第194話 エルヴェス反乱計画
エルヴェスでは反皇帝派が行動を開始した。
2国間和平交渉会議7日目朝。
ここはエルヴェス帝国首都ルーベンス市、近衛師団本部、師団長室。
近衛師団長はテーブルに座るメンバーを見つめて口を開く。
「ついに決行の時がきた! エルヴェスの命運は我々の成否に掛かっている。諸君らの奮闘に期待する!」
5人の近衛連隊長が立ち上がり声を上げる。
〈我らに栄光あれ! 女神ローゼのご加護が在らんことを!〉
そして近衛師団長に向かって揃って敬礼すると各連隊長は師団長室を出て行った。
師団長室には内務卿、財務卿が奥のソファーに座っていた。
近衛師団長は目を細めて内務卿を見て言う。
「もはや後戻りは出来ん、覚悟は出来ているのだろうな!」
内務卿は足を組み直してタバコに火をつけると、一口吸ってから近衛師団長に言う。
「もちろん、密約は守らねばならん。いまさら聞くまで無いだろう」
財務卿は呆れたような顔をして言う。
「ベランドルの小娘の好きにはさせんよ。グランと結んで何をするつもりですか知らんが……まあ、これで巻き返しを図れると思うが! ベランドルとてグランと戦争して国力は低下している。そしてこの政変だ。ベランドル国内基盤はまだまだ脆弱なはず。エランの小娘にひと泡吹かせてやらねばな」
そう言って財務卿はソファーから立ち上がると近衛師団長へ視線を送る。
「カールデン陛下には残念だが、しょうがない。諦めろ」
黒縁メガネをずらして内務卿が近衛師団長を見据えて言った。そしてタバコをガラス製の灰皿に押し付けて消すとソファーから立ち上がる。
「私も準備がある。それでは失礼する」
「……」
近衛師団長は少し緊張した表情で内務卿を見送った。
「私は、ことが済むまで特にやる事はない。吉報を待つだけの身だ」
財務卿はこともないように言った。それを聞いて近衛師団長は少し機嫌の悪い顔をする。
「お気楽だな。それでアダムス卿は大丈夫なのか?」
「ああ、その気になっているよ。国家存亡の危機を救うのだとか言っている……まあ、おw飾りの皇帝には十分使えると思う」
財務卿がソファーに座ってニヤニヤしながら言うと、近衛師団長はさらに機嫌の悪い顔をする。
「そう緊張するな。上手く行くさ。もっと気楽に」
近衛師団長は財務卿を顰めた表情で見て呟く。
「……どうも悪い予感……がするのだよ。胸の中がざわざわして落ち着かない」
財務卿は近衛師団長を嘲るように見て言う。
「お前はいつでもそうだな。緊張し過ぎているだけだ。あと5時間もすれば、みんな笑って話しているだろうさ!」
「……あゝ、そうだと良いな」
近衛師団長はそう言って引き出しから拳銃ホルダーを取り出して、腰に装着した。
「エルヴェスのためだ。カールデン陛下には死んでもらうしかないのだよ。お前が気に掛ける事はない。私とて同罪だ。気にするな」
「……理解している。ただ……情報が正しいかどうか? それが不安なだけだ」
近衛師団長はそう言って財務卿に右手を挙げると部屋から出て行った。
◆◇◆◇
ここはベランドル帝国とエルヴェス帝国国境、ベランドル帝国国境警備隊基地。
エリーはランカーⅡ5号機キャビン内でユーリ、リサと作戦行動の打合せを行っていた。
リサは今回の作戦、諜報統括責任者としてユーリと綿密に擦り合わせを行い作戦を立案していた。エルヴェス帝国とライオネル共和国両面同時進行作戦、ひとつ目はエルヴェスでのクーデターの阻止、反皇帝派の一掃。ふたつ目ライオネル共和国内、対ベランドル帝国諜報工作部隊の殲滅を目的として行われる。
リサはエリーを見て真剣な顔をして言う。
「大歓迎をして下さるようです。ルーベンス市ではパーティーの準備を整えている真最中ですね」
「カールデン陛下は、余りにも放っておき過ぎた見たいですね? 本当にもうちょっとやりようがあったと思いますが……まあ今回は時間が無いので、カールデン陛下に肩入れしますが」
エリーは少し嫌な顔をして言うとユーリにA4サイズのファイルを渡す。
「今回の同盟関係の改善条約だって、ベランドルを利用して国内状況の改善を図るのが目的ですよね」
ユーリがファイルに目を通しながら言った。エリーが嫌な顔をして収納箱からボトルを取り出して言う。
「あのカールデン皇帝……バカそうに見せてるけど、したたかだからね! 口から出た言葉を鵜呑みには出来ない。まあね。今回はしょうがないから助けるけど……ほんと良いように利用されている」
エリーはボトルのキャップを取るっと水を一口飲んでユーリを見る。
「どうですか? レンベルは間に合いそうですか」
ユーリはエリーの顔を見て微笑む。
「はい、技術工廠での調整は完了しています。微調整は現場で行うとのことで、すでにドール市に輸送中です」
エリーは一気にボトルの水を飲み干すとリサを見て微笑み言う。
「ライオネル共和国での作戦では、レンベルが使えそうです。搭乗はソアラちゃんにお願いするつもりです」
ユーリはエリーを見て囁く。
「……やはりソアラちゃんは、女神因子を持っているのですね」
「そうだよ、ソアラちゃんは可愛いだけじゃないんだよ」
エリーはちょっとふざけたように言った。
「それではまず、カールデン陛下の暗殺阻止ですね。みなさんよろしくね。今回は電撃棒バージョン3を使います。これ凄いんですよ! 一撃で何十人も無力化出来るです……ホント」
エリーは凄く嬉しそうにリサとユーリを見て言うと、ユーリ呆れたような顔をして言う。
「ダメですよ。そんな楽しそうな顔をしては」
エリーはちょっと顔を傾けて不思議そうな顔をした。
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