第229話 海軍の今後
エリーはいろいろトーラスと話す
2国間和平交渉会議11日目午後。
ここはグラン連邦国大港湾都市、デーンのブラウン重工施設内。
エリー達はライド外務卿をマティオに残し、ランカーⅡで先ほどデーンに到着していた。
そこにはクレア•トーラス中佐がおり、エリー達を出迎えた。
現在、エリー達はブラウン重工施設の会議スペース内にいる。40畳ほどの会議室には大きなテーブルとパーテションで仕切られた10畳ほどの小スペースがある。エリー達5人は小スペースの6人掛けのテーブルで座っていた。エリー、ユーリ、エイダ、イレイナ、そしてトーラスが丸テーブルを囲んで座っている。
トーラスはエリーを見て少し戸惑った様子で口を開く。
「え、り、……いえ、ローラさまでしたね。お元気そうで何よりです」
エリーは皇帝護衛隊の白い軍服を着用して右胸には金色の帝国大魔導士章が輝いている。
エリーは微笑みトーラスを見つめて言う。
「クレアさん、ご苦労様です。前日の件、ことなき終えて良かったです。感謝しております」
「はい、ろ、ローラさまのご意向に添えて良かったです。」
トーラスが少し顔を緩めて答えた。
「……しかし、知らぬ間に、お付きの方が増えていますね」
トーラスが少し怪訝そうな顔をしてエイダとイレイナを見て言った。直ぐにエリーがそうだったという顔をして言う。
「あゝ、紹介がまだでしたね。こちらのお二人はブラデール、マティオのお嬢様方です」
そしてエリーはエイダとイレイナに視線を向ける。エイダとイレイナは直ぐに立ち上がりトーラスに一礼した。
「わたくし、ブラデール連合王国、国王息女、エイダ•ブルースと申します。トーラスさま、よろしくお願い致します」
続けてイレイナも一礼して言う。
「マティオ連邦国、首相フェンデスの息女、イレイナ•グリーンと申します。現在、グラン連邦国軍、首都防空航空隊所属。トーラス中佐、よろしくお願い致します!」
そう言って、イレイナはトーラスに敬礼した。
トーラスはイレイナを見て微笑み言う。
「航空隊ですか。なら私の艦に欲しいですね」
「……いえ、まだ訓練航空士です。とてもトーラス中佐の艦に所属出来るほどの技量では有りません」
イレイナは真面目な顔をして言った。
「何を謙遜しているのですか。え、ローラさまがこうしてそばに置かれているという事は、あなたの実力は一定以上と判断出来ます。これは社交辞令では有りませんよ。あなたはそれに見合うチカラを有していると」
「……」
イレイナは戸惑った顔でトーラスを見つめる。エリーはトーラスを微笑見ながら声を掛ける。
「クレアさん、イレイナさんにはそれくらいで勘弁してあげてください。お話しの続きを致しましょう」
「……! 申し訳有りません」
トーラスがハットしてエリーに視線を移す。そしてエイダとイレイナはゆっくりと着席した。
「アクセリアルの偵察行動は、ここのところ各地で頻発しています。それで念を押しておきたい事は、極力戦闘行為は避けるという事です。敵にデーター収集をさせない。それが当面の行動指針です。ご理解をお願い致します」
エリーはトーラスを見て言った。
トーラスは頷き答える。
「はい、その事は理解しております。仕掛けなければ応戦も無いようですし、万が一に戦闘になった場合は極力戦闘能力は隠して撃退するでよろしいですね」
「ええ。それで結構です。アテナ号の同型艦はあと10隻は就航予定です。1番艦の艦長として務めを果たして下さい。艦のシステム情報は補正データーとして各艦に共有化されます。そして半年以内に新鋭艦は順次進水、就航、改造改修艦を含めて70艦の艦隊が編成されます。ですが、不安要素はやはり乗員の練度ですね」
エリーはテーブルの上の資料をめくりながら言った。トーラスはそれを聞いて言う。
「洋上訓練は実際にできませんが、各セクション別の操艦、砲雷、索敵、発着艦訓練は順次シュミレーターで所属艦別に現在実施しております。元々海軍艦船乗りですから、標準レベルには到達出来るとは考えていますが」
「……まあ、急増艦隊ですから、艦隊システムのおうところが大きいとは思っています。艦隊旗艦オーベルの完成が急がれますね」
エリーは資料ファイルを閉じるとトーラスを見つめる。
「……はい、そんなに凄いのですか? そのオーベルとは」
「ええ、凄いですよ。全ての艦船を手足のように操り効率良く敵を撃滅します。現在、コアを準備しています。もうしばらく待てくださいね」
エリーは視線をユーリに移すと、ユーリが頷く。
「トーラスさん、これをお受け取りください」
ユーリがトーラスに封筒を手渡す。トーラスは封筒を受け取り直ぐに開封する。
「これは……、はい、承りました」
トーラスは椅子から立ち上がり一礼した。
封書には【海軍本部参謀本部付海軍参謀 兼 第1艦隊巡洋艦 アテナ号艦長 中佐 クレア•トーラス】
「クレアさん、申し訳有りませんが、海軍の上に手を回して役職を追加させて頂きました。艦隊司令くらいにしたかったのですが、それはちょっと無理でした」
エリーは少し笑って言った。
「ありがとうございます。海軍本部参謀特権があれば艦隊も指揮出来ます」
トーラスは立ち上がり嬉しいそうにエリーに頭を下げた。そして、エリーはトーラスを見て尋ねる。
「クレアさん、結婚のお話はどうなりました? あれから何も進展はないのですか」
トーラスは椅子にゆっくり座るとエリーを見て少し寂しそうな顔をして言う。
「……はい、進展無しです。申し訳有りません」
「……ふん、お相手は海軍の同僚だよね。両親に紹介もしてくれないの」
エリーが少し機嫌悪そうに言った。トーラスは申し訳なさそうに答える。
「はい、タイミングを図っていると、失敗すると破談になると」
「相手のお父様は元海軍軍人だったよね。旧貴族家の家柄だったよね。クレアさんが平民出身だからためらっているの?」
エリーはトーラスを少し怒った顔で見つめる。
「クレアさんの実力からすれば十分なのにね。もうやめちゃえば!」
エリーが言い放つと、トーラスが悲しい顔をする。
「……あゝ、そうなんだ好きなんだね」
エリーは少し申し訳ないような顔をして言った。
「……、はい、士官候補生時代からの付き合いですし、タイラーも私のことを思ってくれています。ですから別れる事は考えられません」
トーラスはそう言って顔を赤らめる。エリーは少し考えて微笑みトーラスを見つめて言う。
「じゃあ、アーサーさまに後見人になってもらようお願いしてみます。そうすれば問題ないかと」
「……アーサーさま、その方は旧貴族なのですか?」
トーラスがエリーを見て尋ねる。
「ええ、グラン連邦国の実力者です。この方に逆らえるものなど、グラン国内には居ないかと」
「しかし、そのような方が私の後見人などになっていただけるのでしょうか?」
トーラスが心配そうに言った。
「大丈夫、私のお願いは断れないからね」
エリーが自身ありげに言った。そして立ち上がりトーラスの近くに寄る。
「これで心配なく、作戦に集中出来るね。クレアさん」
「はい、ありがとうございます」
トーラスはエリーの手を取り頭を下げた。
「じゃあとりあえず、話は終わりだね。夕食はどこで食べますか? あの出来ればパスタのお店が良いのですけど」
エリーは嬉しそうに言った。ユーリが直ぐエリーを目を細めて見ると言う。
「ローラさま、警備体制が整いません。外食は遠慮くださいませんか」
「……えっ! そんな、お忍ではだめなのですか?」
「ダメです! 不測の事態が発生したら、どうするのですか! 今やそこら中に諜報がいるのです。もしかしたらアクセリアルのものも……、ですから諦めてください!」
「……えーーっ! ユーリさん……」
エリーはガッカリした顔をしてユーリを見つめる。それをエイダとイレイナは呆然と見つめている。
「……ローラさま、そう気落ちせず」
トーラスがエリーに声を掛ける。
「我がアテナ号の食堂へいらしゃいませんか? 腕の良いシェフがおります」
トーラスが微笑みエリーを見つめる。
「ええ、ホント! パスタも美味しいですか?」
「はい、準備させます」
トーラスは自信ありげに答える。そしてトーラスは会議室の電話器のを取ると直ぐにアテナ号へ連絡する。
「トーラスだ! 只今、ベランドル帝国、大魔導士ローラさまのアテナ号への表敬訪問が決まった。食堂でのパスタ料理をご所望だ! 各員心して掛かるように! あと30分ほどで到着する予定だから準備を頼む。 以上!」
トーラスは受話器を戻してエリーに一礼する。
「受け入れ体制整いました。それでは参りましょう」
「……ええ、そうですね」
エリーは申し訳なさそうにトーラスに頷いた。
(……うわっ! クレアさんて下には容赦無いんだ。こんな急に言って! 部下は今頃、相当大変だろうなぁ! ホント申し訳ない)
エリーは心の中でアテナ号乗員に謝った。
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