第220話 王女エイダ
2国間和平交渉会議10日目午後。
ここはブラデール連合王国首都カリアン市、中央区域王宮殿内。
あれから1時間ほどしてブルース国王はエリー達の控える部屋にもどって来た。ひとりの美少女を連れやって来たのだ。その美少女はどこか余裕が無い様子で、顔も強張っている。笑顔を作っているが不自然でぎこちない感じだ。
「……ローラさま、お初にお目に掛かります。ブラデール王国、第二王女、エイダ•ブルースと申します。今後ともよろしくお願い致します」
そう言って手を前に深く頭を下げた。エリーは直ぐにエイダ王女に近づき丁寧に頭を下げて。
「エイダさま、ローラ•ベーカーです。よろしくお願い致します」
エイダ王女は驚いた顔をしてエリーを見る。エイダ王女の瞳が僅かに痙攣している。
「……私など、エイダと呼び捨てでお呼びください」
エリーはエイダ王女の顔を覗き込み微笑み優しく。
「エイダさま、もっとリラックスなさったら良いと思います。そんなに緊張してどうされたのですか? まさか私が怖いなどっと」
エリーはエイダ王女の背中に手を回して触れると、気付かれないよう、少量の魔力を通す。
(……何を吹き込んだかしらないけど、とりあえず気持ちを落ち着かせよう)
エリーは微量の魔力を慎重にエイダ王女の体に流して、体の緊張を解いていく。
エイダ王女の強張った顔が次第に緩み、満たされたような雰囲気に変わっていく。
「……ローラさま……こうしていると、不思議に心が温かく満たされていくのですが……」
エイダ王女が顔を上げてエリーを見て少し恥ずかしいそうに小声で言った。
「……それは良かったです」
エリーはそう言ってエイダ王女を抱きかかえる。エリーは従者スキルでユーリに確認する。
(これはあれですか。エイダ王女を人質にでも差し出すつもりですか? どう思います。ユーリさん?)
ユーリは視線をエリーと合わせて軽く頷く。
(また厄介な! 受け入れる訳には……)
エリーはユーリから視線を外すとエイダ王女に話し掛ける。
「エイダさま、留学をご希望ですか。グラン連邦国に良い学校が有ります。私に伝手がございますのでご紹介致します」
ブルース国王がエリーの物言いに、驚いた顔をして言う。
「ローラさま! エイダはローラさまに、我が決意の証として差し出すのです! 私の娘は妻に似て器量良しです。どうかご理解ください」
「……!」
エリーは不機嫌な顔をしてブルース国王を見つめる。
「御息女が、お可哀想です……」
エリーは機嫌の悪い顔をして少し厳しい口調で言った。
(まあ、私も生まれで自由がないのはエイダ王女といっしょだけどね)
ブルース国王は戸惑った顔をして言う。
「エイダは我が国の王族なのです。国のために尽くすのは当然のことです。エイダは理解してくれています」
エリーはエイダ王女の肩に手を優しく添えて言う。
「エイダさま、おいくつですか?」
エイダ王女はエリーの顔を見つめて小声で答える。
「……じゅ、16です」
「あゝ、そうですか。大変ですね。国のためにね」エリーは相変わらず不機嫌な顔をして言った。
(私と年齢もいっしょか……)
「いいでしょう。ブルース陛下、エイダさまは預かりましょう。ですが、ベランドルでなくグランへお連れして教育を受けてもらう形で」
ブルース国王は厳しい表情から少し顔を緩めて。
「それでは、私どもの申し出受けてもらえるのですね」
エリーは機嫌悪そうに言う。
「今は、無理ですね。これほど気分が悪いことは久々です。ブルース陛下、後日にまた話し合いましょう。それがダメなら今後は無しということで」
ブルース国王が慌てて答える。
「はい、それで結構です。よろしくお願い致します」
ブルース国王はそう言って安心したように、頭を深く下げた。そしてエイダ王女もエリーから離れて、深く丁寧に頭を下げる。
「……! と言うことで次回に持ち越しとします」
エリーはブルース国王に一礼してから、トッドに視線を向ける。
「……」
トッドは表情を変えず頷いた。
「エラン陛下には、ブルース国王陛下はとても友好関係を望んでおられると、お伝えしておきます。それではお話はこれまでとします。よろしいですね」
ブルース国王は微笑み答える。
「はい、ローラさま、今日はご無理を申し上げ、誠に申し訳ございませんでした」
それを聞いて、エリーはブルース国王に一礼する。
「いいえ、国を思っての行動ですから、こちらこそ大変失礼致しました」
エリーはとりあえず笑顔を作って、ブルース国王を見て部屋から出ようとする。
「ローラさま、私をお連れくださるのではないのですか?」
エイダ王女が悲しそうにエリーを見て言った。
「……えっ! あのですね。エイダさま、それは無理です。準備も必要ですしね」
エリーは困った顔をして言うと、エイダ王女は目を潤ませて言う。
「……私は、ローラさまのお近くで、ローラさまのことをもっと知りたいのです。近くで接してローラさまが慈悲深くお優しい方だとわかりました。このような感情は初めてです。どうかお願い致します」
そう言ってエイダ王女は、衝動的にエリーに駆け寄りしがみついた。
エリーはハットして考える。
(しまった! 魔力を通したせいか? ローゼとスキル共用してから何かおかしい? 魅了が自動発動しているのか?)
エリーは顔を少し顰める。そしてエイダ王女を両手で優しく体を離して言う。
「エイダさま、そんなに慌てなくても、逃げたりしませんから」
エリーそしてエイダ王女の瞳を見つめる。そして突然セレーナ精神体の思考が深層から上がって来た。
(え……、どうしたの?)
(その娘は逸材だ! 早急に従者契約を結べ)
セレーナの精神体思考がエリーに呼びかけた。
(血統者としてかなり良い素質を持っている。エリー! 早急ににこちら側に取り込め! ここで見つけられたのは幸運だった)
(……でも、ブルース国王の娘だし、あんまりね。まあ、従者契約を結べば秘密が露呈することはないけど……)
エリーはためらった表情を浮かべて、エイダ王女を見つめながら考えている。エイダ王女はエリーの顔を見て言う。
「……お困りのようなので、申し訳ありませんでした。嫌われるようなことをして……」
そう言ってエイダ王女が悲しそうにエリーから離れようとする。それをエリーが右手を掴み引き寄せて。
「エイダさま、同行を認めましょう! 熱意に免じて……うん、許可致します」
エリーがそう言うと、エイダ王女は満面の笑みを浮かべエリーの手を強く握り返した。
ユーリが少し意外そうな顔をして言う。
「ローラ様、よろしいのですか?」
「ええ、私もエイダさまとお話がしたくてね。明日もいっしょに移動することにしますね」
ブルース国王は、エリーの急な変化に驚いた表情を浮かべて言う。
「……エイダに興味がお有りのようで、私としては嬉しい限りです。よろしくお願い致します」
そしてエイダ王女は嬉しいそうにエリーを見てエリーの左腕に両手を巻き付けて。
「ローラさま、それではお話を」
「……ええ、そうですね」
エリーが少し戸惑って返事をした。トッドが部屋のドアを開けて、エリーが来るのを待っている。
「それでは、ブルース国王陛下、失礼致します」
エリーは深く一礼するとエイダ王女と共に部屋を出て行った。ドアが閉まってしばらく間を置いてブルース国王は行政官に頷き呟く。
「……気に入ってもらったようだな」
そしてブルース国王は息を吐いって言う。
「エイダにはすまぬことだが、頑張ってくれることを祈るばかりだ」
ブルース国王は悲しい顔をする。
「陛下、エイダさまが、ローラさまの序列に加われば我が国は安泰です。それにエイダさまも嬉しいそうにされていたではないですか」
行政官がブルース国王を気遣うように言った。
「しかし、ローラさまのハーレムは容姿ばかりでなく、武、魔法、智と要求レベルがかなり高いと聞く。情報によれば同行しているユーリ殿は序列3位者だそうだ。ユーリ殿もかなりの強者だそうだがそれでも3位とは……、末席でも加われば良いのだが」
行政官は、不安そうなブルース国王を見て言う。
「大丈夫ですよ。エイダさまも王家血統者です。魔法適正も有りますし、それに何よりお美しいですから」
「そうだな、もう一度エイダに会って、よく言い聞かせておかねばならんな」
ブルース国王は椅子にどかっと座って天井を見上げる。
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