第218話 巡洋艦アテナ
グラン連邦国海軍、最新鋭巡洋艦アテナ号、そして艦長クレア・トーラス
ここはグラン連邦国デーン港より100キロほど沖合。洋上において、最新鋭ミサイル巡洋艦
アテナ号が慣熟航海訓練を実施していた。
アテナ号ブリッジ内。艦名金属プレートには【グラン連邦国海軍、巡洋艦−CAM001 アテナ】と記されされている。キャプテンシートに座る白の海軍軍服女性上級士官に伝令士官が近寄り、姿勢を正して敬礼する。女性上級士官の軍服の両肩についている階級章は、銀色ベースに黒枠、中央に黒線一本の金星が2個入っている。階級は中佐だ。
「トーラス艦長! 艦隊司令部より連絡指示書です」
そう言ってファイルバインダーを手渡した。
上級女性士官はバインダーを受け取り、直ぐに視線を走らせ確認する。
「……了解した。返信を頼む。指示通り帰港すると」
そう言って女性艦長は、バインダーを伝令士官に返した。伝令士官は女性艦長に敬礼すると、直ぐに離れてブリッジから出て行く。
直ぐにブリッジの端で双眼鏡を首に掛けた男性士官がキャプテンシートに座る女性艦長に話し掛ける。肩の階級章は少佐。
「艦長、帰港命令だけですか? 他に何か」
「……あゝ、外事局課長と面談がある」
女性艦長は表情を変えず無表情に答えた。話し掛けた金髪の短髪男性士官は艦長を見て更に尋ねた。
「……外事局? 今後の大規模作戦についてでしょうか?」
女性艦長は前を向いたまま答える。
「タイラー副長、私には分からん。詳細は聞いていない。明日、帰港前に各長を会議室に召集してくれ」
金髪の男性士官は敬礼して答える。
「はっ! 明日0800招集伝達します!」
女性艦長は視線を少し金髪男性士官に向けて頷き言う。
「あゝ、それで構わん」
そして無表情にまた前を向いた。金髪のタイラー副長と呼ばれた男性士官はしばらく女性艦長の横顔を見つめる。女性艦長はグリーンの髪色ショートボブヘア、茶色の瞳で顔立ちの整った美人だが無表情で瞳も感情が読めないため冷徹に見える。
女性艦長が隣りの副長が離れようとすると、声を掛ける。
「話がある。艦長室まで来てくれ」
タイラー副長は立ち止まり女性艦長を見て答える。
「はっ! 了解しました。直ぐ……でしょうか?」
女性艦長はキャプテンシートから降りて言う。
「あゝ、直ぐだ」
女性艦長は前方の少佐の階級章のついた士官に声を上げる。
「航海長! 副長と席を外す。しばらく指揮を頼む」
前方にいた。航海長と呼ばれた海軍少佐が敬礼して答える。
「はっ! 了解しました!」
そして女性艦長トーラスはブリッジ横のエレベーターへ乗り込む。慌てて金髪のタイラー副長もエレベーターへ乗り込んだ。エレベーターは5人乗りで狭い空間だ。女性艦長は奥に乗り、タイラー副長は背を向けてエレベーターのスイッチ操作をする。トーラス艦長は相変わらず無表情にそれを見つめる。
女性艦長トーラスが出て行ったブリッジは、海軍将兵達の張り詰めた空気が一瞬緩む。
「……タイラー副長、大丈夫ですかね。何かミスでも……、叱責もいい加減にしないと」
ブリッジ要員士官の1人がポツリと言った。
「……」
ブリッジは静まり返り誰も口を開かない。30代前半のガッチリした航海長がレーダースコープの前に立ち声を上げる。
「本艦は予定周回航路目標を通過後、1900より夜間対潜演習を行う! 指示があるまで警戒体制は現状のまま!」
操舵士、警戒監視士官が同時に声を上げる。
「はっ! 了解!」
そしてブリッジはまた静かになった。
艦橋エレベーターは直ぐに甲板下層1階で停止してドアが開く。トーラス艦長がエレベーター降りるとタイラー副長がそれに続く。艦内通路に出ると直ぐに士官が通路端に避け、敬礼してトーラス艦長の通過を待っていた。トーラス艦長とタイラー副長は敬礼して通り過ぎる。
そして艦尾方向へ進み、艦長室の前に来ると金属レバーノブを回してドアを開る。トーラス艦長が目でタイラー副長に入るように即した。
タイラー副長はそれに応じて直ぐに艦長室に入室した。トーラス艦長も後ろから続き入室するとドアを閉めてロック施錠をカチンと回した。
ドアが閉まったのを確認してトーラス艦長がタイラー副長のそばにより、抱きついて上目遣いでタイラー副長の顔を見つめて言う。
「……もう、ほんと、自分を偽るのも息が詰まります……、こんな新鋭艦の艦長だなんて、冗談にも程がありますよね」
トーラス艦長の声のトーンは、別人のように可愛くなった。そして雰囲気も柔らかくなって少し緩んでいる。タイラー副長は屈むとトーラス艦長を抱き寄せ、お互いの唇を合わせキスを始めた。タイラー副長が手を回してトーラス艦長の軍服の上から胸を揉もうすると、トーラスは右手でその手を押し下げる。そして唇を離すと。
「……うう……これ以上……やめて」
トーラスは困った顔をして視線を下げた。タイラー副長はさらに力を入れてトーラスを引き寄せる。
「あゝわかっている……クレア、お前が愛おしくてしょうがないんだ」
タイラー副長は少し顔赤らめ興奮した顔をして言った。
「……うん……じゃあね」
トーラスは少し怒った表情でタイラー副長と、抱き合ったまま艦長室のデスクの奥へ押し込む。そして少し間をおいて。
「ほんと……いつになったら、ご両親に紹介してくれるのですか? あのジェーンでさえ結婚して子供がいるのに……私をどう考えているの? もういい加減ね! 待つのも限界なんですよ」
タイラー副長は少し虚な顔をしてトーラスを見て呟く。
「……く、クレア……も、申し訳ないな……」
トーラス艦長は少し機嫌の悪い顔をして囁く。
「……謝らないで、もういい!」
そして、艦長室の電話呼び出しブザーが鳴った。ブザー音が室内に鳴り響く。トーラスは慌てて受話器を取る。そして呼吸を整えて。
「……トーラスだ!」
『こちら戦闘指揮所! 未確認潜航体確認! 至急戦闘指揮所へお越しください!』
「潜航体? ……潜水艦では、了解した! 直ぐ行く」
そう言って、トーラスはタイラー副長を見て頷くと、いつもの冷たい表情に戻って言う。
「タイラー副長! ブリッジは任せる! 私は戦闘指揮所へ向かう」
トーラス艦長は鏡を見て少し乱れた髪型と軍服を整えると慌てて艦長室から出て行った。ひとり残ったタイラー副長はハット息を吐き呟く。
「……クレア……お前は俺には……」
そしてトボトボと艦長室から出てブリッジへと向かう。
トーラス艦長は艦橋甲板下層、戦闘指揮所ドアハッチを開けて内部に入る。室内には20名ほどの戦闘指揮所要員がいる。トーラス艦長が入室すると、全員が一旦作業を中断して立ち上がりトーラス艦長に敬礼した。
トーラス艦長は敬礼すると、砲雷長に言う。
「どうなっている!?」
砲雷長は横に来ると直ぐに報告した。
「……つかず離れず追尾されております。共通コードで呼び掛けを行いましたが応答は有りません。敵か味方か不明です」
トーラス艦長はそれを聞いて直ぐに指示を出す。
「只今より、第一戦闘配備に移行! 砲雷長! 伝達せよ!」
「はっ! 伝達します」
砲雷長は直ぐに艦内マイクを持ち、非常警報を鳴らして。
「総員! 第一戦闘配備発令! 繰り返す! 第一戦闘配備発令! 総員! 持ち場につけ!」
艦内の警報が鳴り響き艦内が慌ただしくなった。トーラス艦長は耳元の髪をかきあげてヘッドセットを装着すると、隣りの砲雷長を無表情な冷たい目で見て言う。
「砲雷長! 艦隊司令部に繋いでくれ」
「はっ! 艦隊司令部に繋ぎます」
砲雷長は通信下士官に指示を出す。
トーラス艦長は、艦隊司令部の通信回線接続を確認して言う。
「こちら艦籍No. 【CAM001 】アテナ、艦長クレア•トーラスです。艦隊司令、ボーゲン少将に至急繋いでください」
『はっ! トーラス中佐! 直ぐお繋ぎします』
直ぐに応答が入る。
『ボーゲンです。トーラス中佐、何か問題ですか?』
ヘッドセットから聞こえる声は緊迫感が全くない。
「ボーゲン少将、現在本艦は正体不明潜航体の追尾を受けております。不測の事態発生時は戦闘の許可をお願いします」
『……トーラス中佐、戦闘許可は出します。ですが、相手が情報収集が目的である場合を考えて、極力、実力は見せないようお願いしますね。貴女ならまあ問題なく処理してくれるでしょうが』
トーラス艦長が珍しく表情を変え不機嫌な顔をする。
「ボーゲン少将、了解しました。それでは、可能性があれば拿捕します。あとは、増援と哨戒機の支援を要請します」
『トーラス中佐、了解した。至急支援を送る。哨戒機は直ぐ出せるかわらんが急がせよう』
「ボーゲン少将、よろしくお願いします」
そう言ってトーラス艦長は通信を切った。砲雷長を見て言う。
「対潜戦闘許可! 全兵装システム使用許可! 攻撃前兆があったら直ちに攻撃しろ! 確実に仕留めるようにだ」
「はっ! 了解しました!」
砲雷長は直ぐに答え、戦闘指揮所要員に指示を出した。
トーラス艦長は砲雷長の耳元で呟く。
「万が一だが、備えはしておく。システム起動準備はしておけ」
砲雷長は強張った表情で、トーラス艦長の顔を見て。
「……はい、しかし、よろしいので」
「あゝ、そのために私がいるのだ」
トーラス艦長はいつものように無表情で感情が読めない。砲雷長は頷き言う
「はい、スタンバイしておきます」
「頼む」
トーラス艦長はそう言って、戦闘指揮所のキャプテンシートに座った。
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アテナ号諸元
巡洋艦【アテナ号】 CAM-001
艦種 ミサイル汎用型巡洋艦
全長175m全幅22m
最高速度35ノット
対地対艦長距離ロケット弾射出レール機搭載、近距離対艦対地ロケット弾射出装置50基 15cm 単装速射魔道砲2門 対潜爆雷射出装置10基 3連装魚雷発射管2 魔導反射式対艦対空探知機3基装備 対潜魔道探知ソナー2基 魔導融合炉タービン4基装備 魔道高出力コアモーター1基 魔道大型バッテリーパック搭載
防御魔道シールド展開装置2基搭載
後部発着甲板攻撃型垂直離着陸機ベルーダⅡ2機搭載
乗員280名(内航空要員25名)
グラン連邦国軍最新鋭一号艦
対アクセリアル艦艇、20年前の旧式艦艇相手なら単艦で艦隊を相手に蹂躙、出来るレベルの性能を有している。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!
これからも、どうぞよろしくお願いします。