」
タイラー副長は戸惑った顔をしてトーラスを見て言う。
「何か御用でしょうか?」
そしてエリーがタイラー副長の前に立ち、丁寧に一礼して言う。
「ローラです。タイラー副長、クレアさんがお世話になっているそうで、お礼を申し上げます」
タイラー副長が驚いた顔をしてエリーを見つめる。
「……はい……、な、いえ、そのようなことはございません。迷惑を掛けているほうだと」
そしてエリーはタイラー副長にさらに近寄り囁く。
「段取りはしておきます。あとは、あなた次第です。クレアさんをよろしくお願いしますね。タイラー副長」
タイラー副長は動揺した顔をして後退りした。そしてエリーはタイラー副長に詰め寄る。
「タイラー副長、ちゃんとしてくださいね。クレアさんを悲しませるような事がないように、その時は……」
エリーはそう言ってタイラー副長から離れると一礼して微笑んだ。
タイラー副長は訳がわからないような顔をしてエリーを見つめる。
「……ローラさま……トーラス艦長とはどのような、ご関係なのですか?」
「はい、大切な友人です」
エリーは直ぐに答えた。トーラスはそれを聞いて慌てて否定する。
「何をおしゃっているのですか! タイラー副長、違いますよ。ローラさまは師匠のような方です。私が友人とか、誤解を招くようなことは勘弁してください」
「……うん、私はクレアさんのことを大切だと思っているよ。なんか残念な気持ちになっちゃう」
エリーが残念そうな顔をしてトーラスを見ると、トーラスはもう勘弁してください見たいな顔をしている。
(……まあいいか! タイラー副長、今回逃したら話にならないね。クレアさんに踏ん切りをつけさせないとだね。ズルズル引っ張るのは良くない。上手く行って欲しいけど)
エリーは直ぐにタイラー副長の顔を見て微笑む。
「失礼致しました。それではまたの機会にお会い出来る事を、楽しみにしております」
そう言って、エリーは一礼する。タイラー副長は強張った顔で敬礼すると声を上げる。
「はっ! ローラさまのご期待に沿えるよう尽力致します!」
エリーはトーラスを見て頷く。
「それでは、クレアさん帰ります。今日は艦に残るのですか?」
「いいえ、艦隊本部の方へ一旦戻ります」
トーラスが答えると、エリーはエレベーターの方へ向かった。それを見てブリッジ内将兵がエリーに対し敬礼する。トーラスはエリーを追ってエレベーターに乗り込んでパネル操作してエレベーターを作動させた。
「出過ぎた真似でしたか?」
エリーが遠慮したように背を向けているトーラスに尋ねた。
「いえ、気にして頂いてありがとうございます」トーラスは後ろを振り返り答えた。
エレベーターが止まるとトーラスは直ぐに通路に出って、エリーがエレベーターから出るのを待っている。
「ローラさまにここまでしてもらって、申し訳ありません。確実に婚姻を決めてみせますのでご案内を」
「……ええ、あんまり気合い入れなくて良いと思いますよ。タイラー副長は大丈夫だと思うよ」
エリーとトーラスは通路を歩き、艦橋横ドアハッチを開けて甲板上に出た。左舷甲板上にはアテナ号の将兵30人ほどが並び敬礼している。
「今日はありがとうございました! 大変良い時間を過ごせた事に感謝いたします」
エリーは立ち止まりそう言って丁寧に一礼した。将兵達はそれを聞いてそれぞれに喜んだ表情を浮かべた。
エリーはタラップを降り。桟橋からブラウン商会リムジン車両へと向かう。トーラスが隣に並び寂しい顔をして言う。
「これでタイラーは……プレシャーが半端ないですね」
「……? なにかしら」
エリーが不思議そうな顔をする。トーラスはリムジン車両の後部席のドアを開けて。
「ローラさま、どうぞ」
エリーは後部席に乗り込むとトーラスはドアを閉めて、助手席の方へ乗り込みリムジン車両は動き出した。
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