第221話 アクセリアルの脅威
トーラスは出撃したくてたまらない
2国間和平交渉会議10日目午後。
ここはグラン連邦国デーン港より150キロほど沖合。洋上において、最新鋭ミサイル巡洋艦
アテナ号は謎の潜航体に追尾されていた。
アテナ号戦闘指揮所内。トーラス艦長はキャプテンシートに座り無表情に大型パネルを見つめている。砲雷長は端末操作盤フレームにもたれ掛かり疲れた表情をしていた。
「……1時間か? 増減速、蛇行航行をしても距離は一定だな。攻撃意図はとりあえずないようだが」
トーラス艦長が少し苛立ったように言った。いつも感情を出さないトーラス艦長にしては珍しい。戦闘指揮所内将兵に緊張感が走る。
砲雷長がトーラス艦長に視線を向けて。
「潜航体のスケールは30mほどです。間違いなく、10年前に回収された物と同種と考えます。スペックは不明ですが速度は我が艦と同等かそれ以上ですね」
トーラス艦長が無表情に砲雷長を見つめて言う。
「間違いないだろうな、だとすれば活動時間だ。もう我々と接触して2時間以上だ。そろそろ限界時間ではないのか? 哨戒圏内に母艦らしきものは確認出来ていない。タイムリミットは近い」
砲雷長は探知モニターに目をやり言う。
「では、動くと?」
「あゝ、攻撃もあるかもな。我々が探知していることは承知しているだろう。そして、外側には別の観測者がいるかもしれん。とりあえず我が艦の観測データー収集が第一目的である公算が大だな。バックアップが確認出来ないのも気に掛かる。それだけ自信があるのかもしれんが……?」
砲雷長がトーラス艦長を見て動揺する。それは、うっすら口元を緩め笑っているように見えからだった。
「……!?」
「この艦の索敵能力をまだ、全てさらす訳にはいかんからな。下に複数隠れている。気づいていないふりをしなけらばならんのが……面倒だ」
トーラス艦長はそう言って砲雷長を見て目を細める。
「砲雷長! 哨戒機は!」
「はっ! 哨戒行動を開始しています」
「了解した。システムリンクは完了しているか?」
砲雷長はキャプテンシートのトーラス艦長に頷く。
「問題なくデーター共有出来ています」
トーラス艦長は砲雷長を冷たい目で見て言う。
「増援艦の合流予定はどのくらいだ」
「はっ! あと30分ほどで」
トーラスは位置情報システムパネルを見て言う。
「沿岸警備艦隊の駆逐艦か?」
「はい、2艦が全速急行中です」
砲雷長が答えると、トーラス艦長は一瞬目を閉じてから言う。
「私は下に行く。準備は出来ているな」
「はい、システム起動は完了しています。あとは乗り込むだけです」
「そうか、合流次第、駆逐艦には潜航体の直上にて爆雷投下を指示してくれ。だがそこまで猶予があるかは不明だが、頼む」
砲雷長はトーラス艦長を見て答える。
「はっ! 了解しました! しかし、駆逐艦の装備爆雷では仕留められないと思いますが? よろしいので」
「あゝ、構わん」
トーラスは軽く頷き答えた。そしてキャプテンシートから立ち上が手を上げて砲雷長を見る。
「しばらく任せる。艦の指揮権はタイラー副長に移行する。不測の事態発生時は副長に」
そしてトーラス艦長は戦闘指揮所からハッチを開けて出て行った。トーラス艦長はすぐに下層タラップを降り、パイロット予備室にへと入った。パイロット予備室は6畳ほど空間で備え付けのロッカーと長椅子が置かれている。
トーラス艦長は軍服の上着を脱ぎ、顔を緩める。そして軍服とシャツを脱いで、下着を外しボディスーツを着用する。黒いボディスーツはかなりタイトでトーラスのボディラインがくっきりと浮き出ている。体は細身だが出るところは出ている。適度に鍛えられたバランスの良い肉体だ。トーラスは嬉しいそうにロッカーから一体成形のパイロットスーツをとり出して足を入れ着込んでいく。そしてファスナーを上げると棚からヘルメットを手に取った。
トーラスは表情を緩めて呟く。
「やっと実戦……あゝ、嬉しい……このワクワク感……」
トーラスはパイロット予備室の奥のドアの前に立ち、ドアの横のパネルに左手を当てる。
《クレア•トーラス認証しました! 立入許可!ドア開放!》部屋に女性のアナウンスが流れて、ドア開放された。
トーラスはヘルメットを手に持って直ぐにドアの奥へ進む。奥には艦底部へと続くタラップがあった。そしてタラップを降っていく。天井の低い空間が現れ、奥で端末操作をしている30才くらいの男性がトーラスに気づき声を掛ける。男性は軍服は着ていない、白い整備技師作業繋ぎを着て居る。
「トーラスさん、出るつもりですか? パイロットスーツ着込んでますよね。上の許可は? 当然有るのでしょうね」
「いや、ない……、だが、エリーお嬢様に出撃の有無は、お前の判断で良いと言われているが。それではダメか?」
男性整備技師は一瞬顔を強張らせて言う。
「……え、エリーお嬢様……、ええ、それなら文句を言える訳無いです。トーラスさんが出撃すると言われるになら、従いますよ、はい」
「そうか、それなら頼んだ」
そう言ってトーラスは床の中央のハッチレバーを回してハッチ内にお潜り込む。ハッチの下の空間は狭く手摺を持ってコックピットのようなスペースに体を折り曲げて入った。先ほどの男性整備技師の声がする。
「トーラスさん、ハッチ閉めます」
そして上部ハッチを閉めてロックをする音がした。トーラスはコックピットシートに腰を入れると、正面パネル表示を確認する。
トーラスは素早くシールド安全装置を外し、シールド開閉ボタンを押した。コックピット内にアラームが鳴り響き、シールドがゆっくりスライドして閉まっていく。
《警告! コックピットシールド密閉確認! 空気酸素供給システム起動! 気圧、空気濃度適性値確認!》
コックピット内に女性のアナウンスが流れた。トーラスはパイロットヘルメットを被りケーブルを装着して固定ベルトをロックする。そしてパネルの通信接続選択を押して言う。
「起動する! 良いか!」
『トーラスさん、OKです』
「了解した」
トーラスはシステム起動スタンバイボタンを押す。コックピット内の警告ランプが点灯して機体のスピーカーから女性の声でアナウンスが流れる。《レンガリアン起動シーケンススタンバイクリア! 起動シーケンス、スタートして下さい!》
トーラスがコックピット正面パネルを見て確認呼称する。「起動異常アラーム無し! オールグリーンランプ確認! 起動シーケンス、スタート!」そしてセーフティーロックを解除、起動スイッチを押した。
そして機体の融合炉が起動、高周波モーターの様な音が鳴り始める。
コックピットシールドに周囲の景色が移し出される。トーラスはヘルメットバイザーに表示されるデーターを確認する。
「起動アラームなし! いつでも出れる」
トーラスが声を上げる。
『了解! とりあえず注水はしません。そのまま待機してしてください』
上部制御室の整備技師が答えた。
「了解! 待機する」
トーラスは静かに目を閉じて体の力を抜いた。トーラス搭乗した機体は黒色で塗装されスマートな流線型をしている。後方には航空機のような尾翼のようなものが見える。全長は30mほどある。
トーラスは静かに深く息をして正面パネルの通信接続をタッチする。
「トーラスだ! 駆逐艦の爆雷攻撃5分前に連絡を頼む」
ヘッドスピーカーから砲雷長の応答が入った。
『了解です! 準備は万端ですか?』
「あゝ、問題ない」
トーラスは答えて、直ぐに無線を切った。
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