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第216話 トッドの思い

 2国間和平交渉会議10日目早朝。


 ここはべランドル帝国帝都ドール市ドール城、皇帝居住エリア、エリー居室。


 エリーはすでに皇帝護衛隊の軍服を着用し、椅子に座って紅茶を飲んでいた。テーブルの反対側には、トッドとユーリが椅子に座って2人で話しをしていた。


 エリーは紅茶カップをテーブルに置いて言う。

「ブラデールのダルーカ宰相とは話はついているのですね。ブルース国王との謁見は私なのですか? エランお姉様の方が良いと思うのですが」


 トッドがエリーを見て答えた。

「ライド外務卿からの依頼です。あちら側からの要望だそうです。先ずは、ブルース国王がローラ様とお話がしたいという事でした」


 エリーは面倒くさそうに言う。

「ブラデールはベランドルとはあまり関係は良くありませでしたね。どういった意図でしょうか? 私などよりライド外務卿の方が良いと思うのですが……」


 トッドはエリーを見て微笑み言う。

「ローラ様がベランドルの重要人物だと、認識されているのでしょう」


 エリーはそれを聞いて嫌な顔をする。

「ハリーさんの情報操作の影響ですね。まあ、予定通り進んでいる証拠なのでしょうけど……、私としては少し気が重いですね」


 ユーリが嬉しいそうにエリーを見て言う。

「喜ばしい事です! エリー様はいずれ大陸の頂点に立つお方です。問題有りません」


「……!?」

 エリーは嫌な顔をしてユーリの顔を見た。トッドはユーリに視線を向けて、少し厳しい口調で。

「ユーリ! エリー様の真意を理解していないのですか! あなたは何年もお側に居てまだそのような事を」


 ユーリは少し動揺したような顔をしてトッドを見て言う。

「……はい、申し訳有りません。エリー様の願いは、人々が穏やかに過ごせる世界を作ること! 決して支配者になることでは、無いとはわかっております。ですが……私は、エリー様が統治してこそ、素晴らしい世界が訪れると思っております」


 トッドは戸惑った顔をしてユーリを見る。

「……ユーリ……、全てをエリー様に背負わせるつもりですか? なぜ……エリー様を解放させてあげられないのですか? エリー様だって頑張りが永遠に続く訳では、無いのですよ」


 エリーはその言葉に嬉しそうな顔をして。

「ええ、その通りです。私だって万能では無いですからね」


 ユーリは悲しそうな顔すると、顔を伏せる。

「……」


「ユーリさん、私に期待してくれるのは、ありがたいです。でもね、私は統治者には向いていないと思うだよ。冷酷非道にはなれないから……それは上に立つ者としては、致命的欠陥だと思うだよね」

 エリーはそう言って、椅子から立ち上がりユーリの肩に手を添えた。ユーリは顔を上げてエリーの顔を見て頷き。


「……エリー様、申し訳有りません。出過ぎた物言いでした」


「ユーリさん、気にしなくて良いよ。私のこと考えて言ってくれてるんだよね」

 エリーは優しくユーリに微笑み言った。


「……はい、エリー様の願いは私の願いです」

 ユーリはエリーの瞳を見つめてそう言うと、エリーの右手を握りしめた。


(ユーリさん……純粋過ぎる。危険だなぁ……)

 エリーはユーリの顔を見て思った。そしてエリーはポンとユーリの肩を軽く叩き、椅子に再び座った。


「……」

(お偉いさん……面会……ああ、めんどう)

 エリーは、はーーっと息を吐き、トッドを見て言う。


「あの、他にも何か?」

 エリーはトッドの様子を見て勘づいた様に尋ねた。


「エリー様、あとでお伝えしようと思ったのですが……、はい、ジョン代表から連絡がありました。中枢院アーサー様のご依頼だそうです」

 トッドがエリーに少し気遣った様に遠慮に言った。


「……アーサー様から?」

 エリーは考えるような顔をして、トッドを見る。


「詳細はまた、移動中にお伝えいたします。マティオ関連です。今後の資材調達に関わる事項かと」


「ええ、了解です」

 エリーは嫌な顔をしてハット息を吐いた。


「そろそろ、出発の時間です。エリー様」

 ユーリはそう言って、エリーの顔を見て椅子から立ち上がる。エリーは頷きトッドに視線を向け微笑み言った。


「では、今日も頑張りますので、よろしくお願いします」

 エリーは椅子から立ち上がり、横に置いていた防寒ジャケットを着込んだ。トッドが先に部屋から出て行くと、エリーは棚から拳銃ホルダーを取り出して腰に装着する。そして軍刀を右手に持って、ユーリを見て声を掛けた。


「では、行きますか」


 ユーリは頷き、エリーの後ろについて部屋から廊下に出ると、そばに寄り視線を下げて言う。

「先ほどは、申し訳有りませんでした。余計な事でした……エリー様の気持ちも考えずに」


「……うん、そうだね。本心から言えばね。あんまり目立ちたくはないんだよ。そこは理解してもらえると嬉しいな」


「……」

 ユーリはエリーの隣で歩きながら頷いた。


 ◆◇◆◇


 ここはグラン連邦国首都べマン市北区の高級住宅街、大きな塀に囲まれた屋敷。


 アーサーは早めの朝食をとりながら、資料に目を通していた。傍に立っている執事長に言う。


「今回の件、エリー様にはご足労掛けるがしょうがない。ベランドル帝国大魔道士ローラを演じていらしゃるようですが、周辺諸国の認識はエラン陛下を後ろで操っている様に思われているようです。あまり、私としては好ましくないのですが」


 執事長は直立不動のままアーサーに言う。

「どうやら、ブラウン商会のハリー殿の計画のようです。しかし、予想以上に名前が広まり大きくなった感があるように見受けられます」


 アーサーはコーヒーカップをテーブルに置き少し微笑み言う。

「まあ、良いです。民衆は常に英雄を求めるものです。エリー様ならこなせるでしょうが」


「はい、わたくしもそう思います」

 執事長も同意した。


「ですが、必要以上に大きくなり過ぎるのも考えものですよ。期待値が高過ぎると、反動も大きいですからね」

 アーサーは執事長を見て微笑み言う。執事長は頭を下げて言う。


「ですが、余計な動きは出来ないと考えます。勘ぐられても困りますから」


「わかりました。しばらくは静観で良いです」

 アーサーは執事長に答えた。


「はい、承知致しました。ジョン代表にはそのようにお伝え致します」

 執事長はそう言って一礼すると部屋からで行った。アーサーはドアが閉まると呟く。


「ローゼ様はどこにおられるのか……、ご指示を仰ぎたいのですがね」

 

 そしてアーサーは目を閉じた。

 


最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!

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