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第191話 サディの衝動

サディは喜びを抑えきれない。

 2国間和平交渉会議6日目深夜。


 ここはべランドル帝国帝都ドール市、ドール城、地下3階層刑務監獄エリア。


 内部の監獄独房エリアは10ブロックほどに区切られ区画ドアが設けられていた。脱走防止と他の収容者の接触を防ぐためだ。


 サディはここがどこなのか、おおよそわかっていた。べランドル帝国にこのような施設はそうない、時間的に考えて、ここはドール城の地下階層監獄と考えていた。


(……ローラさまの背後を突こうとした瞬間、猛烈な圧力を感じて意識を失った!? そこから記憶がない……やはりローラさまは只者では無かったということか……、アルティさまはご無事なのだろうか? ……ローラさまは、殺生を極力避けるお方……だから生きている可能性は高い。それにしてもローラさまは、普段を見ていればあのような膨大な魔力量を有する、魔道士とはとても思えない。魔力量、制御技量共にずば抜けている! 本当に人間のなせるものなのだろうか?)


 サディはベットに座りぼんやり考えていると胸の間が疼くを感じた。監獄服から手を触れても特に腫れとかはない。服の襟を下に引っ張り確認すると、うっすら浮かび上がる魔道紋章を見て動揺する。


(これは……なに、薄くなったり濃くなったり……呪いかなんか!? いえ、違う……魔道教本で見たような!? ……従属の契約……そんな……有りえない。すでに失われた術式! それに膨大な魔力を高濃度圧縮をして対象者に魔道回路を構築する。この世に存在する訳がない……? ローラさま……)


 サディは納得したような顔をして少し顔を緩める。自分の手足に拘束リングが装着されていない事にも合点がいった。


「……ふっ……すごい……この世に」

 サディは侍女長の時見せていた顔でなく、少し何かに魅せられたような妖艶な下品な表情をしている。サディは自分が高揚していることに気づきためらい顔を落とす。

(私……失敗したというのに……喜んでいる!?  なんと不謹慎な……これではクラリスさまに申し訳ない)

 サディは紺色のロングヘアをかきあげため息を吐く。

「……」

 サディは昔のことを思い出す。

(懐かしい……ライオネル王国、王宮魔道士……将来を嘱望され、私はなんでも出来る気がしていた……そして革命が全てを台無しに! だがこれは……私にとって悪くはない)

 そして独房の壁を見つめて嫌な顔をする。自分の中にある、現状を喜んでいる自分の心の反応が大きくなり、それを抑えようとしてもおさまらない事に嫌悪していた。


(……なんだ……私は嬉しくて? 心の衝動がおさまらない)


 サディは魔力を体に流して衝動を抑えようとするが、上手く行かない。そして胸に激痛が走りベットにうずくまる。

「うーーっ!」

 サディは声を漏らし激痛に耐える。サディはなんとなく痛みの原因がわかった。

(……胸の魔道紋章が濃く浮き出て……ここが痛い!)

 サディは魔力を流すのを止めると痛みは治まった。

(……)

 独房のドアが叩かれる。そして金属ドアがゆっくりと開かれると、紫色髪、朱色の瞳の少女が立っていた。サディは目を大きく開いて歓喜の表情を浮かべる。

 それを見てエリーは眉を顰めて呟く。


「とても同一人物とは……侍女長サディさん。いえ、元ライオネル王国、オーリス王宮魔道士、グロリア•ベルベットさんでしたね。10年以上も皇城に潜みエラン陛下の信頼を勝ち得た。すごいですね。全く気づきませんでした」

 エリーがそう言って独房内に入る。サディはベットから立ち上がると両手を前にして深く頭を下げた。エリーは嫌な顔をしてサディを見つめる。


「本当に恐ろしい……あなたは……」

 そう言って間を置いてエリーは冷淡な表情を浮かべる。

「サディさん、あなたには女神の紋章が刻まれています。それは従属の契約です。あなたは一生自由に生きることは出来なくんりました。心も体も全て女神の所有物となったにです」


 エリーはサディの表情を見て少し動揺する。恍惚としてわれを忘れるような感じで瞳はトロンと緩み口元も緩んでいる、まるでエリーを誘惑しているようにも見える。エリーはサディの妖艶さに驚いていったのだ。侍女長のサディを見ていた時こんな感じでは無かった。確かに美人だったが清楚で仕事の出来る女性という感じだったはず。ここにいるのは別人と思うほど違っていた。

「……」

 エリーは喉を鳴らし言う。

「やはり只者では無かったですね。サディさん」

 サディは少し視線を下げてエリーに囁く。

「……恐れながら、ローラさまに評価されるなど……ゴミ同然です」

 そう言ってサディは口元を緩めた。エリーはそれを見て嫌な顔をする。

(やっぱり……サディさん……変態だ!? 魔力に侵されている? こんなに嬉しそうに。作戦は失敗したのに……どうしてこんな感情を発散している! まあいいけど)


 エリーは表情を切り替え感情を消した。

「サディさん、今回の件。エラン陛下は関わらぬと申されました。私に任せると……、それがあなたへのたむけだと。無かった事には出来ませんが! 穏便に処理せよとのことです。まあ、陛下はあなたには思い入れもお有りでしょうが、私には関係ない事です」


 そう言ってエリーはふっと息を吐きサディを見据える。

「サディさん、あなたはこれからベランドル帝国諜報要員として働いてもらいます。とりあえずは、エルヴェスでのクーデターを阻止することが主任務となります。よろしくお願いしますね」

 それを聞いてサディは頭を深く下げて言う。


「はい、ローラさま。わたくしは、エルヴェスの事案の関係者と繋がりがございます。きっとお役に立てると思います」

 そう言ってサディが頭をあげると顔が笑っている。エリーは表情を変えず言う。

「サディさん、あなたはしばらく、私の直轄とします。それと侍女長は一身上の都合で退職したことにしていますので」


 サディは幸福感に包まれた表情をしてエリーを見つめている。エリーはサディから視線を外し嫌な顔をする。


「サディさん、明日また……、まあゆっくり休んでください」

 エリーは背を向けてサディにそう言うと独房からドアに向かった。そしてユーリと視線が合う。通路側には気配を消してユーリが待機していたのである。独房のドアを締めて施錠するとエリーはすぐに歩き出し隔壁扉へと向かう。


「ユーリさん、サディさんは、私がしばらく様子を見ます。彼女は少し危険だと判断しました。落ち着くまではね」


 ユーリは歩きながらエリーの顔を見て言う。

「はい、理解しております」


 エリーは隔壁扉を開けると外部ブロックへと出る。そしてまた歩き出すと、ユーリの顔を見て言う。

「彼女は、内部にいろんな人格パターンが存在していたんだよ。それを演じて私たちを欺いていた。今回、ライオネルの任務に失敗してやるべきことが無くなって……たがが外れたんだよ。そして本性がいま出ている状態てことなんだよね。私の前では誤魔化しが効かないからね」

 ユーリは頷き言う。

「はい、私では手に余る……ことですね。ローラ様がしばらく調整してから、私の配下にと」


 エリーは階層隔壁扉の警備士官に敬礼する。警備士官はすぐにエリーに敬礼すると、操作して重い隔壁扉がゆっくり左右に開いて行く。


「うん、サディさんは変態だから、しばらく調教してまともにしてユーリさんに任せるよ」

 エリーは隔壁扉を通過してからユーリに言った。そしてエリーとユーリは並んで階層エレベーターに乗り上層部へと向かうのであった。

 

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