第204話 エリーの本当の誕生日
エリーは食事に出掛ける。
2国間和平交渉会議8日目午後。
ここはエルヴェス帝国首都ルーベンス市西区市街地。
エリーは午前中のライオネル諜報拠点殲滅作戦を終え、少し遅い昼食を街の飲食店で取ろうと皇帝護衛隊車両で走行していた。午前中に拘束した、ライオネル諜報機関員は、全員とりあえずベランドル帝国収容施設に送られる。
「お店はエルヴェス軍の士官さんに聞いたので」
ユーリが運転しながら嬉しそうに言った。
「どんなお店ですか?」
エリーは後部席から嬉しそうに尋ねる。
「庶民のお店ですが、美味しいお店だそうです。特にエリー様のお好きなパスタソースが絶品だとか」
ユーリはハンドル切りながら答えた。士官車両には助手席のリサ、後部席にエリー、サディが同乗している。市内はエルヴェス第1軍2個師団により完全に平静さを取り戻していた。昨日の反乱が無かったかのように、市民の様子は平穏そのもの見受けられる。エリーは市内の様子を見て思った
(ホント手際が良すぎる。ベランドルは良いように使われた……策士ニース大将に)
エリーが窓の外を見ていると市民が手を振っているのが見える。
「……?」
〈ベランドルの女神さま!〉
市民が叫んでいる声が聞こえた。
「?……女神」
隣のサディが少し笑て言う。
「昨日から市内で広まっているようです。カールデン陛下を救った、ベランドルの女神さまと」
エリーは少し口を緩めて言う。
「あゝ、ニース閣下だね。こんな話広めて」
エリーは運転するユーリを見て尋ねる。
「お店の紹介はニース閣下ですね。」
「はい、エリー様が喜ぶだろうと、それと警備体制は万全を尽くしますから、軍服を着て皇帝護衛隊の車両を使用してくださいとも」
「完全に利用されていますね」
エリーは呆れた顔をしてサディを見た。
「よろしいのでは、こちらとしても良好な関係がアピール出来るではありませんか」
サディは真面目な顔をして言った。
「ええ、理解してますよ。でもねあのニース閣下に少し腹黒さがあればね」
「……?」
ユーリが不思議そうな顔をする。
「気にしないで、本人にも伝えたから」
エリーはバックミラーでユーリの顔を見て言った。
皇帝護衛隊の白い車両は角を曲がって目的の飲食店に到着した。車両が止まると入口から数人が慌てたように近づき頭を下げてきた。
「……!?」
5人ほどが車両の近くに並び1人が声を発した。「ベランドル皇帝護衛隊の皆様! ようこそお越しくださいました!」
そう言って再び全員が頭を下げた。
皇帝護衛隊車両から4人がおりると、並んでいた飲食店従業員のひとりが、ユーリに話し掛ける。
「少佐さまですね。ではみなさまご案内致します」
従業員は皇帝護衛隊の白い軍服階級章を見て、ユーリが上官だと思ったのだろう。今日の軍服はエリーは中尉、リサは少尉、サディは中尉の階級章を付けている。相変わらずサディは雰囲気を偽装し25、6才にしか見えない。もちろん、エリーもしっかりローラと気付かれないようマリアに偽装している。
エリーは従業員を見て一礼する。
「美味しいパスタソースがあるとか」
「はい、準備しております」
女性従業員が笑顔で答えた。エリーは従業員を観察して直ぐに察した。
(あゝ、これはニース閣下が手を回しているね)
店に入ると客は誰も居ない。店内には従業員以外見当たらない。ニース大将が貸切の手配をしたのだろう。
「ではこちらのテーブルに」
従業員達が椅子を引き案内された。
(……ここそんなお店なの?)
エリーは首を傾げた。
「メニューをいただけますか」
ユーリが従業員に声を掛ける。
「メニューはすでに決定されております」
女性従業員が笑顔でユーリに答える。
「……お任せと言うことですね」
「はい、そのようになっております」
エリーは椅子に座り周囲をゆっくり確認する。
(なんか、店の雰囲気と従業員も合わないし、なんとなく予想外のことが起こりそうな……)
エリーが考えた顔をしていると直ぐに皿が運ばれてくる。
(そうか! 料理はお任せだものね。準備してたんだ)
「キノコのパスタ特別ソースでございます」
給仕の女性がテーブルに皿を置いて言った。
「ではいただきましょう!」
エリーがユーリ達を見て言う。
「はい、そうですね。では頂きます」
ユーリが頷き言った。フォークを取りパスタを口に運ぶ。
エリーは直ぐに驚いた顔をする。そして声を漏らした。
「……ボーグさんの味……なんで」
驚いている店の従業員達が一斉に退出した。
(……なに!?)
ユーリ達も驚いた表情をしている。
そして店内に皇帝護衛隊部隊員が20名ほど入って来て整列した。入口からドール市にいるはずのセリカが入って来て敬礼する。
「エラン陛下が直接お祝いしたいと、サプライズです」
エリーが驚いた表情でセリカを見て言う。
「え……サプライズ?」
そして入口からエランがゆっくり歩いてエリーに近づき微笑む。
「16才の誕生日おめでとう! あなたの本当の誕生日、姉として初めてまともに祝ってあげれたわね」
エリーは動揺したように瞳を大きく開いている。エランはエリーの手を優しくとって見つめる。
「ハリーさんと相談して秘密裏に進めたの。あなたの従者に知られたら漏洩の恐れがあるからね。もちろんニースさんにも協力してもらったわ」
エランは嬉しそうにエリーを見る。
エリーの誕生日はベランドル王国第二王女誕生日より2ヶ月ほど早く登録されていた。本当の誕生日は10月21日つまり今日だ。
「エランお姉様……そうだね! 今日だったね。忘れてたよ……」
エリーは少し感動している様子で言った。
「良かった。喜んでくれて」
エリーはエランを見て少し怒ったような表情をする。
「……帰ってからでもよかったのに、今は大事時期ですよ」
「……今日じゃなくては意味がないでしょう! 姉としてどうしても妹の誕生日を祝いたかった。そしてエリーと私が来年も無事で祝えるかどうかわからない……だからです」
エランが少し寂しそうに言った。エリーはそれを聞いてエランを抱きしめた。
「大丈夫……絶対……そなことにならいから」
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