第195話 エルヴェスの反乱
エルヴェス帝国、反皇帝派が動き出す。
2国間和平交渉会議7日目午前中。
ここはエルヴェス帝国首都ルーベンス市、皇帝宮殿大広間。皇帝宮殿は周囲5キロほどを堀と塀で囲まれたエリア内にある。その内側にさらに塀で囲まれた場所に皇帝宮殿は建っていた。
そして本日、帰国後すぐに皇帝カールデンからベランドル帝国との新条約説明が行われるため。官僚と有力諸侯が大広間に集まっていた。警備体制は通常より大幅に増員されている。
エリー達は宮殿に30分ほど前に着いてから悟られない様、準備を進めている。
エリーは宮殿内のエルヴェス近衛将兵をさりげなく観察して思っていた。
(予定より数が多いですね。市街地内にはニース大将傘下の1個師団を秘密裏に展開させていますが抑えれますかね? まあ、圧倒して戦意喪失させて頭を獲れれば、あとはどうにかなるかな)
エリー達の扱いは、ベランドル帝国親善訪問としてエラン皇帝護衛隊員が訪問した形をとっていた。代表はビア副隊長が務めている。そして大魔道士ローラ、皇帝護衛隊隊長セリカは今回、訪問しないことになっている。
そしてエルヴェス帝国国内には、大魔導士ローラ様、皇帝護衛隊隊長セリカは、とんでもない実力者だが、あとの女性部隊員は容姿メインで選抜しており技量はそれ程でもない外見重視の宣伝部隊だと、ブラウン商会諜報機関員、アンドレア魔道諜報員によって流布されていた。諜報の仕込みの効果によりエルヴェス近衛将兵のエラン皇帝護衛隊を見る目は緊張感の無いものだった。現にビア副隊長、ユーリ、リサ、エリーの容姿レベルは極めて高く、その噂を納得させるものだった。そして噂の中には、夜の相手もさせられているものもあった。ここでは容姿の良いものはハーレム要員と認識されていたのである。
エリーは魔導士ローラとしての露出が多く、顔を認識されている恐れがあるので、化粧と髪型を変え、さらに隠蔽魔法で雰囲気を大きく変えていた。20代前半の清楚なお嬢様キャラを演じている。名前はマリア・グレースと名乗った。もちろん、皇帝カールデン、ニース大将には話は通っている。
そして、ルーベンス市郊外には、ニース大将の配下部隊と共にアンジェラ、セーヌ、ソアラの重装機兵がいつでも出撃出来るよう待機していた。
リサが周囲に声が漏れないようエリーに顔を近づけて囁く。
「部隊配置完了しました。あとは合図があれば市内に突入します。……それにしても、視線があまり良い印象ではないのですが……」
リサが少し嫌な顔をした。エリーは(あゝ……)みたいな顔をして囁く。
「ええ、諜報工作の結果でしょうね」
「……男て……」
リサは口を隠してエリーに言った。
「……こちらを侮ってくれるのは、良いのですが。私達を見る目はなんかもう、嫌です」
「まあ、もう少しすればそれが間違いである事を知るでしょうが」
エリーは微笑み囁いた。そして大広間に皇帝カールデンが入口よりニース大将を傍に入場して来た。エリー達エラン皇帝護衛隊メンバーは、大広間の来賓エリア並んで入場と共に気品のある一礼する。エリー達に目を奪われる大広間の官僚や有力諸侯達。そしてエリーは特に目立っていた。女神スキルを発動して幻惑、魅了していたのである。
(ローゼのチカラ、試させてもらうわよ。……でも凄い! 広間内の敵意や好奇の感情が柔らかい好意の感情に変化していく。そして私を見る目が……)
そうしている間にカールデンは一段高い壇上に上がり一礼すると、皆に挨拶をして条約の説明を始めた。
◆◇◆◇
ここはエルヴェス皇帝宮殿近衛師団本部、師団長室。
近衛師団長が連絡士官から報告を受け頷き、奥のソファーに座っている財務卿と内務卿に声を上げる。
「始まった! ここのままやるのだな」
近衛師団長は緊張した声で言い終わると2人の座っている反対側のソファーにゆっくり座った。内務卿が近衛師団長を見て顔を緩めて言う。
「予定が変更になった。ベランドル皇帝護衛隊の女性士官達は全員生捕りにすることにした。すでに第1近衛連隊長には指示している」
内務卿の言葉に近衛師団長が明らかに動揺した顔をする。
「……どう言うことだ。直接指示した!?」
内務卿は足を組み直しタバコに火をつける。
「あゝ、何か問題でも」
内務卿は近衛師団長を見つめていやらしい顔をする。
「ここで殺してしまうのはあまりにももったいない、あのようなおんな……一生に一度逢えるかどうか……だから決めたのだ」
近衛師団長は憤慨した顔で内務卿を見て言う。
「キサマ! 正気か、会場内の人間は全員殺すと言ったではないか」
隣の財務卿が少し嫌な顔をして言う。
「良いじゃないか。内務卿はハーレムを作りたいのだろう!? それぐらい認めてやれよ」
近衛師団長は怒りで顔を歪める。
「おまえ達は、私欲のためにカールデン陛下を殺すのか!? それに私の部下に勝手に指示を出すな指揮系統が混乱する!」
内務卿は近衛師団長を見てバカにしたような顔をして言う。
「おまえはカタイ……人生には楽しみが必要だ。だから、あの護衛隊のマリア•グレース是非とも私のオンナにしたい」
近衛師団長はテーブルを右手で叩き声を上げる。
「なんだ! この国家一大事にキサマら不謹慎過ぎる。私にも考えがある」
近衛師団長は受話器をとり近衛憲兵士官を呼び出す。そして内務卿に目を細めて言う。
「おふざけはここまでだ。おまえ達は収監する。残念だ同志だと思っていたが……」
そうして部屋がノックされ、近衛憲兵隊将兵が5人、部屋に入り敬礼する。近衛師団長が近衛憲兵大尉に言う。
「財務卿、内務卿を逮捕収監を指示する」
「……」
近衛憲兵大尉は反応しない、後ろの憲兵下士官達も動かず直立不動のままだ。
「早く連行しろ!」
近衛師団長がイラついた声で言うと、近衛憲兵大尉が拳銃をホルダーから取り出し、セーフティロックを解除、銃身を近衛師団長へ向ける。
「……な、冗談……」
「私は第1連隊長指揮下にあり、近衛師団長の指示には従えません! なお、貴官は国家転覆、反逆罪により銃殺せよとの命令を受けております」
「……!」
近衛師団長は内務卿の顔を見て顔を歪める。内務卿は口を緩めて言う。
「残念だよ。君が国家転覆を図るとは、もっと早くに気づいて止めてやれれば良かった」
「キサマら……最初から!」
近衛憲兵大尉が拳銃を向ける。そして後ろの憲兵下士官たちが近衛師団長を押さえ込み引きずり部屋の隅まで連れて行く。財務卿が近衛憲兵大尉に言う。
「取り調べ等は必要無い。目立たない場所で処理してくれ」
「はっ! 了解致しました! 失礼致します」
近衛憲兵大尉は2人に敬礼すると師団長室から近衛師団長を連行して行った。
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