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第228話 魔道航空士

エリーはイレイナと会う

 2国間和平交渉会議11日目午前中。

 ここはマッテオ連邦国首都ドニア市、郊外のホテルの一室。


 会談は中断後、40分くらい経っていた。エリーは紅茶とユーリが持ち込んだクッキーを食べながら、満足げな顔をしてくつろいでいた。


 部屋のドアがノックされる。

 〈コン、コン〉

 

 ユーリが声を上げる。


「どうぞお入りください!」


 ドアがゆっくり開くと、フェンデス首相と隣に女性士官を連れだって入室して来た。直ぐにエリーは女性士官に視線が釘付けとなった。

(……え、グラン連邦国軍航空隊!? 女性航空士! 階級は少尉か! 付いている航空隊章から航空士官学生? まだ任官間もない……)


 エリーが少し驚いた顔をして女性士官を見つめていると、女性士官が深く丁寧に一礼して言葉を発する。

「ローラさま! お初にお目にかかります。わたくし、首相フェンデスの息女、イレイナ•グリーンと申します。今後、ローラさまにお仕えしたく参りました。どうか、よしなに」

 そう言ってイレイナは跪き右手をつき頭を深く下げる。エリーはイレイナに近づき屈んで視線を合わせる。


「イレイナさま、グラン連邦国軍の航空士なのですね。女性はまだまだ数が少ないのですが。飛行経験はどのくらいですか?」


 イレイナは跪いたまま顔を上げると、驚いた顔で尋ねる。

「……私が、航空士であることがわかるのですか!? ローラさまは一体!?」


「驚くことはないです。ベランドルとグランは共同作戦を展開準備中です。部隊間の交流もすでに始まっています。イレイナさまはグラン連邦国に留学中なのですね。士官学校は中央のべマン士官学校ですか?」


 イレイナはさらに驚いた顔をしてエリーを見る。

「……何処かでお会いしましたか? そのように詳しく」


 エリーは嬉しそうに言う。

「女性が航空隊のパイロットを目指すのは本当に嬉しいのです。私も努力した甲斐があるというものです」


「……?」

 イレイナが戸惑った顔をして、少し間を置いて。


「……ローラさま、航空隊に対しての知識が豊富にお有りのようですが。やはり、うわさは本当なのですね。あらゆる物に造詣が深く、圧倒的な魔力と理不尽なほど武を持ち、慈悲深いお方。この大陸に並ぶ者無しと……。是が非でもローラさまにお仕えさせてくださいませ」

 イレイナは再び頭を深く下げる。エリーはイレイナの手を取って言う。


「イレイナさま、私は世間で言われているような大した者では有りません。そのまま役目を果たされれば良いかと思いますが」エリーはまるで聖女のような顔をして優しく言った。


 イレイナは少し顔を上げる。

「ローラさま……こうして、まじかで接する事が出来て、私はなんと幸せ者なのでしょう」

 イレイナはそう言って、エリーの右手を握りしめる。

(……うう! めんどくさい。このイレイナさま、厄介な性格かも? 適当にあしらわないと)


「イレイナさまは、べマン士官第38期ぐらいですか? 階級から見て今年任官ですよね。それでいま首都航空隊訓練生なのですね。選択機体はベルーダですか?」


 イレイナは驚きと喜びの混じった顔をして興奮気味に答える。


「はい、その通りです。ローラさまはなんでもわかるのですね! 凄いです。お伺いしたいのですが。ローラさまも航空機の操縦出来るのですか?」


「ええ、ベルーダ1型標準仕様の操縦は出来ます」


 イレイナは瞳を輝かせてエリーを見つめる。

「……す、凄いです。ローラさまは、剣技も英雄レベル、重装機兵もエース級、航空機の操縦もなされるとは……、私の目指す者です。ローラさま! ここでめぐり逢えたことを女神ローゼ様に感謝致します。どうか私を受け入れて下さい!」


「……!」

 エリーは一瞬、嫌な顔をする。

「イレイナさま……落ち着いて下さい。私はそのような期待に応えられるような者ではないと申し上げましたよね。現実は甘く無いです。私のそばは常に危険がつきまといます」


 イレイナはエリーにしがみつき嘆願するように言う。

「……私は、ローラさまの酷い悪い噂を周りのものから聞かされ気が滅入っておりました。ですが、目の前のローラさまはそのようなお方でないと理解しております。ですから、どうか私を側仕えの末席にお加えください」


 エリーは顔を若干引き攣らせてセレーナに尋ねる。

(この子……大丈夫かな? なんかめんどくさい感じなのですが?)

 セレーナからイメージが直ぐに上がって来る。

(エリー、気に入られたな。悪気もない本心だ。それに覚醒適性を持った血統者だ。取り込んで損はない。戦力補充を考えるなら良いのではないか)


(……そうなの、じゃあそうするよ)

 エリーは渋い顔をしてイレイナを見つめる。イレイナはそれに気づきハットしてエリーから離れた。

「……もう、しわけ、有りません……」


 2人のやりとりを見つめていた。フェンデス首相はイレイナの背後から声を上げる。

「イレイナ、ローラさまに無礼だ! もっと礼節を持って」


 エリーは右手を挙げてそれを制し言う。

「いえ、私は全く不快ではありません。フェンデスさまは、良いご息女に恵まれましたね」


「……あゝ、それはどういった?」


 エリーは立ち上がりフェンデス首相に微笑み言う。

「イレイナさまは、将来有望なお方です。お預かりしても良いのなら、お預かり致します」


 それを聞いてユーリが驚いた顔をしてエリーを見て言う。

「ローラさま! それは……大丈夫なのですか?」

 エリーはユーリを見て微笑み頷いた。


「……はい、了解致しました。出過ぎた真似を、失礼致しました」

 ユーリはそう言って、エリーに一礼した。フェンデス首相はエリーをしばらく見つめて言う。

「イレイナをお気に召したと……では、我が国も」


「これは関係無く、元々全ての国家はまとまり一致団結してことに当たらねばなりません。良き人材は全て大陸のためにです。一国家のためならそれは不協を招き大きな禍がその国を滅することでしょうね」

 エリーは微笑みフェンデス首相を見つめて淡々と言った。


「それは……はい、ローラさまの申されたい事は理解しました。ですが国家は大事です」

 フェンデス首相は少し顔を顰めて言った。


「ではお望み通り本音を申し上げます。その国家自体が存在出来たらね。でも、今後起こる厄災はそんな生ぬるい考えでは、生き残れないよ。フェンデスさま……事は重大なんだよ。この大陸が生き残れるか否か、時間も無い。この状況で自分の国のことしか考えられない国家元首なんて……どうですかね」

 エリーは恐ろしく冷たい目でフェンデス首相を見つめる。フェンデスはその雰囲気に押されて後ろにたじろぐ。

(なんだ……この威圧感は、私も首相として多くの政治家や官僚とやり合ってきたが、一見少女にしか見えないローラさまに、完全に……)


「……申し訳有りません。ローラさまの知見おみそれ致しました。さすが、大陸を席巻されているお方です……」

 フェンデス首相は強張った顔で無理に笑顔を作って誤魔化した。イレイナは心配そうな顔をしてフェンデス首相を見て言う。


「お父様、私はローラさまに着いて行きます。よろしいですよね。希望が叶ったのですから嬉しいでしょう」


 フェンデスはイレイナの後ろに立っているエリーに目をやり少し怯えた顔をする。

(私は、舐めていた……、ローラさまはとんでもないお方だ。私などとても及ばない……。私は間違いを犯したのか? もう遅い……すまない、イレイナ)


 フェンデス首相はエリーに深く頭を下げて。

「イレイナのこと。よろしくお願い致します」


「はい、イレイナさまをお預かり致します。ですが、正直に申し上げますが、絶対に身の安全を保障はしかねます。それでもよろしいのですか」


「はい、大陸最強のローラさまのもとにいるのですから。これほど安全な場所が他にありましょうか」

 フェンデス首相はエリーに視線を合わせて引き攣った笑顔で答えた。


「では詳細は、ライド外務担当卿にお願い致します」

 エリーはそう言って、イレイナを見つめる。

「では、参りますか」


「……? え……」

 イレイナは困った顔をしてエリーを見つめる。エリーはトッドに頷き合図する。


 トッドはユーリと立ち上がり一礼する。

「それでは失礼致します。次回また公のエラン陛下を伴った会談を行いますので」

 エリーはフェンデス首相に深く一礼すると部屋から出て行った。イレイナも戸惑いながら追随する。


 


最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!

 

 これからも、どうぞよろしくお願いします。


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