第226話 トッドとの朝修練
エリーはトッドと修練する。
2国間和平交渉会議11日目早朝。
ここはブラデール連合王国首都カリアン市、中央区外交迎賓施設内、中庭。
エリーとトッドは木剣を構えて対峙していた。エリーはトッドを見据えて木剣を左斜め下段に構える。
(……相変わらず、隙が無い! 不用意に行くと打ち込まれるイメージしかしないなんて……)
トッドが上段に抱えて微笑み声を上げる。
「ローラ様! なにをためらっておられるのです! ではこちらから行きますが、よろしいですね!」
「……!」
エリーは一瞬顔を顰めてトッドの動きを視感する。トッドは上体を沈めた瞬間にはエリーの目の前に到達、猛烈な突きを放っていた。
「く――っ!」
エリーはうめき声を上げながら体を捻りながら上方へ木剣を掬い上げる。
〈き――っ〉木剣の擦れる音がして、トッドの剣先がエリーの頭を掠める。エリーはたまらず。左足を蹴り出し退こうとするが、すぐさまトッドの折り返しの斬撃が放たれた。
エリーは木剣を側方に入れ、トッドの斬撃を下にいなした。しかしトッドは上体を入れ替えると、直ぐに上段から渾身の一撃を放つ。エリーはたまらず防御障壁を展開トッドの木剣の直撃を避けると、直ぐに間合いをとった。
(……うう、防御しなければ肩から一撃くらいましたね。完全に崩されました。剣の寸分違わぬコントロールさすがです)
エリーはトッドの顔を見つめて少し悔しそうな顔をする。
「ローラ様! どうされました! いつものキレが有りませんよ! 私などに遅れをとっていてはまだまだですね」
トッドが嬉しそうに声を上げた。エリーは呆れた顔をして木剣を下ろすと言う。
「はい、参りました! 今日は気分が乗りません。これまでとしてください!」
「はい、そうですね。この状態では何度やっても同じ結果ですね」
トッドは口元を緩ませて言った。エリーはそれを見てトッドから視線を外して木剣を袋に仕まう。
「ソウイチロウ様の刀はどうですか?」
トッドがエリーに寄ると唐突に尋ねた。
「ええ、問題有りませんよ。私との相性は最高だと思います。刃こぼれは皆無、切れないものは今のところありません」
エリーはトッドを見上げて微笑み答えた。
「……そうですか。私も一刀欲しいものです」
エリーはその答えに少し驚いた顔をする。
(トッドさんが……珍しいな!?)
「あの刀は無理ですよ! ソウイチロウ様からの預かりものです。いずれ返す約束をしています。代わりのものなら準備出来ますよ」
トッドは少し屈んでエリーの顔を見つめる。
「あの刀に及ぶものがお有りですか?」
「……それは……無いですね。ですが、トッドさんが今お持ちの剣よりは上のものは有りますよ。ベランドルの宝物庫に心当たりの剣が二振りほど有りますので、どうですか?」
「それなら一度お願い致します」
「あのトッドさん、どうしてですか?」
エリーが戸惑った顔でトッドに尋ねた。
「今までの状況なら良いのですが。これからはそうもいかないと。ですから力をあげなけらばならないと判断しました」
トッドは微笑み答えると、エリーは頷きトッドの顔を見上げる。
「はい、理解しました。私に出来ることは致します」
ユーリが修練が終わった事を確認して、エリーの前までやって来た。
「ローラ様、朝食を摂られたら直ぐに出発です」
「はい、わかりました。エイダさんはどうですか?」
エリーはユーリに尋ねた。
「はい、とりあえず同行は可能かと」
ユーリは直ぐに答えて通路のほうを見た。そこには美少女エイダが立ってこちらを見ている。エリーはエイダの立っているところへ歩き出す。
「エイダさん! おはようございます。体調はどうですか?」
エイダはエリーに一礼すると。
「……ローラさま! 私をひとりにしないでください! 置いていかれたのかと不安になりました!」
エイダはエリーに一気に駆け寄り抱きついた。顔は少し不安そうな様子で瞳が潤んでいる。
「……え、朝の修練です。体調に問題は有りませんね」
エイダはワザとエリーにカキツキ上目遣いで甘えたよう言う。
「ローラさま、体には問題有りません。ですが……心が、心がローラさまを求めてやまないのです……」
エリーはエイダの顔を見つめる。
(……いつものことだけど。洗礼の後ってなんかみんな緩むんだよね。エイダさん本当は寂しがり屋で甘えん坊なんだね)
「じゃあお部屋に行って落ち着きますか」
そう言ってエリーがエイダの腰に手を回して
歩き出す。近くにいた、ブラデールの警備士官が2人の様子を見て少し驚いた顔で見つめていた。
(エイダ王女殿下、別人のように変わられている! ローラさまに完全に魅了されているのか?)
ブラデールの警備士官は慌てたようにその場から離れた。
◆◇◆
ブラデール連合王国首都カリアン市、中央区域王宮殿、国王居室内。
ブルース国王は少し早い朝食をとりながら、迎賓施設中庭でのローラの動向報告を行政官から受けていた。
「……エイダは、完全に……我を失うほどにか?」
ブルース国王は少し悲しそうに言った。行政官はそれを見て視線を落として言う。
「……はい、芝居では無いようです。今まで見たことのないような表情だったと。近衛女性士官で5年ほど姫様に支えていたものの証言ですから間違いないかと。見ていられなかったとのことです。可憐で清楚な姫様が男に物をねだるような表情をされていたとのことです……ローラさまは恐ろしいお方です」
「……そうか。それも覚悟の上だ。ローラさまが満足されたのなら、それで良い……」
ブルース国王は目を閉じて、食事を中断する。そして行政官が報告を続ける。
「同行していた外交担当官とローラさまが修練をされたそうですが、外交担当官がローラさまを圧倒したとの報告を受けております」
「……そうか? まあローラさまも本気ではなかったのだろうが。その外交担当官もかなりのものなのだろう」
そう言ってブルース国王は間を置いて。
「その外交担当官とは、昨日同席していたトッド殿だな」
「はい、トッド殿です」
行政官が答えると、ブルース国王は椅子から立ち上がりる。
「デモンストレーションだろう。ローラさまの周りは、強者はいくらでもいると。昨日同席していたユーリ殿もかなりだ。あのようなもの一国に1人居るか居ないかの逸材が、ローラさまの周りは集まっている。エイダも覚醒してそうなれば良いのだがな」
ブルース国王は顔を下げて残念そうに言った。
「とりあえずローラさまには取り入れたのです。良しとしましょう」
行政官が遠慮気味にブルース国王を見て言った。
「……あゝ、そうだな。エイダには申し訳ないが、これも致し方ない」
「あと30分ほどで出発されます。ローラさまのお見送りをお願い致します」
行政官が一礼すると部屋から出て行く。ブルース国王はドアが閉まると悲しい顔をして呟く。
「……エイダすまん、チカラが有ればこのようなことにはならぬのに……」
そうしてブルース国王は視線をテラスの窓の方に向けた。
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