第225話 エイダの洗礼
エリーはエイダを洗礼する
2国間和平交渉会議10日目夜。
ここはブラデール連合王国首都カリアン市、中央区外交迎賓施設内。
エリーは夕食を済ませ、ライド外務担当卿から今日一日の報告と明日の予定にて付いて話していた。
「ローラ様、明日はマティオです。よろしくお願い致します」
ライド外務卿がエリーを見て微笑む。エリーは嬉しいそう答える。
「はい、ハリーさんが裏工作は終わらせていますので問題はありません」
ライド外務卿は50代半ばの知性を感じる柔らかい物腰のおじさまだ。ベランドル帝国大貴族出身の元元老院議長、姉であるエランの支持をいち早く表明した信用出来る人物である。
「それでは、私は失礼致します」
ライド外務卿は椅子から立ち上がり、エリーと視線を一旦合わせて一礼する。
「ライドさん、おやすみなさい」
エリーは椅子から立ち上がり一礼した。そしてライド外務卿が部屋から出て行くと、ユーリとトッドがエリーを見つめる。
「……あゝ、デーンの件ね。続報はないんでしょう?」
エリーは椅子に座ってユーリを見て言った。
「はい、クレア艦長には詳細の報告をお願いしています。あとデーターの解析をブラウン商会分析センターで行っています。最近アクセリアルの偵察行為が目立ちますが、警戒体制の見直しが必要かと思います」
ユーリはエリーを見て直ぐに答えた。
「アクセリアルの偵察行為は昔からあったけど、ここ最近は頻繁に確認されていますね。向こうも脅威と感じ始めたのかも? 警備体制を見直してもね……。まあ、ある程度好きにやらせたほうが良いよ。こちらは隠蔽を優先的にね。開戦が早まったら困るんだよね」
エリーは少し疲れた顔をして部屋の時計に目を向ける。
「……、すみません! もうそろそろお休み時間ですか」
ユーリが慌てたようにエリーの顔を見た言った。
「……約束があるんですよ。エイダさまと」
「あ……、エイダさま、はい、了解しました。この件はしばらく現状のままで。隠蔽工作を重点に行うということで進めます。それでは、失礼致します」
そう言ってユーリは椅子から立ち上がる。トッドはエリーを微笑みながら見て言う。
「エリー様、明日朝、出発前に手合わせしますか?」
「はい、喜んで」
エリーは嬉しいそうに答えた。そしてトッドは一礼すと、ユーリと一緒に部屋を出て行った。
エリーは2人が出て行くと、直ぐに立ち上がり水差しからコップに水を注ぐ。
(……アーサーさまの手配が整っていれば、ブラウン重工に話しをしてみますか?)
エリーの客間居室のドアが弱くノックされる。
「はい、どうぞお入りください!」
エリーが答えると、ノブが回りゆっくりドアが開く。ドアが開くエイダが顔を出して頭を下げた。
「……ローラさま、し、しつ、れいいたします」
エイダは部屋に入ると再び頭を下げた。エリーは微笑みエイダの顔を見つめる。
「ようこそ、エイダさま。お掛けください。何になさいます? 紅茶ですか、それともソーダ水、お水ですか?」
エリーが尋ねると、エイダは緊張した顔をして言う。
「……いいえ、何もいりません。呼び捨てで結構ですから、エイダとお呼びください」
「まあ……じゃあエイダさんでいいですか?」
エリーはエイダをテーブルの反対側の椅子に座るよう即した。エリーが椅子に座ると、エイダもゆっくり椅子に座った。
「……はい、ローラさま、お話しをお伺いします」
エイダの顔は少し緊張が見られるが、昼間よりは随分落ち着いている。エリーはエイダの綺麗な瞳を見つめて話しを始める。
「エイダさん、同行を認めるためには条件がある事を理解してください。先ずはあなたは、この国の王女でありますが、この国を捨てる覚悟があるかどうか、お伺いします。これから直ぐに激動期がやって来ます。それは避けられない事なのです。もはや、一国の利益や損得でことを為せないのです。意識をこの世界全域に向けて行動しなければならないのです。ですから、エイダさんに確認します」
エイダは緊張した面持ちで瞳はエリーの顔を見つめて答える。
「……父、カミロの意思とは外れると思いますが、私はローラさまに従うとすでに決めています。ローラさまは慈愛に溢れるお方であり、広い見識をお持ちで先を見ておられる。私をローラさまのおそばに置いて頂ければ幸いです」
エリーは嬉しいそうに微笑みエイダを見る。
「やはり、しっかりされていますね。感心しました。それでは尋ねます。私の洗礼を受けますか? 洗礼を受ければ私に身を捧げて従者となります。そして、あなたの能力は飛躍的に向上します。ただし良いことばかりではなく、自由は制限されます。洗礼を受けますか? 洗礼をすればもう後戻りは出来ません」
エイダは少し間を置いて尋ねる。
「……ローラさま、洗礼は受けなければ、おそばには置いて頂けないのですか?」
エリーはエイダの顔を見て頷く。
「……」
エイダは微笑み答える。
「ローラさま……お願い致します。覚悟ではなく、喜びを持って……」
エリーは椅子から立ち上がると、居間から奥の寝室のドアを視線で示した。
「……!」
エイダは少し動揺して椅子から立ち上がる。
「もう一度尋ねます。大丈夫ですか?」
エリーは優しく尋ねた。
「……はい、お、お願い、いたします」
エイダは少し緊張した声で答えた。エリーはそばに寄ってエイダの背中に手を回すとゆっくり歩いて寝室へ。
ドアを開けて寝室へ入ると、エイダは戸惑った感じでエリーから手を解いて離れた。
「……」
エリーはエイダを見て少し驚いた。エイダは慌てたように着ていたワンピースを脱ぐと、下着を外し裸になろうとする。エリーは直ぐにエイダの肩に手を添えて尋ねる。
「エイダさん! なにを?」
エイダは緊張した顔でエリーを見て答える。
「……ローラさま……、私は初めてなので、教えてくださいませ……経験が無いのでどのようにすれば良いかわからないのです。教えて頂ければ努力いたします……」
エリーは呆れた顔をしてエイダの顔を覗き込む。
「誤解です。あらぬ噂が広がっているので困っているのです。私は、カミュ様では無いのでそのようなことはしませんよ。まあ、エイダさんがお望みならばやってみても良いかもしれませんが」
「……カミュ様?」
「あ……! 関係ないよ」
エリーは答えると、エイダをベッドへ移動する。
「気持ちは楽にしてね」
エリーが優しくそう言ってエイダの左手を握り頬を寄せる。そしてエリーは白色の光で輝き始める。
エイダは目を閉じてエリーに身を任せた。エリーの白い光がエイダへと広がり包み込む。しばらくエリーの魔力がエイダのコアへと流れ続ける。
エイダはエリーから流れ込む魔力量と情報量の次元の違いに戸惑っていた。
(やはりローラ様の深部には、とんでもない力が眠っていた。だから私も惹かれたのだ。私は従者契約を結び、これでローラさまのそばに……? なに……違和感?)
エイダは恍惚としてわれを忘れる表情のままベットに横たわっている。
エリーは微笑みエイダの手を優しく解いって立ち上がると、寝室から出て行った。
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