第227話 フェンデスの娘
フェンデスの娘イレイナ
2国間和平交渉会議11日目午前中。
ここはマッテオ連邦国首都ドニア市、郊外のホテルの一室。
部屋は豪華な内装で高価な調度品が置かれている。30畳ほどの居間には大きなテーブルが置かれてそこには対面で10人が座って居る。
エリー達はブラデールから1時間ほど前にドニア市郊外の軍事施設に到着、このホテルにやって来ていた。今回の訪問は非公式な要請による極秘会談であった。
エリーが対面のフェンデス首相に言う。
「ベランドル帝国の重工業地区にも資源供給をして頂けるとのこと感謝致します」
フェンデス首相は微笑みながらエリーを見て言う。
「はい、当然対価は頂きますよ。それと、大陸密約に関しても、我が国も加われるようにお願い致します」
「……それに関しては、私はお答え出来る立場に有りませんので、ご容赦願います」
フェンデス首相はエリーをブルーの瞳で怪訝そうに見ると声を荒げる。
「なんと! ここは公の場では有りません! 本音でお話しくださいませんか! 私はありきたりの建前でのお話しなど……、ローラさまの影響力がいかほどのものか心得ております。グランとベランドルの2国の親密な関係も承知しております。ここ最近の急激な情勢変化はローラさまが中心となって行われた。決定権が無いなどとふざけた事を申されるとは。耳を疑います!」
エリーはフェンデス首相の物言いに少し驚いた顔をする。
(……必死だね。それだけ危機感があるってことか? どうしたものか……)
ライド外務卿が立ち上がりフェンデス首相を制するように言う。
「フェンデス首相! 感情的になられるのはいかがなものかと、貴国のためにもここは落ち着いてお話しください」
フェンデス首相はライト外務卿を見て嫌な顔をする。
「……ええ、そうですね。ですが、ローラさまのとぼけた態度はやはり……」
ライド外務卿が隣りのエリーを見て言う。
「ローラさま、一旦休憩を入れた方が良いかと」
「……はい、そうですね」
エリーはライド外務卿に頷き同意した。そしてエリーは立ち上がりフェンデス首相を微笑んで言う。
「フェンデスさま、休憩を致しましょう。落ち着いてから、お話しをお願い致します」
「……、はい、ですが……ええ、結構です。一旦休憩といたします」
フェンデス首相は頷き、若干機嫌の悪い顔で答えた。フェンデス首相は隣りの内務相と秘書官を見て頷くと、エリーに視線を移して一礼する。
「それでは、30分ほど休憩を致します」
そう言って、フェンデス首相とマティオの閣僚、官僚が退室した。
エリーはドアが閉まりしばらくしてふっと息を吐き椅子の上でだらけた顔をする。
「……情報操作はどうなっているのですか? 各国とも少し焦り過ぎていませんか」
隣りのライド外務卿が微笑み言う。
「まあ、しょうがないですね。置いていかれまいと必死なのです」
「……実際、私はハリーさんの指示に従って動いているだけなのですよ」
そう言ってエリーはさらにだらけた顔をする。そして見かねたユーリが声を上げる。
「ローラ様! ここはお家では有りませよ! 緩み過ぎです!」
「……うっ、ユーリさん、わかってるよ」
エリーはだらけた顔を引き締める。
◆◇◆
ホテルの別室に移ったフェンデス首相達は、ソファーに座り暗い表情で顔を伏せている。
沈黙の中、首相秘書官が口を開く。
「……やはり、うわさ通りなら、イレイナ嬢に協力をお願いするしかないのでは」
フェンデス首相は悲しい顔をして言う。
「……イレイナは呼び寄せて、準備はさせているが……本人はまだ十分に納得していない様子だ。しかしこのままでは交渉はうまくいかんだろう。もはや……もう手は無いのか」
内務相がフェンデス首相に遠慮したように小声で言う。
「……ブラデールのブルース国王は王女をローラさまに差し出されたとの事です。それによりローラさまと繋がりが出来たとの話ですが」
首相秘書官がフェンデス首相を見て頷く。
「……はい、確認した情報です。ローラさまのハーレムは実在するようです。容姿端麗、武、智、魔法いずれも高いレベルが要求されるとか、イレイナ嬢ならば才女で容姿も問題いかと」
フェンデス首相は悲しい顔をして、部屋のメンバーを見据えて言う。
「……貴様ら……好き勝手に言ってくれるものだ」
内務相が目を閉じて言う。
「誰でも良いという訳では無いのです。一定以上の器量、能力を持ち合わせていないと、逆にローラさまの機嫌を損ねたらなんの意味もありません」
「……あゝ、わかった。君達は部屋から出て行ってくれないか。イレイナと話す」
フェンデス首相は首相秘書官を見て言う。
「イレイナをここへ連れて来てもらえるか……」
首相秘書官は直ぐに一礼する。
「はい、お連れ致します」
そしてフェンデス首相をひとり部屋に残し、他の者は出て行った。
しばらくしてドアがノックされ、ドアが開くと軍服を着た金髪ショートヘアの美しい女性が入って来た。
「お父様、参りました」
女性士官はフェンデス首相に一礼する。
「……イレイナ、なぜ軍服なのだ。ドレスに着替えろと言ったではないか」
フェンデス首相は少し慌てた顔をする。
「……ローラさまにはお会い致します! 私が人質となればよろしいのですね。……はい、私が選ばれたのならば……諦めましょう。私も軍人です。国家のためなら死地へも向かいます!」
イレイナは投げやりな態度で言い放った。それを見てフェンデス首相は悲しい顔をする。
「す、まん、お前には迷惑を掛ける」
「……ええ、よろしいですよ。ローラさまはいまや、この大陸において中心におられるお方。私も得るものも必ずありましょう」
イレイナのブルーの瞳は涙で少し潤んでいる。
「イレイナ、ローラさまが受け入れてくださるかどうかは、わからんからな」
「……そんなこと。決まっているじゃないですか。プライドに賭けて絶対に気に入らせて見せます」
イレイナは強張った顔で言った。フェンデス首相はイレイナのそばに寄って肩に手を添える。
「……」
フェンデス首相はイレイナを抱き寄せるとしばらく抱擁して肩を震わせる。
「……ローラさまは悪いお方ではない。お前を大切に扱ってくださるだろう」
「……」
イレイナは頷いた。
部屋のドアがノックされる。
「どうぞ!」
フェンデス首相が答えると、ドアが開き首相秘書官が一礼する。
「フェンデスさま時間です」
フェンデス首相はイレイナの背中を軽く押して言う。
「イレイナ……、さあ、行こうか」
「はい、参りましょう」
イレイナはフェンデス首相と視線を合わせる。そして部屋出てエリー達の部屋へと向かう。
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