第193話 クラリスの心配
2国間和平交渉会議7日目早朝。
ここはべランドル帝国帝都ドール市、ドール城、皇帝居住エリア内エリーの居室。
エリーは目を覚ますと隣ですやすや寝ている、ソアラの可愛い寝顔を見て顔を緩める。
(……ほんと憎めない……私のことどう思っているのか? まあ、しばらくは目的は合致しているから敵対することは無いけど……)
そうしてエリーは起き上がるとシーツをソアラにかけ直す。
(今日は、いよいよエルヴェスだね)
エリーは立ち上がり髪をかき上げると、髪を纏めて髪留めをつけた。そして振り返りソアラのほうを見るとソアラがこちらを見ていた。
「……あ、起こしちゃった?」
「……」
「エリー、もう少しゆっくりしたら、今日も忙しいでしょう」
「……日課だからね。体の動きを確認しとかなとダメなんだよね」
エリーはそう言ってパジャマを脱ぎ捨て、クローゼットから修練着を取り出し着込んだ。
ソアラはベットから起き上がり寝ぼけ眼で言う。
「……それなら、私も付き合います。ちょっと待ってください」
「無理して付き合わなくて良いよ」
エリーが素っ気なく言うと、それを聞いてソアラはすぐにベットから立ち上がり、慌てたようにクローゼットから修練着を取り出す。
「いいじゃない! 付き合うから」
ソアラは直ぐにパジャマを脱いで修練着に着替えた。エリーはしょうがなさそうにソアラの背後にまわるとクシで髪をとかし始める。
「ボサボサだよ。髪くらいまとめないと……」
「……あ、ありがとう。エリー、なんか優しいね」
ソアラが少し嬉しそうに言うと、エリーは口を緩めた。そうして髪をまとめ後ろで括った。
「出来たよ!」
「エリー、ありがとう」
ソアラは上目遣いでエリーを見つめるとエリーは右手でソアラの頭を優しく撫でる。
「それじゃ行くよ」
「……ええ」
エリーとソアラは並んで部屋を出て行く。
◆◇◆◇
ここはライオネル連合共和国、オーリス市中央区外交局本部、外交局諜報分析室。
「……アルティ、どこっ!?」
クラリスは悲しそうな顔ををして声を漏らした。後ろから肩に女性諜報士官が優しく手を触れて言う。
「クラリス大佐……アルティさまはきっと大丈夫です……きっと」
クラリスは女性諜報士官の腕に触れて言う。
「ありがとう……」
「死亡の報告は有りませんから、国外に脱出されたと思います。アルティさまは使い手です。そんな簡単にやられたりはしないですよ」
女性諜報士官はクラリスの顔を見て慰めるように言った。クラリスは少し微笑みを浮かべて言う。
「あなただって昨日から一睡もしていないでしょう。もうやれる事はやったから……休んでください」
クラリスは部屋の椅子から立ち上がり女性諜報士官を抱えると、部屋の外へ押し出す。
「食事と……仮眠をとって、2時間くらいはOK! だから」
「はい……クラリス大佐! 少し席を外します」女性諜報士官は敬礼すると諜報分析室から出て行った。
クラリスは部屋に戻ると連絡下士官から報告を受ける。
「グロリアさんが離脱、アルティさまの無事を確認とのことです。その他メンバーは確認出来ずとのことです。なおグロリアさんは一旦エルヴェスに離脱するとのことです」
その報告を受けてクラリスは安堵の表情を浮かべる。
(……アルティ、良かった。私の強引な作戦で大切な妹を失うところだった。本当に良かった)
クラリスは連絡下士官を見て尋ねる。
「グロリア師匠はなぜ? 直接こちらに帰国しないのですかね!? ……追っ手がいるのでしょうか」
「説明は聞いておりませんが。その可能性は高いかと」連絡下士官はすぐに答えた。
「でも、作戦B展開中のエルヴェスとはちょっと問題があるような?」
後ろでヘッドセットを着用して、情報端末を操作していた、諜報士官がクラリスを見て言う。
「エルヴェスの政変に、ベランドル帝国を巻き込めるのは、好都合では有りませんか!」
クラリスは作戦Bの進行状況の詳細は把握していない。作戦Bは局長配下の諜報要員が行なっているからだ。
「私も一旦休憩してから……局長に報告しておきます。悪いですけど、お願いします」
クラリスはヘッドセットを装着した諜報士官に敬礼すると分析室から出て行く。クラリスは部屋から通路に出ると息を吐いて。
(……良かった……)
クラリスは笑みを浮かべて歩き出す。
(グロリア師匠が失敗するほどの相手……作戦Bも、もしかして気づかれているて……無いわよね?)
クラリスは少し不安がよぎったが、アルティが無事である事が嬉しくてすぐに忘れてしまった。
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